(レポートS51.3.22作成)

43cm鏡の製作レポート

期間 昭和50年9月〜昭和51年3月
概要 43cm鏡を製作するに至ったいきさつ、製作過程、及び関連事項をまとめたものである。


目次

1. 前書き
2. 前回の43cm鏡研磨の概要
3. 製作目標
4. 製作
5. 感想
6. カセ凸鏡の設計・製作


1. 前書き

1-1 鏡作の経歴

(1) 小学校2年(8才)の時、学校の図書館で木辺茂麿氏の旧版「反射望遠鏡の作り方」を読んだ記憶がある。

(2) 3〜4年生の頃、「子供の科学」に出ていた4cm屈折がほしくてたまらなかった。もちろんこれは買ってもらえなかった。

(3) 5〜6年生の頃、3cm、4cm、6cmの単レンズセットを組み立て、星座早見、「全天恒星図」(初版)、「四季の観測」を買ってもらって、夜毎に星を見ていたが、金星のみちかけ、月面、土星の輪、オリオン星雲、プレアデス星団等に感激した。又、星座や星の名前もこの頃よく覚えた。友達が親に6cm屈折を買ってもらったのに対し、「望遠鏡は自分で作る」と宣言?したりした。

(4) 中学生の頃はラジオに凝ったので、望遠鏡のことは余り記憶がない。

(5) 高校のとき、10cm単レンズを組み立てたが良く見えなかった。8cm反射鏡を父が買ってきてくれたので、はじめて反射望遠鏡を作ったが、それまでと異なるシャープな星像が印象的で、プレセペ星団や木星の縞等を見た。友達が15cm反射(鏡面のみ購入)を作ったので、自分も大きいのがほしかったが、何となく自分で作るつもりでいた。又、この友達の影響で物理学、数学に興味を持った。木辺茂麿氏の旧版「反射望遠鏡の作り方」を買うため、ずいぶん本屋を探し回ったことがある。電車にも乗って出かけて行き、30軒位回ってやっと見つけた。内容が面白いので何度も読み返したものだ。

(6) 20才になってしばらくすると、木辺茂麿氏の新版「反射望遠鏡の作り方」の初版が出版されたのですぐ購入、いっきょに読み上げました。前著とはやや異なる洗練された文章に感激したものです。それから2ケ月位で20cmを磨きましたが、今から思えば無茶苦茶でした。やはり、最初は12cm以下を磨くべきだと今は思います。ピッチの流し込み型合せが出来なかった。真夏でピッチが軟化しレモン皮状のシワがある双曲線となった等で、ピッチ盤を7回位作りかえました。フーコーテストの影の見方も良く分らなかったし、少しターンダウンはあるが、やっと完成したら研磨材セットの紅柄が悪く、全面が白っぽくなる程小キズができていましたが、メッキに出し、木製経緯台を弟といっしょに作りました。この鏡は、それから1年位で再研磨して見ちがえる程良く見えるようになり、わが家の主力機となっています。
私が鏡作りを始めたのと殆ど同時に弟も鏡を作りはじめ、今までに30面位は磨いています。昭和43年21才のとき40cmクラスを作ろうと思い立ち、22才になる直前、かなりの精度(星像収差0.14mm、λ/6)で完成したのです。しかし、これは失敗でした。鏡材が貼り合せのため、月日がたつにつれ、変形がはげしくなり、使いものになりませんでした。しかし、この鏡を磨いたことにより、50cm鏡まで磨ける自信がついた、とその時は思いました。それ以来6年半は空白状態です。

(7) 昭和50年8月頃、会社勤めが単調なことから急に反射鏡が作りたくなり43cm鏡研磨を決心しました。このレポートは、この43cm鏡(有口径42cm)についてのものですが、鏡は、昭和51年3月17日に完成しました。


1-2 今回の研磨の目的

(1) 昔覚えた研磨技術を甦えらせ自分のものとする。

(2) 詳細な研磨記録を残し、今後の鏡面研磨のための参考資料とする。

(3) アマチュア第2位、県で第1の大望遠鏡を作る。

(4) 遠距離の星雲の眼視確認。

(5) 自分で本当に納得できること(鏡面研磨)がしてみたかった。

(6) 大鏡を楽に(労せず)磨く方法を考える。語弊があるかも知れないが、重量ある鏡を無理して人力で磨いたり、失敗の連続、判断の誤りが多くては、労力を要するのみならず、決して良い鏡面は出来ないと思う。従って要領よく短期間で作るのは、りっぱな技術と思うが、これらについての模索を行う。

(7) 完成させる力を養う。鏡作りは、単調で、労力、根気のいる作業ですが、自分でコツコツ完成させなければ鏡にならずただのガラスのままなので見方によってはたいへん面白い内容を含んでいる。ものごとを完成させる力が養えると最近考えるようになった。

(8) その他


2. 前回の43cm鏡研磨の概要

今から7年前の昭和43年12月〜44年4月に今回とほぼ同じ大きさの鏡を作り、マウンティングも途中まで作った。
 ガラス径:428mm、 有口径:410mm、 焦点距離:243.5cm、 素材ガラス:特殊
20cm鏡を3面作った後、40cm級を作る決心をしました(昭和43年夏頃)。ガラス材が高価との話をガラス店で聞き、ハリ合せを実行しました。
182×91cm×15mm(厚)の板ガラスを購入、図のように切ってもらいました。(全部で2万円位)
A〜G:直径45.5cm円形、 H:予備

A〜Gの中、4枚を接着剤(市販のエポキシ系)でハリ合せ鏡材とした(直径45.5cm、厚さ60mm)。接着面は、厚みをそろえるのと、下向き法ではピッチ面が見えないと磨けないと信じ込んでいたため砂ズリを行い、#4000まで行いました。盤の方は2枚をエポキシで貼り、ピッチで1枚追加し、3枚合せとしました。この盤ガラスは今回の研磨にも使用しました。洗濯機のモーターを利用して前後のストロークを行う研磨機も作りました(今回は、これにターンテーブルを付け加えた)。このような素材ガラスと研磨機で研磨スタートしましたが、すべて下向き研磨法で磨きました。最初は直径45cm以上あり、磨きの途中までは良かったのですが、温めておいて水をかけた直後フーコーテストして驚きました。鏡周が10cm位の長さで強くターンアップしました。接着面のはがれと気づきましたが、これを1週間かけてすり取りました。その結果455→428mmに縮小したのです。ピッチ盤を全部で4〜5回作りかえて、やっと完成しましたが、フーコーテストの結果では直線的に負修正となるカーブで、0.57mm(星像収差0.14mm)でした。たしかλ/6位と計算しました。

 有口径:410mm、 f:243.5cm

鏡が完成してすぐ、はしごに工作して直接焦点で見る(頭がじゃまするが)バラック式の望遠鏡を作り、弟と二人で月と木星を見ましたが、ものすごく良く見えました(無メッキ)。20cmとはまるで異なる見え方で、倍率が低くても大きく見える錯覚もありました。その時の月のクレーターの外輪山の切り立った山々、木星の鮮明な縞もようは、今でも眼底によみがえってくる程です。20cm以上はシーイングの関係で、かえって能力が劣ると言う迷信はここで一挙に吹き飛んでしまいました。

その1年後にフーコーテストにかけると、鏡周が除々にターンアップして有口径が小さくなっていましたが、木製筒と架台の一部を作りました。その後会社勤めの関係と、鏡作2年後には、有口径が36cmに縮まる有様で、それ以来作りかけの大望遠鏡は、ほったらかしたままにしておきました。この間、弟の方は、学校で天文クラブ等を作り、私から見るとかなり巾広く活動しています。天文と気象に載った火星観測レポートは、弟が私の磨いた20cm鏡で観察したスケッチ(記事中の大分のスケッチ)を中心に、まとめたものです。この20cmはf=157cmで、弟の学校にある日本光学の同口径屈折よりも良く見えると言っています。この20cmでは、メシエ天体を全部見たことと、良シーイングの時、×400で見た木星が思い出となっています。


3. 製作目標

3-1 観測対象: 星雲、星団、月、惑星、他

3-2 口径: 43cmとし、できる限り有効径を大きくとる。

3-3 焦点距離: できるだけ短く作ることとし、250+1、-0cmとする。余り短焦点だとパラボラ化できないので、限界を2/1000mm=1/500mmと考えました。パラボラは球面に比べ、端を合わせると中心部がr*r*r*r*/(8R*R*R)深い。 r*r*r*r*/(8R*R*R)=r/(512F*F*F)、ただし、F=焦点距離/直径
これが1/500mmより小さければパラボラ化可能とし、r<(F*F*F)と言う、便利な覚えやすい式を作りました。これを確認するため、ガラスの注文期間中に15cm、f=63cmの鏡を作りましたが、なんとかパラボラ化できたので、前回の43cmの経験と合わせ、この式を下向き手磨きの場合のほぼ正しい式かと考えています。43cm鏡ではF=6.0とするとちょうど良く、F=6.0と決め250+1、-0cmを目標としました。


3-4 鏡材

作りかけのマウンティングを活かすこととし、口径、焦点距離を決め、小原光学にガラスを問合せましたが、口径が合わないのと、値段も高いのでE6はあきらめました。保谷光学は営業にたいへん親切な人がいて、素人の私にもよく相談にのってくれたので、430mmφ、70mm厚、重さ25kgのBSC7(=BK7)を注文しました。このガラスは9月の初めに注文し3ケ月で納入されました。歪が少く、まっ白なので、とても気に入っています。低膨張ではないが、木辺茂麿氏の著書に登場する昔の鏡作りの名人達は、みなこの種のガラスを用いたことを思うと、自分でもことさら、これで行きたくなったのです(特に有名なカルバー32cmと46cmのこと等を考えている)。それと7年前の月と木星のイメージと研磨技術に見え味が左右されると考えましたので、材質よりもこの方に力をそそぐことにしました。


3-5 マウンティング

費用の点から木製経緯台を自作する。赤道儀に比べると性能は劣るが、観望を主とし、観測がまったくできないわけではないし、一瞬でも眼視確認できればアマチュアとしては充分なことも多いと思う。


3-6 光学系

マウンティングと関連して光学系を考えると、

(1) ニュートン式: 筒先に近いので星を追うのがたいへん。

(2) カセグレン: 天頂付近を見るとき目の位置が真下に来て見にくい。そこで次の(3)の形式を主力と考えた。

(3) カセニュートン: 垂直軸の中を通して焦点を筒外に引き出すと、目の高さが一定である。回転部が近くなるので操作しやすい等で、今のところこの形式を第1と考えます。凸鏡、平面鏡とも製作済ですが、凸鏡については、今までにない新しく私が考案したテスト方法を用いて研磨しましたので、これについては後述。


4. 製作

4-1 ガラス材

(1) 鏡用: 保谷光学BSC7(=BK7) (前記)

(2) 盤用: 25cmパイレックス(#60カーボによる荒ズリ用)。3枚合せ45cm(前記)(#120カーボ以降)


4-2 研磨機(自作)

図のような木製研磨機を作った。(25cmパイレックス盤を上向き法で用いて凹作している図)

(使い方)

(1) 前後ストローク及びターンテーブルの回転はモーターで行う。

(2) 上側の盤が左右にずれないようにするのと、上側の盤の回転は人力で行う(従って作業者はつきっきり)。以上のような研磨機を用いたので労力の低減となった(15cm鏡を磨く位の力は必要)。なお、ターンテーブルの回転が遅いためアスの発生が心配なので、今後改良する予定。


4-3 フーコーテスト器(自作、木製)

(1) 人口星:0.12mm丸穴(#400エメリーですったガラスを用い散光状態とした)

(2) ナイフ:カミソリをセロテープで取付けた。

(3) 読み取り:1回転1mmのネジを使用


4-4 研磨材料

(1) カーボランダム #60、#120、#240 (7kg、1.5kg、600g)

(2) エメリー #400、#800、#1500、#3000 (300g、150g、75g、少量)

(3) ピッチ (1.0kg)

(4) 松ヤニ (0.25kg)

(5) 自転車油 (数滴)

(6) 研磨粉 紅柄(前半、少量)、セロックス(後半、少量)


4-5 日程

S.508月計画
 9月ガラス注文
 12月ガラス完
 12月末砂ズリスタート
S.511/27砂ズリ完
 2/11ピッチ流し込み
 2/21磨きスタート
 2/25初のフーコーテスト。45mmのものすごい過修正
 2/26ピッチ盤を縮小し上向き研磨に切換
 3/14偏球になったので、以後すべて下向き研磨で整形
 3/17完成

鏡材ガラスの注文期間中、15cmテスト用球面(R=3m)、10cm平面鏡3面、12cmカセ凸鏡(表裏)、15cm・f=63cmパラボラ鏡1面、を研磨した。これにより、研磨感覚と最も重視したピッチの硬さの見当をつけた。


4-6 砂ズリ

(1) 25cm、47mm(厚)のパイレックスと#60カーボを用い凹作。上向き法で約17時間で目的近い4.2mmにへこんだ(目的4.5mm)(鏡周6mm巾は未)

(2) 以後、3枚合せの45cm径の盤ガラスを使用し、パイレックス盤は用いない。#120カーボ1時間30分行った。途中で鏡盤の食い付きが起り湯につけてやっと外れた。鏡周2mmは未。R=約502cm。

(3) #240カーボ2時間でR=496cmと縮まりすぎたので、反転ズリ(上向き研磨)に切り換えた。(以後砂ズリは仕上げまで上向き法)

#400エメリー2時間、#240カーボ1時間、#400エメリー1時間30分行った。R=501cm。

(4) #800エメリー6時間で砂目は完全近くそろった。

(5) #1500エメリー2時間。ここで水洗いが終ってみたら、砂による大キズ1本(長さ6cm位)と、小ヒビ(0.5mmの深さで2〜3mm長)が5ケ位発生。これは水洗いのときにホースの止め金が蛇口から外れ、当ったためできたもの。ヒビとキズに対し考えた末、#400エメリーに戻ることにした。

(6) #400エメリー4時間で完全にとれた。

(7) 続いて一挙に仕上げようと思ったが失敗した。#1500エメリー4時間行ったが全然砂目が細かくならなかった。ある程度、段階を踏まないと砂目の細分化が出来ないことを知った。

(8) #800エメリー2時間

(9) #1500エメリー2時間

(10) #3000エメリー24分で砂ズリ完了(S.51.1.27)。#3000は球面半径を知るために行ったもので、特に砂目を細かくする必要からではない。#3000(#1500でも)が終ると球心位置で懐中電灯でてらすと反射光がスクリーン上にはっきりとフィラメントの像を作るので球面半径Rが正確に知れる(特に仮磨きしなくても良いと思う)。R=5020mm(正確)。


4-7 ピッチ盤作り

(1) 方針:前回7年前の経験から40cm鏡はかなりやわらかくしないと、中央が大きくへこんで型が合わずスムーズな研磨ができない、しかし、やわらかくすると研磨痕ができるので(中央部のオーバーハング時)、硬さのコントロールがかなり難しい(限界に近い)と思っていたので、今回の鏡作では、この点を最重視しいろいろ考えた、その結果次を行った。

 (a) ピッチの硬さの見当をつけるため、ガラスの注文期間中に、10〜15cmの鏡面を7面磨いた。

 (b) 研磨痕を作らないため、ピッチをできるだけ硬くし、かつ、型合せしやすいようにミゾ間隔をせまくする。(23.5mm)

(a)、(b)は結果としてたいへんうまく効いた。研磨痕なしにスロープもうまくついた。

(2) 調合

ピッチ(1.0kg)、松ヤニ(0.25kg)、自転車油(数滴)。total 1.25kg。松ヤニ/total=20%。

(3) 流し込み型合せ


鏡面に石けんを塗るとすべるので取っ手をピッチで貼り付け型合せした。型合せ後のピッチの厚さ3.5〜4.0mm。


(4) ミゾ切り(3時間要した)

間かく23.5mm(たて横各18本、total 36本)碁盤目状。

(順序)

 (a) 定規でスジを引く。

 (b) アルミ板を半田ゴテにつけ、細いミゾ型をつける。

 (c) 彫刻刀で両側を削り浅いV字型にする。


(5) ミゾ切り後の型合せ

反射板付き石油ストーブの前にピッチ盤を立てかけ、ピッチが軟化したところで、ブリキ盤で圧して、鏡周から除々にそり上りを下げ、鏡面を合せて型合せした。かなり良く合ったかなと思ったが、これでも磨きはじめて数時間は、端の方の5〜8cm位しか当らなかった。


4-8  磨き、整型

(1) 10時間までは下向き法で磨いたが、ピッチ盤の型がよく合わず、力も要した。中央がへこんでいるので偏球になるかと思ったが、修正量45mmのものすごい過修正となった(二重球面ではなく、典型的な双曲線)。ナイフを用いなくても異常さが分かるほど強度の双曲線だった。8時間位から気付いていたが、端の研磨層が極端に劣化したことによると考え、はたと困った。予定では最終仕上げまで下向き法で行うつもりだったからである。ピッチ盤の端が劣化したので、これはもう断念せざるを得ない。上向き研磨に切り換えれば良くなるのかも知れないが、全然見通しが立たない。ピッチ盤を作りかえるにしても、結局同じことになると思い、ピッチ盤を縮小して上向き法に切換えることにした。

(2) ピッチ盤を36cmに縮小して、14時間(total 24時間)磨いたが、修正量は、どうしても25mm以下にならず、全面に小穴がボツボツと発生した。

(3) 砂ズリに戻ろうかとも思い、半ばあきらめたが、ピッチ盤をもう少し縮小(33.5cm)して、セロックスに切換えてみた。

(4) 当り具合を今までのツルツル滑る感じから、すい付く感じに(小口径下向き法で偏球を磨く感じ)なるように心がけて8時間半磨いた結果(total 33時間半)、角曲り数mmを除き完全に偏球になった。(修正量、-10mm)

(5) 以後、一度用いたセロックスを水でたっぷりうすめ、整型に入った。すべて下向き手磨きで行ったが、盤が小さいので全面磨きによる負修正化はできず、削る一手で球面→パラボラ化した。

端のカーブ付と中央のオーバーハングが難しかったが、中央のオーバーハングでは特殊な磨き方を用い中央まで研磨痕のないスムーズな面を作った。

A: 今回用いた特殊なオーバーハング位置
B: 普通の解説にあるオーバーハング位置


4-9 整形完了

(1) 修正量: ナイフ1mm前後するに対応する半径(鏡の)の変化を調べる方法を用いたが、理論値とかなり良く合っている様に思える(+−0.3mm以内か)。ただし、それ以上は分らない。帯測定は誤差が大きいので行っていない。面精度は、λ/4は楽で、λ/8クラスに近いと思う。

(2) ターンダウン: 最大5mm巾あるようだ、マスク必要。左周の光輪はまったくない。

(3) アス: 球面化の段階で人口星をアイピースで調べたが、特に認められなかった。

(4) 磨き、つや、研磨痕: 良好。

(5) 傷: スリーク1本。


4-10 後始末

(1) ハンドル外し:ベンジンで残りピッチを溶かした。

(2) 紅ガラ:サンドペーパーで落とした。

(3) 水洗い:石けん使用、布でこすって水洗いした結果、紅ガラや汚れは殆ど落ち、BCS7のまっ白い色となった。


4-11 技術収穫

(1) 上向き研磨をはじめて用い、ある程度の知識を得た。

(2) ピッチを硬く調合し、ミゾ間隔をせまくする方法は有効。

(3) はじめて、一度使用済の研磨粉を用いた。

(4) 双曲線を少しづつ戻してパラボラ化することはできない。かならず一度偏球にすること(以前から気付いてはいたが)

(5) 完成してみると、欠点(ターンダウン)が気になる。

(6) 40cm鏡25kgでも下向き整型で研磨痕を作らずにすむ。

(7) 上向き法では、盤が小さくても(鏡の80%)偏球化できる。

(8) ピッチ盤を一回も作りかえずに完成させることができた。


4-12 失敗事項

(1) 整型の早いうちにピッチ盤を花弁状に切除するべきだった。

(2) #120カーボ中の食い付き。

(3) #1500砂でのヒビ、キズの発生。

(4) 強度の双曲線となった。

(5) 上向き法にしても25mmの修正量以下に減少しなかった。

以上いずれも、何とか通りすぎて完成できたが、(2)〜(5)は、研磨途中での大きな障害となり、半ばあきらめかけた問題だった。


4-13 今後の改良点(設備上)

(1) フーコーテストの問題点

2階で振動が多く、木造、たたみ部屋、読み取りが1mm/1回とやや荒い等から精密なデータが取りにくかった。

(2) ターンテーブルの回転が遅いので、アスの発生が心配。


5. 感想

(1) 自分としては、偶然に近いほどの上出来だと思う。良く見えること間違いないと思う。かぜで1回休んだ以外は会社勤めの合間を見て、次の研磨方針をあせらずにじっくり考えながら作業を進めたのが成功した原因と思う(木辺茂麿氏の言”60cm鏡は日数をかけないと作れない”からヒントを得た)。しかし、最終整型で研磨後充分冷却する以前(せん風機で1時間冷やした)に磨いて、中間を少し急坂(0.3mm位)にしたのは反省点と思う。

(2) 鏡ができた時点でふり返ると、鏡作りの作業の本質は、自分でコツコツやるから完成するものと思うが、基礎的な技術(作業指導)がなければ作りようがないわけで、私の場合すべてこれらを市販の著書から学んだ。特に木辺茂麿氏の新旧「反射望遠鏡の作り方」からは、最高レベルの研磨技術を紹介されて、その上人生観まで学んだものがあり、自分でも知らず知らずのうちに実生活で応用していると断言できる位である(もちろん鏡作りにも)。旧著の方では鏡(望遠鏡)作りにたずさわった人々が登場してたいへん興味深く、新版では全文が”名人のゆとり”で貫かれており、時代に即応した新技術、”研磨層の研究”その他たいへん参考となった(ただ前半に光沢良く磨く方法が載っていないのはちょっと不親切だと思った)。両著書とも読みものとしてもすばらしいものであり、何十回となく読み返したが、他の本では全くないことである。これらの著書に出会ったことは幸運なことだと思う。新版で”後継者の養成…”、”年若いアマチュア…”とあるが、これらの著書から多大の感銘を受け、実際に反射望遠鏡を自作し、これで天体(宇宙の深淵さ)に接しているアマチュア天文家が身の回りに何人かいる。鏡作りも10年近くになり、自分の人生の中の何分の1かを占めるので、著者に対して感謝の気持ちを表します。


6. カセ凸鏡の設計製作

(1) 引伸率m=3.6として計算し研磨したが、今まで聞いたことのないテスト方法を用いました。裏面を球面に磨き、この面を通して裏からフーコーテストする方法です。

凸面の軸上接球面の球心と裏の球面の球心を一致させる。そして共通球心からフーコーテストするのです。この場合の修正量はn倍(nは屈折率)になりn*(r*r/R)*((m+1)/(m-1))*((m+1)/(m-1))となります。((m+1)/(m-1))*((m+1)/(m-1))はパラボラ倍数に等しい。
(n:屈折率、R:凸面の軸上球面半径、r:測定する部分の半径、m:引伸率)

(2) n倍になる理由
凸面が完全球面ならば、球心から出た光線はν1を通り、ν2で反射、再びν1を通り正しく球心に戻ってくる。
ところが、半径rの部分が球面に対しdθのスロープを持っていれば反射光は2dθ傾くことになる(ν2→ν1)。これによる収差が儚(球心側がすべて等質のガラスでつまっている場合)と言うことだが、裏面が球面の関係で屈折した光線は、球心に向かう方向に対してn(2dθ)傾くから、収差はn儚となりn倍されたことになる。以上によりn倍した上式を用いて凸面の整型を行えば良い。

ガラスの厚みが厚いと(Rに比し)誤差が大きくなるが、一般的には問題ないと思う(詳細は未検討)。フーコーテストを用いるから試験しやすいことは間違いない。


7. 収差曲線


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