日本語を救つた女たちの物語!
國破れて國語あり。しかし、そこに未曽有の危機──日本語のローマ字化! 執筆じつに十七年。その、歳月と情熱のすべてをかたむけた井上文學の最高傑作つひに成る!
『東京セブンローズ』が刊行されたのを機に書かれた、神道關係者による國語國字問題の紹介記事。
ある雑誌インタビューで井上氏は、「いくらなんでも七人の娼婦が日本語を守ったというのはウソだけど、細部は全部本当です。でも、小説全体を読むと『ウソ話を読まされた』というのを書きたかったんですよ」と語っている。
『私家版日本語文法』や『ニホン語日記』などのすぐれたエッセイで知られ、国語問題に造詣の深い井上氏の作品には、日本軍部であれ、GHQであれ、強権による理不尽な言語破壊の企てに対する怒りと批判が込められているようだ。けれども、史実はまさに井上氏自身が語られるように物語の通りではなかった。いや、ある意味ではもっと数奇なる歴史があった。
齋藤氏は、國語にさつぱり關心を抱かない「正論」の保守派の讀者に、國語問題の歴史を紹介してゐる。10ページの記事に良く詰込んだと思はれる程、多くの事實が記載されてゐる。
新井白石、本田利明などが西洋の文字数が少ないのを見て驚き、日本語の漢字の多いことを批判的に論ずるようになった事、
江戸期の国学者による漢字批判が意外に激しく行はれた事、賀茂真淵が『国意考』で漢字を攻撃し、本居宣長が『玉勝間』で漢字に對する假名の優位を説き、平田篤胤が『伊吹於呂志』で大和言葉の音韻が漢語に對してすぐれてゐると主張してゐる事。
保守陣営がこぞって反対を表明した事、葦津珍彦らが「建白書」を起草し、教育勅語や皇室典範、明治憲法、歴代天皇の追號、敕諭、詔勅にある漢字を含む「準常用漢字」が
将来、だんだん無くしてしまうとされたのに反對した事、その結果、同年12月の「標準漢字表」では漢字數が141字増やされた事、整理・簡略化によつて
日本語を占領地政策に使おうとする軍部の思惑に葦津ら神道關係者が反對し、潰えさせた事。
1945年6月、カリフォルニア州モントレーの民政集合基地の日本占領教育計画主任官であったときに漢字廃止、カタカナ統一の計画を陸軍省民事部長に送付し、それは
国務省極東課の日本担当官にも送付されたが、受け入れられず却下された事、戰後來日して
日本国内の言語改革、即ちローマ字による改革の動きが盛んなことを知り、ふたたび情熱を燃やし、今度はローマ字化を提唱した事、
アメリカ教育使節団にローマ字化を勧告させようとひそかに準備したが、CIE局長代理ニューゼントが
結論は使節団に委ねるよう指示した事、その勧告が結局
柔軟なものとなつたのには
言語改革は日本側に任せるべきであって、外部から強制するものではないと考へてゐた使節團顧問ボールズの意嚮が働いたらしい事。
戦時内閣時代の精神と人材が引繼がれてゐる事、東條内閣をしても實現出來なかつた國語の表音化を、國語學者らはGHQの強權を借りて實現した事、
占領下の国語改革はGHQ、文部省、国語学者、大新聞の四者によって進められた事、戰中、軍部の戰爭政策に積極的に協力した新聞が、占領時代にはGHQの政策に再び積極的に協力した事、
左横書きをリードしたのは大新聞であった事、それを文部省はどうやら「既成事實」として利用したらしい事。
齋藤氏は、引用文は適宜、常用漢字、現代かなに改めた。矛盾を感じつつも、より多くの読者に読んでいただきたいという願いを込めて
と書いてゐる。多くの読者に読
まれたとしても、「現實主義的」な「保守派」の連中には殆ど理解されない、と云ふ事を考へれば、この齋藤氏の配慮も無駄であつたやうな氣もしないではない。
「東京セブンローズ」はNHKでドラマ化されてゐます。内容は未見なのでわかりません。