『廃墟』

緑色の壁をした建物
それがどこにあるものか知らない
これとわかるのはシーツが剥ぎ取られたベッド
茶色のタイルを敷いた無人の廊下
廊下に面した半透明の窓
入り口には消えかかった部屋の表札
下に続く階段は暗く、上に続く階段も暗い
近くにある窓も半透明で外は見えない
ここは病院の廃墟らしい
いつ、ここに入ったのか定かではない
けれども数人の男女がいた
私もここにいる
学者らしい背の高い初老の男と話しをしていた
あとの連中は会話すらない
私は学者の男と外に出る決意をしたらしく
一緒に階段を降りようとしている
カツン、カツン…、そんな響きすらない
無音の世界
階段は長かった記憶がある
下に降りきったときTVの画面がいくつも置かれていた
そう、私たちは見られていたのだ
1人の警備員によって監視されていたのだ
しかし、監視していたのにも関わらず
下に降りてきた私たちに背中を向けたまま
話しをすることもなかった
こちらも解放感に満たされていたようで
話しをすることもなく外に出た
外は鬱陶しく、今にも雨が降りそうだった
私は学者の男と一緒に来た道を振り返る
その廃墟は縦長い建物をしていた
空高く伸びていた
まるでバビロンの塔のように永遠と…
「ここは一体…」
そう呟いたときだった
建物から甲高い悲鳴が上がったのは…
私は急いで来た道を戻った
学者の男が一緒についてきたのかは知らない
ただ、一目散に走っていたことだけは確かだ
階数は40
そんな階数もある病院なんて聞いたこともなかったが
そのときはそんなことを考えている余裕すらなかった
走り終えたとき私の息は切れ切れだったが
そこで見たものにそんなものは吹き飛んだ
目の前に飛んできたのは
細身の男の上に女が乗りかかっていた
男はおびえた目を、女は怒りの目をしていた
私はそれがなぜ起きたかすぐにわかった
視線を右に向けると
ベッドの下で震えながら顔を引き攣らせている少女がいた
衣類はビリビリに破れ去り
体を包み込むようにして座り込んでいた
女の手にはナイフが握られている
どこで手に入れたかは知らないが鋭い輝きを放っていた
ナイフの刃を男の首元に向ける
誰も止めようとしない
いや…、止められないのだ
全員がナイフの鈍い輝きに魅入られてしまっている
私もそうだった
女は何の躊躇もなく男の上着を上から下へ切り裂く
体まで到達しておらず血は出ていない
女はさらに続けようとしたところで
私が止めた
なぜ、極悪非道の男を止めたかはわからないが
理性が突然働いた
そして…、男の頭の上で膝を地面につけて
「あんた、このまま、無事に済めへんぞ」
怒鳴りつけていた…

そこで…、目覚めた
周りはまだ暗い
そして、寒かった…


夢を見続ける

夢から覚める


.