『見たために…』

そこは海岸だった
切り立った崖の上に松並木が見える
澄んだ空に地平線がくっきりとみえる場所だった
僕は松の後ろに隠れていた
なぜ、隠れなければならなかったのか…
それは視線の向こうに2人の女性が
一定の間隔を開いて立っていたからだ
1人は怒り狂って真っ赤な顔をしながらナイフを手にして、
1人は涙を流しながら恐怖に怯えている
松を盾に逃げ惑う女性にナイフが飛び交う
かろうじて交わしていたものの
最後は力強く体の中に吸い込まれた
何の音も感じない
海の音も鳥の鳴き声も風の揺れ音も聞こえない
ただ無音の中で2人の女性は重なり合った
僕は女性の手を見つめる
真っ赤に染まったナイフ
刃に沿って血が流れ落ちる
震える体は僕の足元をすくめた
パキッ…
木の枝を踏んだのだ
その音に敏感に反応したのが女性だった
その顔は鬼の形相に変わっていた
逃げ場はない
背後は暗いが岩が出っ張っている
自然と足が後ろずさる
しかし、足元が滑って転んだ
急いで起きあがろうとする僕に
女性が馬乗りになって体を抑えつけた
光の加減で目以外は何も見えなかった
白いようで赤く充血した目だった
フーフーフー…
そんな息遣いが聞こえてきそうな雰囲気だった
女性の両手が僕の首にかかる
冷たい手だった
手に力が入った途端、体の呪縛が解けた…

夜もまだ明けていない
真っ暗な部屋が目に入る
額には冷や汗が流れていた
そして、もう一つ…
白い影もまたすぅっと…消えていった…
僕はしばらく動けなかった…

翌朝、鬼門に塩を盛ったのは言うまでもない


夢を見続ける

夢から覚める


.