制作者(webmaster)
野嵜健秀(Takehide Nozaki)
改訂
2006-07-10

HTML学習上の注意点

この記事で私は、一般的な「常識」に反する事を書きました。反撥したくなる人も、あるかも知れません。しかし、「PC Tips」の記事を読んでいただければ、これらの「アドバイス」が全く根拠のないものでもない事には、納得していただけるのではないか、と存じます。

下手に他人の書いたサイトのソースを見ない、真似しない。

適切な指導者の下で実技を覚えるのならばともかく、「独学」で「経験を積む」事は、決して良い事ではありません。その手の「学習法」をとった場合、「独り善がり」に陥りがちです。

残念ながら、すぐれたHTML文書を書く人は、世間にそれほど多く存在しません。見た目が派手で綺麗なサイトは確かにたくさんあります。しかし、その種のサイトの制作者が書くHTML文書は、大半がHTMLの仕様に適合しないものです。何も知らない初心者が、余所のサイトのソースを見て学ぶのは危険です。

多くの「苦労してHTMLを書くホームページの作者」が「ソースを覗かないで」と但し書きをサイトの文書に載せます。その種の制作者が、そんな言葉を記載するのには、確かに理由があります。彼らは「自分の書いたソースは良いソースだ」と信じ、それを「パクられ」たくないから、「覗かないで欲しい」と注意書を載せるのです。

しかし、彼らの書いたHTML文書の大半は、良くないものであり、参考にすまじきものです。

より良いHTML文書を書きたい人は、良いガイドについて、正しいHTMLの書き方を早いうちに理解する様、努力して下さい。もし余所のサイトの文書を参考にしたい場合は、Another HTML-lint gatewayを利用し、その採点結果とコメントを参照して下さい。もちろん、それで十分なのではありません。

リファレンスは購入しない

やはり、すぐれたガイド本は、いくらも存在しません。書店でも、よく探さないと見つけられません。書店の店員に聞いたところで、せいぜい「親切」な店員に適当な「ホームページ入門」を押付けられるだけです。良く売れる本はすぐれた本だ、とも限りません。店員さんに、本のよしあしの判断を全面的に任せるのも、無理があります。

そもそも、全くの素人は、どの本が良いかを判断できません。友人に聞いても、その友人も良く知らない筈ですから、必ず良い本を紹介されると限りません。「コンピュータの専門家」ですら、HTMLをよく理解しないまま、ウェブサイトの作り方について、変な信条を持つ事があります。

W3Cの仕様書を見るのが、本当はHTML学習の一番の早道です。仕様書を見て、間違った仕様を覚える事は絶対にありません。逆に、素人が仕様書以外のリファレンスを見た場合、常に誤った知識を得る危険があります。

リファレンスに頼る場合、常に間違った知識を得る可能性のある事を、初学者は肝に銘じておいて下さい。

私個人の知る限りでは、HTMLの学習に役立つ参考文献に採り上げた数册の本は、誤りが少く、役に立ちます。しかし、初学者がHTMLの事を学ぶのに便利なリファレンスは、書籍にはほとんどありません。

私が初心者に本当にすすめられるリファレンスの一つが、ウェブ上にあるサイトですが、はじめてのWebドキュメントづくりです。このドキュメントの筆者である内田明氏は、HTML 4仕様書邦訳計画で仕様書を翻訳した人です。仕様書を全部読んだ内田氏が書いた解説ですから、はじめてのWebドキュメントづくりは信頼できるガイドです。

最近は、ほかにもいくつか、信頼できる解説が公開され、参考にできる様になりました。

「ホームページ作成ソフト」は有料のものを選ぶ

私は「ホームページ作成ソフト」を初心者が使用する事を否定しません。

但し、一度その手のソフトを使った人は、そのまま使用し続けるべきです。HTMLそのものを勉強せず、ソフトに任せきりにすべきです。その様にすれば、その人はHTMLを知らないで済みます。HTMLを知らないならば、その人はHTMLを誤解する事がありません。

また、その様な人は、有料の商用ソフトを使用して下さい。一度お金を払ったソフトなら、なかなか捨てる気にもならないのではないですか。それに、お金を払ったのなら、その人は自分が悪いHTML文書を公開した責任を、そのソフトに転嫁できます。

一方、「正しいHTML文書を書く」と決意した人は、一切の「ホームページ作成ソフト」を使用せず、取敢ずテキストエディタでHTML文書を書く訓練をすべきです。きちんと、正しいHTML文書を作れる様になったら、その人は実際にウェブサイトを運営する上で、テキストエディタを使用するか、一部の割と良くできた「ホームページ作成ソフト」を使用するか、を自由に選べます。

書き方を選ぶ自由を得たい人は、正しいHTML文書を書く方法を学ぶためにテキストエディタで学習し、色々な選択肢があると迷ってしまって困る人は、最初に選んだ一つのツールを使用し続けるべきです。

一つだけ注意すべき事を申し上げておきます。「タグ挿入型」の「HTMLエディタ」を初学者も中級者も使ってはいけません。必ず「WYSIWYG型」の「ホームページ作成ソフト」を使って下さい。HTMLの事を知らない人間が、HTMLのソースを適当に弄れる「タグ挿入型」の「HTMLエディタ」を使用するのは危険です。「WYSIWYG型」の「ホームページ作成ソフト」を普通に使って下さい。「WYSIWYG型」の「ホームページ作成ソフト」は、変な事をしなければ、それなりのソースを吐きます。

また、「ホームページ作成ソフト」は、必ず最新のヴァージョンを選んで下さい。古いエディタは、しばしばデフォルトで非道いソースを吐きます。AdobeのPageMill等は、間違ったソースを吐く事で有名です。他の「ホームページ作成ソフト」も、古いものほど、問題が多い可能性があります。勿論、必ずしも「新しければ良い」訳でもありませんが。

それから、余計な御節介かもしれませんが、一言。Windowsのメモ帳でもHTML文書は作れます。作れますが、探せばもっとほかに便利なエディタはたくさんあります。メモ帳を利用しても結構ですが、それに拘る必要はないのではないですか。

HTMLにおけるマーク附けの本質を掴む

「ある種の規則に従って『タグ』と呼ばれる記述を追加する事によって、普通のテキスト文書をコンピュータのプログラムが理解できる形に直す」事が、HTMLにおけるマーク附けの本質です。

この事を把握すれば、「HTML文書を書く時の作法」は理解できます。そして、W3Cが、極めて巧みに「Strict」な要素を選んでHTMLの仕様を作った事は、勉強するうちに理解できてきます。

正しいガイドや参考文献について学べば、それほど学習時間もかかるものではありませんし、自然にStrictなHTML文書を書ける様になるものです。そして、勉強自体が面白くなり、より良い書き方を探す事が楽しくなります。HTMLにのめりこんだ挙句、HTMLのレヴェルを越えて、XMLやその他の技術をすすんで勉強しはじめた人は少なくありません。

逆に、余計な知識や裏技ばかりを、あちこちのサイトや色々な本で見て学ぶと、却って頭が混乱します。そして、そのうちHTMLの事が嫌になります。

HTMLを学習する人は、HTMLの習得に専念すべきです。

――これらの理念は、それぞれ独立したものです。初学者は、何でもかんでも一緒くたに学んだりはせず、必要な事を個別に学んで下さい。そして、それぞれの事を理解した上で、その後で、それぞれの項目をつき合せ、考察する様にして下さい。色々な事を手っ取り早くまとめて理解しようと横着するのは、やめて下さい。却って回り道になります。

ブラウザを基準に判断しない

ある特定のブラウザが提供する見た目だけを考慮して、多くの制作者はHTML文書を作ります。「Netscape Navigator 4.xのユーザがまだ存在する現状、Netscape Navigator 4.xでも見ばえのするデザインを実現できる様、HTML文書を記述するのは当然だ」と、多くの制作者が主張します。あるいは、「Netscape NavigatorとInternet Explorerで同じ見た目になる様、ホームページは作るべきだ」と多くの制作者は主張し、その主張を実践します。

しかし、「デザインが大事」なる意見は、あくまで「ブラウザで閲覧される」事を前提としたものです。HTML文書を読込み、解釈するプログラムは、エンドユーザのブラウザだけではありません。Netscape NavigatorやInternet Explorerだけではありません。

httpのプロトコルに基いて、色々なプログラムがあちこちのサーヴァで公開されたHTML文書を読みにきます。もし本当に「現状」に対応する積りなら、その種のプログラム(User Agent一般)の事も考慮して、制作者はHTML文書を作成しなければならない筈です。

そもそもブラウザを限定する事自体、「現状」では意味がないのです。制作者は、ウェブサイトに「Netscape Navigator 4.xで見て下さい」と書く事はできます。閲覧者はその種の記述に従ってくれるかも知れません。しかし、検索エンジンのロボットは、その種の記述を全く無視して、HTML文書にアクセスします。制作者は、ある特定のブラウザのみをターゲットとしてHTML文書を作成し、公開する事が、現実にできません。

HTML文書を読んで、解釈するのは、httpのプロトコルに準拠した全てのプログラム(User Agent)です。そこまで考慮して、W3Cは、HTMLのあるべき仕様を検討し、定めました。ある特定のブラウザを基準にする制作者には、より広い視野からウェブを見る事を、W3Cは奨め、それに役立つ情報を提供します。

もちろん、ウェブ制作者には、「W3Cの勧告に準拠しなければならない義務」など、ありません。しかし、ウェブ制作者は一概にW3Cの勧告を無視すべきでもありません。制作者は、敢て進んで視野を狭めるべきではありません。最初からW3Cの勧告を無視するのは損です。W3Cの勧告を理解した上で、それに準拠するか、しないかを決めても、良いのではないですか。