―序章―
裂ける音。
それは耳障りな音。
前兆を感じる前に小さく裂ける。
亀裂は、いつも気づかないうちに走っている事が多い。小さなひび割れの時に気づけば大事には至らないが、大抵の人々は動いてから、はじめて気づく。
知り尽くしていると思い込んでいる日常。
その中の小さな、とても小さな変化。
日常の中に埋没する傷が、ゆっくりと長さと深さを増していき、いつのまにか形を変えてしまう。
やがて、すっかり変化の中の一部と化してしまう。
日常の生活に埋没している間も、日常は常に、うねり続けている。
変化は良いことばかりではなく、どちらかというと大抵は悪いことである。
悪いことは嫌で、悪いことは排除したい。
しかし抗ってみても、僅かな抵抗に過ぎないのが現実だ。
それでも、そうと分かっていても、抗うために戦う者は必ず居るだろう。
そして、そのうち気づいてしまう。
抗う行為に意味を求めるのが虚しいことに。
だって。
だって、あなたが気づいた時には、たぶん死を迎えているから。
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