第二章 氷雪荘

一、御島山荘

 2人が洋館の中に入ると、にぎやかな音楽と共に華やかな花が飾られていた。護には何の花なのか一向に検討もつかない。入って正面に階段があり、その横に男の人がこちらを向いて、
「いらっしゃい!。ようこそ、おいでくださいました」
陽気な声で言った。多少の植物などが植えられてあったが何だろうと思いながら見ていた。
「それにさわらないほうがいいですよ」
「えっ?」
「息子が趣味で集めているものでね。なんでも南米原産の毒花とか…」
「えっ?、こんなところにおいて大丈夫なんですか?」
「ええ、食べなければ大丈夫ですよ」
「食べなければねぇ…」
赤い花を咲かせている植物を横目にチェックインした。
「比良護です」
「朝日幸恵です」
2人は同時に言った。しかし、主は聞き分けたようだ。
「ええと…、朝日様と比良様ですね。大島様よりうかがっております。比良様は2階の205、朝日様は同じ2階の201です」
「妹たちの部屋と並んでいるのですか?」
「すみません。手違いがあったようで、智子様は203なんですが、津希実様は105なんです」
「ありゃ」
「本当にすみません」
主は恐縮そうに言った。
「いえいえ、いいですよ。そんなに気になさらなくても」
と、言った瞬間、後ろで女性のきつい言葉が主に飛んだ。
「気にしてもらわなくては困ります。会社の名前に傷がつくじゃありませんか?」
「ああ、大島様。このたびは…」
護はあなたの会社じゃないだろうと思ったが口をつぐんでおくことにした。この女性の会話を邪魔するかのように、
「鏡原さん」
「あっ、はい、なんでしょうか?」
「先程、山道ゲートの職員の方から伝言を承ったんですが…」
「なんでしょうか?」
鏡原は護のほうに視線をうつした。大島咲子は舌打ちしながらどこかに行ってしまった。護の後ろで幸恵がクスクス笑っていた。
「実は今日の夜から吹雪になるそうでしばらく悪天候が続くというんです。万が一、1週間経っても封鎖を解除できない場合は緊急無線で連絡するとのことです」
「そうですか…。吹雪とは…。わかりました」
「もうみなさんは来ているんですか?」
幸恵が鏡原に話す。
「ええと…、あと藤山さんだけでね。その他の方は来ておられますよ。また内線で連絡を差し上げますけれど夕飯は6時としております。それまでごゆるりとしていてください」
「はい」
2人はフロントで鍵を受け取ると一緒に2階にあがった。階段を上がると、廊下は左右に別れる。右から201、202、203、204となり、左側は205、206、207、208となっていた。
「俺はここだから、また後で」
「ええ」
幸恵は一礼をして端にある自分の部屋に行った。護は205号室のドアを開いた。右側にベッドがあり、その手前には靴箱。どうやら土足厳禁らしい。スリッパが置かれている。ベットの向かいにドアがあり、バスとトイレが一緒になっていた。小さな机もあって護はそこに荷物を置いた。正面はベランダになっているようだがすでに雪が強くなってきていたため、窓を開くことはできなかった。ドアのほうを向くと出入り口のドアの上に時計が飾られてあった。シンプルな部屋だがゆとりのある広さがあった。これなら2人部屋でもじゅうぶんだろうという広さだった。
ベッドの前にはテレビがあったが吹雪のためもあり、画像が少し波うっていた。しかし、することもなかったので少し山荘を見てまわることにした。

 部屋から出ると正面の窓は真っ白だった。完全に吹雪になりつつあったのである。
「すごいな…」
ドンッと音が下のほうで聞こえた。そして、ヒュウ〜という風の音が聞こえていた。
「藤山っていうひとが来たのかな」
護は興味本心で見に行ってみることにした。
「いやぁ、すごい吹雪だよ」
「おつかれさまです。大変だったでしょう」
「本当だよ。んっ?」
階段から下りてくる護に気づいたようだった。
「おおおおお、比良さんじゃないか?」
「へ??」
護はちょっと驚いた。しかし、顔をよく見てみるとなんと漫画喫茶の常連の藤山英樹だったのである。護より2つ年上で長身、格好いいわりには女っ気がまったくといっていいほどない。しかも、自分が経営している建築業の店を従業員に任せて自分は大好きな漫画に没頭しているのである。たまに従業員が書類を持って藤山が手入れを加えるのである。
 すっかり護の店を自分の事務所にしてしまっているのだった。まさに藤山にとっては天国のような場所だったのである。
「いやぁ、比良さんがいるなんて思わなかったなぁ」
「ははは…」
護は苦笑した。鏡原が藤山に言う。
「ええと、藤山さんで最後ですよ。部屋は102になります」
「さんきゅう。じゃ、比良さん、またあとで」
「ええ」
藤山は鞄を持って102号室に歩いて行ったのである。護はフロントにいる鏡原に、
「すごい吹雪になってきましたねぇ」
「ええ、この分だと当分続きそうですよ」
「山の天候は変わりやすいですから」
「まったくです。比良さんは藤山さんを御存知なんですか?」
「ええ、うちの店の常連なんですよ」
「ほお」
「もう居候といってもいいかもしれませんが…」
護はまた苦笑した。
「あはははは、大変ですねぇ」
「ええ、先程の大島さんっていう人はどういう方なんですか?」
「ああ、あの人は今回のツアーの責任者ですよ」
「へえええ」
「ただ、根はいい人なんですが仕事には厳しい人なんです」
「ああ…、それでさきほどの…」
「まあ、そういうことです。私はちょっと仕事がありますので…」
「ええ、すみませんでした」
鏡原は奥にひっこんだ。護は客室のない方向、玄関から入って左側のほうへ歩いて行った…。


続きを読む(第二話)

戻る


.