誰も聞こえないのか!?
ソニー・サンジェイ
あらすじ:
ヴァージニア州にて、変死事件が発生した。
死亡したのは、サンジェイという医学博士である。一見すると、その死様は、精神疾患による衝動的自殺であった。たまたま、手元にあったペーパー・ナイフを、耳穴の最奥部へと、突き立てたのである。
サンジェイの自殺現場となったのは、勤務先のニュージェニクス・テクノロジー社であった。ニュージェニクス・テクノロジー社は、国防総省の委託を受けて、再生医療などの研究事業に、従事している。そのコンピュータ・サーヴァ室において、サンジェイは、何らかの重要情報を、入手せんとしたらしい。
ニュージェニクス・テクノロジー社の同僚によれば、変死直前のサンジェイは、会議の席上において、“誰も聞こえないのか”と、意味不明の言葉を、発したという。
File No.1002(#1AYW05)
原題:Founder's Mutation
邦題:変異
脚本/監督:James Wong(ジェームズ・ウォン)
引用:
・All Great and Honorable Actions are Accompanied(Undertaken) With Great Difficulties.
We Choose to Go to the Moon in this Decade and Do Other Things, Not Because They're Easy, But Because They are Hard.
John Fitzgerald Kennedy
(偉大にして、名誉ある行為は、ことごとく、大いなる困難を伴う。
我々は、他の難題解決に加えて、今後、十年以内での月面着陸を、選択した。それは、容易だからではなく、困難ゆえである。
ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ)
備考:
・原題は、“創始者変異”の意。
生物の繁殖過程においては、時に、遺伝子異常の個体が、生じてしまう。これが、突然変異である。しかしながら、大半の突然変異体は、その遺伝的脆弱性ゆえに、一代限りをもって、早世する。
その一方で、ごく稀に、突然変異の遺伝子が、子々孫々へと、受け継がれる事例もまた、存在する。そうした子孫の祖先は、創始者と呼称される。そして、その創始者に生じた、遺伝子の突然変異こそが、創始者変異なのである。
創始者変異は、生物のさらなる進化を、促進する作用としても、注目される。
・ケネディは、第三十五代米国大統領として、内政および外交問題の解決に、尽力した。それらの難題にあって、特別、重視したのが、宇宙開発である。当時の米国は、開発競争において、ソヴィエト連邦の後塵を、あくまでも、拝していた。そうした苦境にありながら、十年以内での月面着陸を、あえて、宣言したのが、一九六二年九月十二日、テキサス州ヒューストンのライス・スタジアムにおける、ケネディの演説であった。
果たして、一九六九年七月二十日、米国は、ソヴィエト連邦に先駆けて、人類初の月面着陸を、達成する。しかしながら、ケネディは、すでに、地上の人ではなかった。テキサス州ダラスにおいて、ケネディが暗殺されたのは、一九六三年十一月二十二日の事であった。
・妊婦・アグネスを演じるケイシー・ロールは、『ハンニバル』のアビゲイル・ホッブス役でも知られる。
『ハンニバル』においては、アンダーソンもまた、ベデリア・デュ・モーリア役で、出演している。
私見:
スカリーは、人工授精によって、ようやくにもうけた、愛息のウィリアムを、『ウィリアム(File No.916)』において、手放さざるを得なかった。その心痛が、決して、癒えない事は、『真実を求めて』においても、言及されているところである。
そうしたスカリーに対して、一方のモルダーは、どことなく、淡々としている。ウィリアムとの関係については、あくまでも、精子提供者に過ぎない、と、割り切っているかのようでもある。それが、今回に至って、ようやく、父性を窺わせる。あり得たかもしれない、ウィリアムとの生活を、夢想するのである。そのきっかけとなったのが、カイル・ギリガンとの邂逅であった事は、疑うべくもない。
ギリガンもまた、ウィリアムと同様、遺伝学的実験の産物であった。そればかりではない。常人にはない、特殊能力を有する点においても、一致している。超高周波によって、他者の脳神経を、刺激するのである。その特殊能力によって、図らずも、生じてしまったのが、サンジェイの自殺であった。ギリガンは、サンジェイの遠隔操作を、試みたものの、その特殊能力を、自制できなかったのである。実母のジャッキー・ゴールドマンによれば、ギリガンは、妊娠・九ヶ月での早産児らしい。だとすれば、その特殊能力もまた、未熟であるのは、当然なのかもしれない。実際、ギリガンは、特殊能力の標的を、選り好みしている節がある。サンジェイの自殺後、新たな操作対象者として、ギリガンが選択したのは、モルダーであった。その一方で、傍らにあったにもかかわらず、スカリーは、一切、影響を受けなかった。どうやら、ギリガンの特殊能力は、必ずしも、万人に作用するわけではないらしい。
いずれにしても、ギリガンは、モリー・ゴールドマンとの共鳴によって、その特殊能力を、ようやく、我がものとしたようだ。両者は、触れずして、モルダーとスカリーを、なぎ倒した上、人体実験の首謀者にして、実父のオーガスタス・ゴールドマンに、復讐を遂げる。ギリガンとモリーは、生き別れの姉弟にあたる。この再会を、希求すればこそ、ギリガンの軌跡は、存在したのである。
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