第五章 暗闇

一、通路

 暗い通路を懐中電灯を片手に、護、幸恵、智子、津希実、鏡原の順番でゆっくりと歩いていく。入り口から漏れる光を除けば前後左右、どこを見ても闇なのである。
「足元に気を付けて」
護が言う。
「何も見えないわ」
幸恵が護の後ろから懐中電灯を翳(かざ)しながら言う。
 進んでも進んでも何も見えなかった。しかも、曲がり角でさえない。ずーっと真っ直ぐなのである。後ろを振り向くとわずかに入り口の灯りが見えていた。
「このまま闇に紛れ込むか…」
護が呟いた。
「それにしても、本当に何も見えないなぁ」
そのとき、ゴゴゴ…という音が通路に響いた。
「な、なに!?」
地面が揺れているわけじゃない。
「い、入り口が…」
鏡原の声が通路に響く。
「えっ?」
全員が振り向くと入り口が閉じられていく。
「しまった!?、はめられたか!?」
護の言葉もむなしく、入り口から漏れていた光が小さくなっていく。そして…。
 ガコンッ。
扉が閉じると同時に完全な暗闇となってしまった。
「ちょ、ちょっとどういうことなの!?」
暗闇の中で幸恵が叫ぶ。声が通路に反響して響き渡った。
「たぶん…、犯人が操作して閉めたものかと…」
護の落ち着いた言葉に幸恵が叫ぶ。
「どうしてそんなに落ち着いていられるのよ!。閉じこめられちゃったのよっ!」
見えない護の背中に向かって言っている。護の表情は見えない。
「幸恵さん、犯人はこの通路にいることは間違いない。それは断言できる。このまま進めば犯人に出会うことができます。そうすればおのずとして上にもあがる階段があるはずです」
「どうして、断言できるのよっ!?」
「俺の勘です」
「えっ?。か、勘って…」
「お姉ちゃん、比良さんの勘は今まで外れたことがなかったじゃない。信じようよ」
津希実が幸恵の後ろから言う。
「そ、そうね…」
納得のいかない幸恵だがここは護に頼るしか道はなかった。5人はゆっくりと進んでいく。道は果てしない暗闇であった。

 しばらく進んでいくと、行き止まりに行き着いた。
「やっぱり…」
幸恵の愕然とした声が呟いた。コンクリートの地面に座り込んでしまった。
 しかし、護は封じられている壁に近づいていく。
「もう、ダメだわ…」
幸恵の言葉が護を除く4人に重くのしかかる。
「お姉ちゃん、大丈夫よ。比良さんを信じましょう」
智子が幸恵を励ます。
「そうだ。道はまだこの先にある」
護の力強い言葉が4人に浴びせられた。
「よく考えればこんなの仕掛けでも何でもない。ふんっ」
護が力をこめて壁を押す。すると、ゆっくりと壁が動き始める。そして、壁の向こうからは灯りが差し込んできた。
「これは…」
幸恵を抱きかかえていた智子が絶句した。通路の向こうには部屋があったのだ。そこは蝋燭に囲まれた部屋だったのである…。

「どうして、犯人は扉を閉じたの?」
部屋中、蝋燭に囲まれた部屋がここにあった。尽きることなく、全ての蝋燭に火が灯されており、闇から解放された5人に安心感を与えるにはじゅうぶんすぎるものだった。元気を取り戻した幸恵が言う。
「それは俺たちに絶望という心を植え付けるためさ」
「絶望?」
「そう、扉を閉じるだけじゃ恐怖だけしか与えることはできない。しかし、行き止まりでどこにも行けないという絶望を与えれば諦めという言葉を心に浮かばせる。そのあとは死を迎えるしかないと思いこませるには十分発揮できる。しかし、諦めないということを決めてかかればそんなことはあっさりとうち破ることができるんだよ」
「うーん…、難しいことを言うのね」
「あはははは、そんなに考え込むことはないと思うよ」
「どうして?」
「普通に暮らしていればいいんだよ。何を求め、何を考えるかはそのとき決めればいいんだよ」
「ふうん」
蝋燭の灯りで2人の表情が浮かびあがっていた。目の前には出口に繋がる階段があった。
「お姉ちゃん、ここをあがればようやく解放されるね」
智子が言った。
「そうよ、健治君と犯人もこの上にいるはず…。でも、どうしてここからじゃないとダメなの?」
津希実が1つの疑問をあげた。
「それはね、地上からでは入れない部屋がこの上にあるからだよ」
「えっ?、入れないの?」
「そう。ある計画のためだけに造られた部屋だからさ」
「ある計画?」
「復讐さ。そして、その復讐は俺たちが止める」
鏡原はすでに上にあがっていた。先に見に行ったのである。階段の上からは灯りが漏れていた。
「さあ、行きましょう」
護と三姉妹の足が上に続く階段に差し掛かったのである…。


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