俳句と、やきものと、季節の話題のサイトです。花や鳥のこと、染付、色絵、赤絵の四季折々の器のことなど、ごゆっくりどうぞ。「うつわ歳時記」は、2001年4月1日に開始しました。「今月の表紙」は毎月第一月曜日に、「工房より」は毎月曜日に更新します。 石川県加賀市 橋本薫(おるか)、橋本俊和(オットセイ)

うつわ歳時記

   散れ散れ桜、あるいは落魄の愉しみ


桜前線は着々と北上し、我が家の枝垂れ桜もそろそろ開花しそうです。 花を待ちながら、器でお花見の昼ごはん。

染付の青い桜もまた一興と御覧ください。 加賀棒茶の入った色絵の青い桜は、藤原定家の、

 

   春はいぬあを葉の桜おそき日にとまるかたみの夕ぐれの花  定家  

 

の、一首をイメージしました。

写真奥の桜川大鉢は窯の入り口を通るギリギリの大きさです。手前の塗りの板の上の、染付盃は灰釉がかけてあります。青みがあって、よく見ると小さな鉄分の点がぽつぽつ飛んでいます。これは、あえて、窶しているんです。 たとえば、官窯の焼き物は、歪みもなく一点の染みもなく云々と褒めたたえられますね。勿論ご立派です。でもそういう分かり易い基準だけが美ではないのは皆さまご存知の通りです。徒然草にも「花は盛りに月は隈なきをのみ見るものかは」とあります。余談ですが、徒然草は江戸時代にはとてもよく読まれて、かなり大勢の人が知っていたそうですね。たしかに、なにかと引用されています。弁理だったのでしょうね。

徒然草を待つまでもなく、窶しの美学は、趣味人の伝統かもしれませんね。 お茶の世界で言う「茅屋に名馬を繋ぐ」もまた、同様でしょう。「流離の子の鄙にてうつくしきがごとし」は世阿弥でしたっけ、うろ覚えで何ですが。ボードレールの詩集「悪の華」の中の「露西亜人の娼婦」(ベタ直訳ですみません)で亡命貴族かもしれない少女娼婦の服の破れから、彼女の若さと美しさがのぞく、という一節が、思い出されます。洋の東西を問わず、趣味を極めると最後は一切放擲してなんでもないところへ行きつくのでしょうかしらね。

プルーストの「失われた時を求めて」の第一章「スワンの恋」では審美家として社交界の寵児だったスワン氏がどうにも趣味のない女性と恋に落ちて落魄の人生を送る様子が描かれています。落魄こそ、畢生の趣味人の極めに究めた後の命がけの遊びではなかったかとおもったりします。

私なんぞは、窶す必要もない。はなから貧乏ですけどね。 貧乏も落魄も、なかなか味わいのあるものです。花は散って地に落ちてこそ風流。かなわなかった思いも、あまりやすやすとかなえてしまった恨みも共に抱いた落魄の愉しみもまた風情と云うものですね。
今日は花冷え。ひとりで「模様のちがう皿」でお昼にしましょう。食後は桜茶でも飲みましょう。

 

    一碗に去年の桜の香の蒼く    おるか


2019年4月1日


お知らせ
また今年も日本橋高島屋で春の食器展をおこないます。
「四季の味」という料理雑誌に掲載された器など、20ッ点ほど出品します。
御覧いただけるとうれしいです。3月27日から4月2日までです。

春の食器展
場所:日本橋高島屋(MAP)
期間:3月27日から4月2日