2.(2)補足 Aさんへ伝えたかったこと


 あなたにとって一番重要な人がどうにかなってしまうんではないか。

 その不安が、他のすべてのものを拒絶してしまう。

 決して他のものが重要でないと思っている訳ではないのに。

 ペットのワンちゃんはあなたにとって重要な存在のはずで、愛していない訳ではありません。

 でも、それ以上にお母さんがどうにかなってしまうのでは、という不安がそれ以外のとても重要なものを拒絶してしまうという事態を引き起こします。

 一つのことで頭がいっぱいになって、他のことをいっさい拒絶してしまう。

 一種のパニック状態だと言えるのではないかと思います。(医学の知識がないので、正確な用語法ではありません。)

 職場でも、(日常的な意味での)パニックに陥っている人を見かけます。

 私もしょっちゅうなります。

 一つのことで、頭がいっぱいになる。

 別の言葉で言えば「一途になる」、ですね。

 一つのこと、一人の人に一途ということは、その人に対してとても、誠実だ、ということです。

 それにも増して、その他の人々(ものごと)に対して誠実だということです。

 「あなたのことが好きです。でも、私には、操を立てた人がいます。ですから、あなたを好きな気持ちは、浮気になってしまいます。それは、なによりあなたにとってご迷惑なことに違いありません。ごめんなさい。あなたを見つめることはできません。」

 こういうことですよね。

 パニックになる人は誠実な人なんです。パニックは美徳なんです。

 でも、パニックはつらいですね。

 ならないに越したことはありません。

 あなたが語りかけた「あなた」は、浮気を望んでいるのではなく、お友達になりたいだけかもしれません。

 パニックになって、頭がグシャグシャになって、すべてを拒絶している状態で、そんな冷静な判断ができないことは十分、解っています。

 地に足が着かない不安な状態、確かなものがなくなって、浮き草のように揺れる心、よく解ります。


 そういう時、確かなものがあれば、確かなものにすがれれば、どんなに楽になるでしょう。



 今から、少なくとも一つは確かなものがあるんだ、という「おまじない」をします。

 あなたは理系なのでこういう話がよく解るはずです。


 トポロジー(位相幾何学)において、ブラウワーの不動点定理というものがあります。

 こういうものです。


 写真は、無数の色の点ですよね。同じ画像、同じ大きさの写真を2枚正確に重ねると、上から見ればすべての点が同じ位置にあるはずです。

 重ねてある上の写真をグシャグシャに丸めて、もう一度、残った一枚のきれいな写真の上にのせます。

 パニックになったあなたの頭のようにグシャグシャになった写真ですから、残ったきれいな写真の色の点と重なるわけはありません。

 ところが、どんなにグシャグシャに丸めようと、上から見て同じ位置にある点が少なくとも一つある。というのが、ブラウワーの不動点定理です。


 なんか凄いと思いませんか。どんなにグシャグシャでも動かない部分があるなんて。

 残念ながら、私は高等数学の訓練を受けていないので、この定理の証明自体を理解することはできません。

 でも、なんか勇気づけられます。

 あなたがどんなにグシャグシャに取り乱していても、冷静な時のあなたの心と重なる点が必ずある。

 パニックに惑わされない心の部分、不動点が、必ずある。

 そう信じませんか。

 数学で証明されているんですから。



(ブラウワーの不動点定理は前にでてきたゲーム理論のナッシュ均衡の存在証明をする際に利用されています。また、ブラウワーの名前は、このサイトでは後になりますが、Season2補題二の回答の解説で直観主義数学の創始者として出てきましたよね。これもその時話しましたが、トポロジー(位相幾何学)の創始者は私の好きなフランス人、アンリ・ポアンカレです。ポアンカレ予想のポアンカレです。)



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アップロード日 2010.10.01