第六章 謎解き

一、犯人は…

 護は上に続く階段をのぼって行った。あらかじめ、外から鍵を閉められないように壊しておいた。階段はそんなに長くはなかった。もしかすると犯人が上にいるかもしれない。そんなものが脳裏を横切って一瞬、体が震えた。
 けれども、犯人を捕まえないと自分たちはここから解放されないと思うと「捕まえてみせる」という強い決意が護の揺らぐ心を支えた。階段をのぼりきると長い通路になっていた。階段の上には蓋などの類はない。ただあるのは木製の板で敷き詰められた通路だけだった。天井は護の頭上ほどしかなく、かなり狭かった。
「この先に何があるか…」
護は警戒しながら歩いて行く。通路は暗くなかった。出口と思われる場所が白く輝いていたのだ。外から漏れる太陽の光だろうか、灯りは希望の光にも見えた。護はそれを目指してゆっくりと歩いていく。そして、そこには大きな窓があった。
「ここの山荘は3階建てなのか?」
外部から見た風景を知らないため護がこんなことを口にしたのだ。この通路は未完成のままで放置されていたようで通路から出ると2階と同じような部屋がずらーっと並んでいた。
「まあ、いいや。犯人はここにいるに違いない…」
護は周りを見回した。
 通路を出た場所にはドアは壊れていて開いた状態になっていた。廊下は正面に続いている。部屋を確認しようとしたが全て鍵が閉められているのか開く様子などなかった。3つ、4つとドアを押したり、ノブを回したりするがびくともしなかった。4つ目の部屋を通り越したところで通路は正面と左側に分かれていた。護はとりあえず、そのまま進んでみることにしたが全ての部屋に鍵が閉じられていた。
「ふむ…」
護は場所を確認するため、正面の窓から外を見た。窓に×の板は取り付けられていなかったため、外の世界がゆっくりと眺められることができた。一面、銀世界で真っ白になっていた。太陽の光に反射されて雪の上から光が写し出されていた。
「早く外に出たいものだ」
そう思いながら護は後ろに振り返った。その時、廊下の分岐点のところに包帯を全身に巻いた男が立っていたのだ。ナイフを持ってこちらを向いていた。護はナイフを見て凝視したのである。ナイフには血がしたたり落ちていた。まさに今、誰かを殺しましたっていう感じだったが護は身動きすらできなかった。距離があるとはいえ、少しでも動けばあっという間に殺される可能性もあるからだ。
(どうする?)
護は考えた。手や額からは汗が滲み出てきていた。包帯男の表情は見えなかった。目の部分以外は全て包帯に巻き付けられていたのだ。護は思いきって喉から声を出した。
「き、君は…、君は健治…君なのか?」
包帯男からの返事はない。護はもう一度聞いた。
「…君は鏡原健治君なのか?」
答える反応はなかったが包帯男はゆっくりと歩き出した。それは護の方向ではない、左側に続いていたもう1つの廊下のほうである。護も急いで包帯男の後を追いかけた。
 護のほうから見て右に曲がると包帯男は護が来るのを待っていたかのようにそこにいた。1mも距離はない。護はもう一度、問いかけた。今度ははっきりとした言葉で伝えた。
「君は鏡原健治君だろ?」
包帯男はゆっくりと頷いた。
「今までどこに?」
その返事には答えずに掠れた声で、
「…た………に……や…く…」
「えっ?」
「…下……に…」
「下?、下がどうかしたのか?」
「は…や……く……いっ…て……あ…げ…な……い…と…」
護はその言葉にハッとなった。そのとき、
「きゃあああああああああああああああ!!!!!」
屋敷中に女性の声が響き渡った。
「この声は智子さん!?」
護は健治を見た。
「君が殺したのか?」
健治は首を横に振った。
「じゃあ、そのナイフは…」
「…こ……れ…は……ひ…ろっ……た…の…」
「拾った?」
健治が頷く。
「どこで…」
「……は…や……く…」
健治は全てを言わせなかった。護は頷きながら、
「君はどこに行く?」
健治は何も答えなかった。わずかに頷いた後、ゆっくりと足を進めた。
「…の……と…の……こ…へ…」
しっかりとは聞き取れなかったが、「あのひとのところへ行く」と聞こえたように思えた。あの人?、誰だ?。そんなことを考えているうちに健治の姿は消え去ってしまった。まるで煙にまかれたようにその場から消え去ってしまったのだった。護は健治のことも気になったが下のほうも気になり、先に下に向かったのである。例の階段から下りると鏡原たちがいる場所まで戻った。しかし、2人の姿はどこにもなかったのである。
「一体、どこに行ったんだ?」
しかし、とりあえず下に戻ってみることにした。3人が同時に消えるということは神隠しでもない限り、ありえなかった。護はそのままの勢いで階段を駆け下りていく。階段を下りて3人を探した。
「どこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
護は叫んだ。そのとき、遠くのほうで声が聞こえたような気がした。
(向こうか!)
護は階段から真っ直ぐ走っていく。そのとき、犯人が身近にいることなど全然、気づかなかったのである。地下通路に続く道のドア脇に…。

「どうした?」
「あ、あ、あ…」
声にならない掠れた言葉が智子の喉から漏れていた。3人の表情は真っ青だった。
「どうしたんです?」
3人とも何も言えないという表情をしていた。護は咄嗟に何か起きたと判断した。そして、食堂に足を踏み込んだ瞬間、それは見えた。ロッカーの中にうずくまっている咲子の死体がドアの隙間から見えたのである。
「あ、あれは咲子さん…。じゃ、じゃあ、犯人は…、ま、まさか…」
護の脳裏に犯人の表情が浮かんだ。犯人はあの人だけしかない、犯人は…。


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