第六章 謎解き

二、…あなただ!!!

 犯人は護が考えていた人物ではなかった。護は咲子が殺されたのを見つけてからすぐに3人に対して、この山荘から出るように促した。このまま、ここにいるのは危険だと察したからだ。
「でも、どうやって出るの?」
智子の疑問に、
「大丈夫」
護は頷きながら答えた。護は3人を3階に導いた。山荘に来た道は犯人によって封鎖されてしまったからである。2階端の屋根裏に続く階段から3階にあがって狭い通路を抜けると廊下を左に曲がって、2部屋ほど通り過ぎてまた右に曲がった。すると、正面にドアがあった。
「あれが出口なのね?」
幸恵が聞くと護は頷いた。
 護はゆっくりと周りを見渡しながら確認した後、ドアを開いた。そのとき、三姉妹がある物を見て目を見開いた。
「あ、あ、あ…」
開いた瞬間、太陽のきざしと共にそれは現れた。全身、包帯をまいた人物がそこにいたのである。3人とも喉から思いっきり叫び声をあげようとした時、護の優しい声に制された。
「待たせたね」
包帯男はゆっくりと護のほうに振り向きながら頷いた。
「ど、どういうことなの?」
幸恵は掠れた声で言う。
「話は後だ。とりあえず、外に出よう。健治君、案内を頼む」
健治はコクっと頷いて前を先導した。続いて、幸恵、智子、津希実が後ろに従い、護は後ろを確認しながら後を追っていく。階段は一度踊り場に着いて裏庭へと続いていた。周りは真っ白になった自然の世界だった。健治を除く4人の表情には安堵感が漏れていたのである…。

「はっ、はっ、はっ…」
1つの人影が赤い絨毯の上を走っていた。
「もうすぐ…、もうすぐだ…」
喉から声が漏れる。
「あと1人、あと1人で仇が取れる…」
表情には嬉しさと緊張感、それに不安が入り混じっていた。
階段を駆け上がる。目指すは獲物が眠っている部屋…。
「はぁ、はぁ、はぁ…、やっ……とだ…」
手には新品同様のナイフが握られていた。咲子を殺したときのナイフは落としてしまったのだ。健治に顔を見られそうになり、あわてて逃げる際に廊下に置き忘れてしまったのである。
「俺としたことが…」
自分の計画に失敗などないという余裕があったのだが、1つの失敗により、それは揺らぎ始めていた。しかし、決意は強かった。
「いやいや、そんなことはない。俺の計画に失敗はない」
影に隠れた見えない男の表情は何とも言いきれない表情をしていた。
「さあ…、あとはこいつだけだ…」
男はゆっくりとドアを開いた。窓にはカーテンが敷かれて薄暗い。中は静かだった。
「何も知らずに眠ってるな…。チャンスは今しかない」
男はベッドを見た。わずかに膨らみがあり、枕のところに髪の毛が見えた。
(殺す!)
大きく振りかぶった。ナイフの鋭い刃がズブっとシーツを切り裂き、布団を切り裂き、中へと滅多刺しにされる。
(おかしい…)
男は咄嗟に布団をめくりあげた。すると、そこにあったのは鬘(かつら)と布団をいくつも丸めたものだけがあった。布団からは羽毛があふれ出ていた。
「な、どういうことだ!!??」
男は驚きの声をあげた。そして、カーテンをナイフで切り裂いて隙間から外の光が入り込んだ。
「ちっ、どこだ!!!。ここから逃げられないぞ!!!」
男は喉の奥からありったけの声を響かせた。
 そして、後ろを振り向いて獲物を探そうとしたとき、1つの人影が行く手を遮った。
「そろそろ、終わりにしませんか?」
穏やかな声で男に言う。
「お、お前は…」
「あなたがどれだけの恨みがあるのかは知りませんがそろそろ終わりにしませんか?」
「ど、どうやってあそこから抜け出した!?」
「逃げ道はなかったとおっしゃりたいのでしょうが甘かったですね」
「ぬぬぬぬ…」
男は肩を震えさせながら、
「だ、黙れ!!!。お前に何が分かる!?」
「何もわかりませんよ、ただ、あなたは血にまみれた殺人鬼ということぐらいなら分かりますがね」
人影はドアの近くにあった電気をつけた。灯りが殺人鬼の素顔を照らした。
「さあ、もう終わりです。小山さん」
小山は鋭い目で睨み付けた。今にも襲いかかってもおかしくなかった。
「もう、無線で警察にも通報してあります。逃げ道はありませんよ。それに藤山さんはこちらの手の内にあります」
「貴様ぁ…」
「あなたも警察官のはしくれ。これ以上の罪を重ねるのはやめなさい」
「黙れ!!!、比良!!!」
小山の目は猛獣と化していたが護の後ろにいた人物を見た瞬間、驚きの声をあげた。
「お、お前が…」
そこにいたのは健治であった。
「なぜ、お前が…」
「健治君は俺たちを助けてくれたのですよ。そして、あなたのことも教えてくれた。頭のいいあなたのことだ、全てが終わった後、健治君も殺そうと企んでいたのでしょうがもう何もさせませんよ」
護が強い言葉で言い放った。
 この言葉に強きの姿勢を崩さなかった小山の膝がガクっと折れた。ナイフが床にたたきつけられた。綿密な計画を組み立て、それを実行した小山の姿はどこにもなかった。茫然自失となった小山の姿だけがそこにあったのである。
「小山さん、この一連の殺人の首謀者はあなただ。健治君はただ付き添われただけに過ぎない。もう、言い逃れできませんよ」
護はゆっくりと小山に近づいて行った…。


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