ISO規格の認証取得は、企業に多大なメリットをもたらします。これは、多くの企業がISO 9000の認証を取得するのに、積極的な努力を怠らない現状を見れば明かです。
しかし、ISO/IEC 15445:2000を積極的に採用するメリットを感じないサイト制作者は、少なくありません。実際のところ、ISO/IEC 15445:2000は、ISO規格として、十分に周知徹底されたものではありませんし、現実に存在するウェブサイトでも採用された例はあまりありません。
そこでこの文書では、ISO/IEC 15445:2000に準拠する事によって、サイト制作者にどの様なメリットがあるかについて、考察・検討してみます。
ただし、ISO/IEC 15445:2000のメリットについては、必ずしも仕様書に規定がありません。よって、以下の記述において「メリット」として挙げる内容は、主に野嵜個人の考察による私見に基くものであり、原規格策定者の確認・認証・了承などを経たものではありません。
ISO/IEC 15445:2000には、以下の様なビジネス上のメリットがあります。
ISO/IEC 15445:2000は、認証の費用がかかりませんし、他のISO規格に比べて初期の費用もかかりません。
「ISO準拠」とか「JIS準拠」とかいったキャッチフレーズを、自社のウェブサイトで使用できるのは、企業のサイトにとってメリットのある事です。
World Wide Web Consortium(W3C)は、ウェブではそれなりに権威のある団体です。しかし、その権威は限定的です。「W3Cの仕様準拠」と言っても、一般の企業の間では通りが良くありません。
一方で、ISOの名前は、企業では割合に通じます。また、JISを知らない日本の企業はありません。
現状、ISO-HTMLを採用しているサイトは、それほど多くは存在しません。企業のサイトは殆ど存在しません。個人サイトも少ししかありません。
しかし、これは逆にチャンスと見る事ができます。
今なら、「ISO-HTML準拠のパイオニア」となれます。「早い時期にISOの仕様に準拠した」事は、企業のサイトにとって良いキャッチコピーとなります。
ISO/IEC 15445:2000を採用すれば、比較的低コストで、昨今、注目されつつあるバリアフリーに対応できます。到来しつつある高齡化社会に対応したサイトを、いちはやく公開できます。
ISO/IEC 15445:2000準拠のHTML文書は、容易にW3CのWAI適合となります。ISO/IEC 15445:2000を採用するのは、それ自体、障碍者をも含めた閲覧者への配慮となり得ます。
もちろん、文書の作り方によっては、WAI不適合にもなります。ただ単に「エラーがない」だけの文書でも、「ISO/IEC 15445:2000準拠」と称する事は可能だからです。
しかし、正規の手続きを経て作成された文書であれば絶対にあり得ない「不正な記述」は、いくつか想定できます。その種の「不正な記述」を排する事ができれば、生成されるHTML文書は、パターン化された、同時に、アクセシビリティの高い文書となります。
最近は公共機関もアクセシビリティの高いサイトを持つ事に意欲的です。ISO/IEC 15445:2000準拠のサイトを作るノウハウを持つウェブデザイン企業は、公共調達の際、競合他社よりも優位に立てる可能性があります。
従来、デザイン、文書作成、更新、メンテナンスまで外部に発注せざるを得ず、サイト制作・運営にはコストがかかりました。しかし、ISO/IEC 15445:2000を理解し、うまく利用する事で、企業はサイト運営にかかる費用を最大限圧縮できます。
ISO/IEC 15445:2000に準拠した文書では、HTML文書の記法が統一されます。そのため、以下のメリットが生じます。
一般のサイトがJavaScriptその他の「高度な技術」を採用して、見ばえのするものであるのに対し、ISO/IEC 15445:2000準拠のサイトは比較的、地味なものになりがちです。
しかし、一般的な「高度な技術」が、閲覧者にとって本当に有益なものなのか、むしろ閲覧者をサイトから追返してしまったりする可能性もあるのではないか、反省してみる必要があります。
見た目からして簡素なサイトは、制作者にとっては寂しく感じられるものであるかも知れませんが、閲覧者にとってはわかりやすく感じられるものです。作りが簡単な、わかりやすいサイトならば、閲覧者はサイトの中を容易に移動できます。閲覧者はサイトの内容に集中できます。その結果、サイトで紹介されたあなたの会社の製品やサーヴィスに、閲覧者は興味をいだくかもしれません。
制作者にとっても文書の簡素化はメリットとなります。一般の「高度な技術」を採用したサイトは、エラー対策や、ブラウザのバージョンアップに対応したメンテナンスが必須です。それらの作業には当然、費用がかかります。
ISO/IEC 15445:2000は、その種の「高度な技術」を規格から排除しました。企業は、ウェブサイトを運営する際に問題となる技術上のリスクを、あらかじめ減らしておく事ができます。その結果、技術的なトラブルに対処するための費用も減らせます。
CSSによって見た目を定義した、デザインを重視したサイトを作る事も可能です。ISO/IEC 15445:2000準拠でも、ヴィジュアル面で一般的なサイトに劣らないサイトを構築することはできます。
いったんデザインを作り上げておけば、以後は最低限のコストでサイトの運営、維持、拡張が可能です。将来、CSSの規格が拡張され、ウェブブラウザの機能が強化されても、一般的なサイトと違って、ISO/IEC 15445:2000準拠の文書をベースに作られたサイトは、すぐに最新の環境に対応した高度なデザインを採用できます。
サイト全体で一つのCSSによるデザインを共有し、統一感のあるサイトを構築することもできます。CSSによって統一されたデザインを使用するのは、CI(コーポレート・アイデンティティ)を印象的に表現するのに役立ちます。
最新の閲覧環境には高度なデザインを提供し、従来の閲覧環境にはそれなりのデザインを提供する、といった事も容易に可能です。PC用のサイトとモバイルサイトとを区別して、それぞれに最適化されたサイトを個別に制作する、といった必要がありません。
非常にこまかい話ですが、ISO/IEC 15445:2000準拠の文書は、デザインを分離し、基本的な文書の構造のみが記載される事になるので、サイズが小さくなります。一つの文書で数バイトから数十バイト程度のサイズの削減になります。
一日に数件のアクセスしかなく、数個のファイルしかないサイトでは、この程度の事はあまり意味がないかも知れません。しかし、数千から数万のファイルを含み、多くのアクセスを集めるサイトでは、個々のファイルのサイズを削減する事で、サーヴァを占有するデータの量と、サイト全体のトラフィック量とを減らせます。
サーヴァの容量は当然の事として、トラフィックの量、データの転送量は、サーヴァの維持費用に大きく跳ね返ってきます。少しでもコストを削減したい企業にとって、ISO/IEC 15445:2000を採用するのは、データ容量削減・トラフィック削減の面からも有効です。
従来の工程にもとづいたウェブサイト制作の現場では、サイトを運営する主体がぼやけてしまった事がしばしばありました。
企業が、ウェブサイトの制作を制作会社に発注したとします。従来、この時の、企業の担当者、制作会社のデザイナーやプログラマの力関係は、微妙なものとなりました。企業の担当者がウェブに関する知識を持たない場合、両者の間で相互に責任を転嫁する事態が、しばしば生じました。
これは、サイトの制作に一定の工程と、評価基準とがない事が原因で生じた事でした。企業の担当者も、制作会社も、サイトを作る際に、いきあたりばったりのやり方をとる事が多かったのです。
ISO/IEC 15445:2000では、定められた工程があります。情報の内容と、デザインとは分離されます。その結果、サイト制作に於いては、以下の様な役割分担が要請される事になります。
以上の二者は、以下の様なコーディネータ(一人または一定の方針にもとづいて行動する組織)の監督を受けて、サイトの制作に参加します。
これにより、サイト制作に参加する人間の役割分担と責任の分担が明確化されます。
ISO-HTMLを採用せず、独自に文書の構造を設計する事はできます。しかし、その場合でも、標準的な文書構造を想定したISO-HTMLの規格を参考にするのは意味がない事ではありません。
また、サイト制作の担当者が交替しても、基本的なサイト制作の工程があるのならば、サイトの一貫性は保たれます。