岩波新書で戰後刊行された遠山茂樹等の『昭和史』を「この歴史には人間がいない」と龜井氏は激しく批判した。さうして起つた「昭和史論爭」は、マルクス主義全盛の時代に行はれ、マルクス主義の歴史觀に疑問を投げかけた歴史論爭であつた。この「昭和史論爭」における龜井氏の發言を、本書は全て收録してゐる。
タブーとされてゐたマルクス主義批判が行はれた「昭和史論爭」は、歴史學を「マルクシズムの呪縛」から解放した有意義な論爭だつた――堀米庸三氏は『歴史と人間』でそのやうに指摘してゐる。
現在も、史觀やイデオロギーに基いて歴史を割切る非人間的な「學問」はなくなつてをらず、歴史における人間の役割を強調した龜井氏の主張は意義を失つてゐない。