『曼荼羅』

薄暗い一室…
窓はあるが雨戸が閉められている
傍らには見知った顔があった
それは事務所に行ったらいつも顔を合わすKさん
この日は奥さんがいないらしく、
僕を家の中に導いてくれた
そして、ある一室へ…
そこは彼のプライベート空間だろうか、
Kさんはゆったりとくつろいでいる
しかし、なぜ部屋の中が暗いのか、わからなかった
僕はKさんを横目にタンスに掛かっているカレンダーを目にした
そこだけがよく見えた
それに近づく
「近づくな…」
僕は聞こえていなかった
なぜなら、その後ろにあるものに気づいたからだ
(これは…)
見覚えがあった
かつて大学で幾度となく見てきた代物だったからだ

曼荼羅

黄金色に輝く曼荼羅がそこにあった
それに手を伸ばした瞬間、声ははっきりと聞こえた
「それに近づくな」
「えっ?」
僕はあまりの声を低さに驚きを隠せなかった
しかし、曼荼羅から視線を外すことなく触りにいく
その瞬間だった…

「あ、あ、あ、あ…」

突然、息苦しくなり、声が出なくなった
目の前は暗くなり、意識が徐々に飛んでいく…
誰かに首を締められている、そんな感じだった
そのとき、後ろでブツブツと声が聞こえた
遠のく意識の中で後ろに視線をそらすと
Kさんが呪文を唱えていた
何て言っているかはわからないがやばいと思った
僕は咄嗟に十字を切ろうと
「臨、兵、闘…」
試みるも途中であまりの苦しさに耐え切れなくなり…
もうダメだと思った瞬間、すっとそれは消えた
恐怖は解放感と共に消えた
そして、後ろで呪印を解いたKさんがまた呟いた
「だから、近づくなって言ったんだ」
そう言うと立ちあがって部屋から出て行った
1人残された僕の視線には曼荼羅の掛け軸があった…


夢を見続ける

夢から覚める


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