『欠片』

井戸…
それはどこにでもある井戸
日本家屋の玄関の横にある小さな井戸
僕はそれをじっと見つめる
井戸の上には何の覆い被せるものがない
周りには草木が生え、地面には小さな石を敷き詰めてある
僕は井戸に近づいた
中を覗くと水が張ってあった
暗い静かな空間に広がる水音
その響きが僕の耳にも伝わる
今にも何かが出てきそうな、そんな感じがする井戸だった…

並木道…
舗装された道に沿って木が並んでいる
少し坂になっているようだ
僕はその道を歩いている
昔、この道には線路が通っていたと誰かが言っていた
今ではそんな風には見えない
ただ、1本の道が全てを物語っている
何かの目的でそこにいたのだろうが
僕には何の記憶も残っていない
ただあるのはそこが廃線だったということ
そして、木が並んでいたこと
その2つの事実だけが記憶として残るのみだ…

旅路…
僕は電車に乗っていた
出入り口付近に立って外を眺めている
外は海だった
電車は海の上に造られた線路を走っているのだ
海は光を反射して眩しく浮かびあがる
しかし、それ以外には何もなかった
地平線まで船どころか泳いでいる人すらいなかった
ただ、電車だけがゴトンゴトン…っと音を立てながら走っているだけだ
黙々と走っていた電車はもうすぐ駅に着くようで速度を弱めていく
ゆっくりゆっくり…っと進んでホームに滑りこむ
僕と反対側の扉が開いた
でも、僕の視線は開かない扉の外に向けられている
外では鉄道関係者が忙しく働いていた
線路の整備をしているようだ
ポイント切り替えの装置も目に入る
幾重にも分かれたレールは駅の大きさを物語る
けれども、そこから電車がどこに行くのかはわからなかった
わずかに記憶に残っているのは
海上に造られた駅、それが全てだった…

異星人…
僕は隠れていた
今、目の前に起きている事に対して動けずにいた
全身、緑の液体で覆われたエイリアンが
両手で1人の男性を持ち上げて飲み込もうとしている
男性の手からはエアガンが落ちた
僕の手にもエアガンがある
でも、撃ったところで効き目があるは思えなかった
エイリアンは男性を飲み込む
あっという間に消化して、次の獲物を探し始めた
僕はその場でエイリアンが通りすぎるのをじっと待っていた…

落下…
目の前が真っ白になった
ものすごいスピードでレールの上を走っている
どうやら、ジェットコースターに乗っているようだ
レールの先はない
ないというより真下に伸びているからだ
高所恐怖症の僕は覚悟した
そして、勢いよくジェットコースターはレールに沿って下へ走り続ける
僕は恐怖して…目を開いた…
全身が汗まみれになっていたのは言うまでもない

鬼の手… 
友人が人間の手より倍近く大きな手を持っていた
それは手首から下はない
鋭利な刃物で斬り取られた感じだった
その手を事もあろうことか、鋏で斬ると言い出した
しかし、僕は止めなかった
それがいけない行為だとはなぜか思わなかった
友人は鋏で中指と人差し指を根っこから取り除いた
そして、それを見せびらかしながら上着のポケットに入れた
その後、僕は友人と別れて家に帰った
帰ると家族がご飯の用意をして待っていた
僕はいつもの定位置に座る
うちは椅子に座るような習慣はない
カーペットの上に置かれた丸いテーブルを囲むのだ
その席で友人が行ったことを話すと皆が怪訝な顔をした
当然だろう、それが当たり前の反応なのだから
皆は一様に祟りを恐れた
信心深い者が多く集まっているのだから仕方ないが
それ以上に驚くべきことがあった
それは友人が持って行ったはずの代物が僕のポケットから出てきたのだ
そう、鋭い爪を持った指が2本、そこにあったのだった

目当て… 
僕は刑事だ
先輩の女刑事と一緒にある事件を追っていた
今はその被害者が入院する病院に来ている
被害者は男性で白いシーツに包まれた布団の中で眠っている
いや、正確には意識は戻っておらず、昏睡状態なのだ
その傍らには悲痛な思いで夫を見つめる妻の姿があった
妻はしっかりと夫の手を握っている
先輩はそんな妻に話しを聞いている
僕は2人の会話とは裏腹に男性に目をやることしかできなかった
その後、捜査は目立った進展を見せることもなく、
結局、事故として処理されるに至った
その報告をするべく、妻に事情を説明していくうちに
妻の表情は今までの悲痛なものから一変した
それは冷酷とも取れる表情をしていたのだ
一瞬、寒気がした
僕の真後ろにいたからだ
まるで結果が事故と処理されることがわかっていたかのように…
それを見た先輩が呟いた
「目的は遺産だな」
この言葉を聞いた妻の表情は鬼と化した…

ドリフト…
ブレーキが効かない………!
同僚のSさんと後部座席には女性と子供が乗っている
後ろの2人は笑いながら話をしているが見覚えがない
途中で乗せた覚えはあるが記憶にはなかった
Sさんとはもう3年以上の付き合いで
本業の傍らで介護をしている熱心な人だ
夜勤のため、会社の車で走っている最中だった
住宅街に入ったところで突然ブレーキが効かなくなったのだ
サイドブレーキを引いてみても一向に効果がない
道は徐々に狭くなっていくが
速度はそんなに出ていなかった
うまくお尻を振ってドリフトをしてカーブを曲がる
小川が視界に入るが気にしていられない
ただ急流で濁っているのだけはわかった
この後もスローモーションの動きみたいに曲がっていった…


夢を見続ける

夢から覚める


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