プロローグ

 私はあの人たちを許すことができない
 私の一番大事な、大切なものを奪っていってしまった…
 二つとない私の…

 ゴロゴロゴロ…
 窓の向こうは雷鳴が鳴り響き、灰色の雲から時折、光が見え、凄まじい荒波に反射している。

 夢なら…、夢なら覚めて…、覚めて欲しい…
 夢なら…

 机の上に置かれた写真立てが割れている。中には写真が入っていたらしいが今はなかった。部屋の中もあちらこちら散乱しているようにも見える。衣装タンスからは服が乱れ、赤い絨毯にもそれは散乱していた。ベッドの上にも何着か、置かれていた。
 けれども、この部屋の主はそれを直すこともないまま、ただただ、心の内で憎悪を造り続けていた。

 あの人たちには死を…
 あの人たちに制裁を…
 私の手は汚れるかもしれない
 けれども、神は心はそれを許してくれるかもしれない…
 きっと許してくれるはず…
 私の悲しみを受け止めてくれるはず…

 主は机の横を見た。切れ味の鋭いナイフが置かれていた。そして、それを手に持った。

 これであの人たちを…
 私からすべてを奪い去ったあの人たちをこれで…

 主は不気味に口を歪ませ、こみ上げてくるさらなる憎悪と共にゆっくりと立ち上がり、窓のそばに近寄った。

 私の怒りは雷、憎しみは灰色の雲…
 そして、荒波は…

 主はそう呟くと、ゆっくりと部屋から出て行ったのである…。

続きを読む(第一話)

戻る


.