−プロローグ-
EARTH&MOON
『SHIDEN!』(since:2005/04)

―プロローグ―

 
 赤というには淡く儚かった。
 そんな色の光によって染められた世界は、どこか存在自体がおぼろげで危うい感じがした。

「……何があっても生きてゆくんだよ。この世界が、どんな形になろうとも、生きる為の選択は自分にあるのを忘れないようにしなさい。生きることを止めなければ、全ての選択は自分にあり続けるんだから、それを忘れちゃ駄目だよ……どんなにカッコ悪くなっても、生きてさえいれば……だから、何があっても生きる方を選び続けるんだ」

 この時少女は、どうして父親が急にそんな事を言ったのか理解できなかった。語られた内容を理解出来る年齢でもなかった。
 後になって考えてみれば、父は娘の行く道を予測していたに違いない。もしそうなら、こんな現実を自分に突きつけたのは、父のせいだということになる。
 しかし今の父親を見上げる娘には、優しさに満ちた手で頭を撫でられながら、哀しそうな笑顔をしている父が可哀想だと思っただけだった。
 その夜。
 あったかい布団の中で、昼間の事を思い出した少女は泣きじゃくった。なだめる両親はオロオロするばかりだった。


 彼女は、少女の時に感じた、その悲哀を心の中に沈めたまま、時間を消費していったが、この日のことだけは、少女の記憶から消失せず、深いところに沈静し続けていった。



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