藪漕ぎの楽しみ

 

     

 

【五代の別れ〜五代が森縦走計画(単独)】(2001年9月23日〜24日)

 

 この計画は、昨年の上兜縦走の“次に”と、懸案の山行だった。しかし、その計画の実行は唐突にやってきた。鬼(相棒は、カナダに旅行中だ)のいぬ間に・・・の計画の実行である。五代の別れまでは、かねてからの予定どうり、坂瀬から堂が森への路を選んだ。

 

が、思いついたのが昼食の前だった。従って登山口に着いたのは、午後2時である。前回(ニの森へのピストン―昨年11月23日)の山行時より野薔薇の勢いが強く山鉈を振るう手も、疲れを隠せない。坂瀬川上流部の、六分谷の源流部で谷を横切る場所を3時35分に通過し、笹の斜面を上がると六分峠だ。

 

 

 

 

 ここからは、台風で今は廃道となってしまった梅が市からのルートを辿り、通い慣れた縦走路を歩ける。堂が森の肩には4時45分に到着。暗くなる前にツェルトを張る場所を・・と先を急ぐ。

 

 

 

 しかし、“五代の別れ”の手前でガスが稜線を越えて来た。しまったと思ったが、もう遅い。“窓越”はガスが吹き抜けているし、1784mピークまで行くと暗くなってしまう。仕方なくコル手前の適当な場所にツェルトを張る(5時30分)・・・第一の誤算(アクシデントの始まり)。

 

 

 

 

堂が森の向こうに広がる道後平野に夕陽が落ちていく、「ここからの夕陽を見た人が、何人くらいいるんだろう。」感慨に浸りながら寛ぐ、・・私はこの“瞬”を味わう為に、足を運んでいるのだろうか?

 

 

 

心地よいコンロの音での夕食は、ラーメンと巻き寿司・・もう明日に備えて寝るだけだ。この計画は、ツェルトとシュラフカバーで・・が・・ザックからは、シュラフカバーは出てこなかった。しかし、カッパを着たらいいだろう。・・考えが甘い!寒い・・寝つかれない。ザックをひっくり返してレスキューシートを身に纏う、外は“ゴーゴー”と唸り声の風の音、ハッと気が付くと足下にガスコンロが転がっている。ヘッドランプを点けて、慌てて拾い集めた(ツェルトを張った場所が悪かったのだ)寝つかれない侭、何回もローソクに火を灯し、暖をとりながら夜明けを迎えた。

 

 

小鳥のさえずりが聞こえた。ツェルトをはぐると、満天の星だ。昨夜の唸り声は、今日の晴天の前触れだった。朝食を・・・が、コンロのバーナーが無い。(そんなバーナー)と云っていられない。仕方ない、1リットルの水で“何とかなるさ〜”で、気を取り直し、紅茶を飲みパンを齧りながら、満天の星の下出発である(5時20分)。踏み痕があれば2〜3時間で縦走可能と考えていたが、踏み痕を見出せない。スズタケの勢いが強すぎる・・・焦るな!と自分に言い聞かせる。黒いシルエットの、岩黒山からの日の出にシャッターを押す。6時に1749mを通過。左方は、石鎚東稜に聳える南尖峰が、先日辿った面河川に落ち込んでいる。右手には、昨日の登路である坂瀬の谷と、笠方ダムが望まれる。所々でテープに出会う、尾根を外さないように慎重に歩を進める。7時40分、眼前にキレットが現れた。

 

 

堂が森からも、ニの森・面河尾根・石鎚からも望見できた“五代の稜線のキレット”だ。しかし、鞍部に降りると、先人の赤テープに導かれて、思ったより簡単に“それ”は通過できた。そして1674mピークに8時30分に到着。やはり、思ったより時間を食っているが、五代が森まで残すは1ピークのみである。その1690mピークの西尾根を降れば、出発点の林道に戻る事が可能の筈だが、この潅木と丈余のスズタケとの格闘は・・・そして、尾根を降る危険度。もう一つは、五代が森の北の鞍部から出ている、林道のゴーロに降り立つルートも・・・この案もあっさり却下して昨冬辿った経験済の“鉄砲石川”からのルート(天野氏のHP参照)を降りよう。と考えながら、標識も何も無い五代が森のピークに立った。(10時45分)なんと5時間30分を要した、カッパを脱ぎゆっくりと休憩をとる。振り返り、来し方を望むと充実感を覚える一瞬でもあった。堂が森から石鎚の縦走路は、遥彼方に・・

 

 

この時は、8/90パーセントの計画の達成を、この先覆す事となろうとは思っても見なかった。例の潅木の密集と丈余のスズタケである。三角点の手前にある筈の赤テープを見つけられない。視界が遮られて、下降地点の特定が出来ないのである。第ニの誤算(計画のズサンさ!)。前回二度の山行は、冬枯れの雪の路でのピストンなので、下山時は足跡も確認出来ての事で、今回の、初秋の縦走後の下降とは、その意味合いは違っていた。おまけに、こちらのルートを下降ルートとしていなかったので、地図を持ってこなかった。引き返すには、五代の別れまで6時間・車デポ地点まで2時間余りは必要だ。

 

 

 

 

 後悔先に立たず(何故この時、木登りの術を使わなかったのか?)。そして記憶を頼りに、スズタケに突入だ(A地点)、・・・(無謀すぎる)・・が、視界が遮られた、目の前のスズタケの斜面は、南の方向へ向いている。「ダメダ、南へ降りたら千段の滝沢に降りる」(B地点)・・・以前、HPで得た情報を一生懸命引っ張り出そうと・・・左手の尾根を目指すが密生したスズタケのトラバースは、体力を奪うのみで容易に前進は捗らない。そして、横切っているつもりが、斜面に押されて降っていたのである。そして、あの“足音の怪”に出逢った!スズタケを掻き分ける後に、石や木片が斜面を落ちて行く音だ。やっと視界の見渡せる場所にでる。「ナンダ?冠岳があんな方向に見えるはずがない」(C地点)しかも水の音と、前方には断崖絶壁が垣間見えるではないか。

 

 

 

しかも、ここまでで植林の林に出逢わない、北の尾根を目指しスズタケの斜面を昇り返す。もう、藪の中では十分な休憩もとらない。まして記録さえ書かない。「パニックってしまっている、落ち着け!」植林の間を降っても、直ぐに自然林とスズタケ林になってしまう。「もう何時間彷徨っているんだろう」時計を見た筈だが、思い出せない。北の尾根が見渡せる場所に出た(D地点)。見覚えのある松ノ木だ。

 

それからは、必死の思いでスズタケの中へ突進して行く。「遭難なんかしたくない!今日は、友人との約束もある。」が、眼前に断崖が現れた。(E地点)・・・一縷の希望を託して、ケータイを取り出すがアンテナは立たない。五代の尾根上では、デジカメも取り出していたが、今はその余裕も無い。

 

北方向に見える「あの尾根には、辿りつけないのか?」

 

 

そうだ、この尾根を上がればあの尾根と合わさる筈だ。と尾根を昇り始めたが、10分も昇ると気力が失せる。ここでビバークか?2〜3分ウトウトとした。時計を見た、「4時じゃないか、あの尾根までいって決めよう」残り少ない水を飲み(最後の水は、尾根に着くまで・・・と)奮い立たせる。黒い鳥が目の前の木にとまった。「タスケテクレ〜」無意識に叫んでいた。弱気になっちゃダメダ・・・「ファイト〜」声をだし、自分自身を励ました。何故か涙が出て来る「弱気になるな」自分に言い聞かせながら、ガムシャラに昇った。

 

 

 

 

時間は?「えっ〜」無い・・腕時計が無い。そして、なんでもない処で木にメガネを引っ掛け、メガネまでも無くした。力尽きた、そこは枯れ沢だった。(F地点)「モウ、ダメダ」友人との約束も果たせない。明日、その事を知って“遭難騒ぎにでもなったら・・・否、騒ぎになる前に下山すればいい”とビバークの準備をしようとザックを見ると、無い・・・天蓋に取り付けていたカッパが無い。カッパのポケットには、ヘッドランプを入れておいたのに・・気を取り直して、「ここでビバークするなら、水が出ている処まで降ってみよう」と、少し降ると、チョロチョロと水が涌き出ている。笹の樋で、水を集め思い切り飲んだ。

 

ふと下流を見渡すと、どこまでもゴーロ状の峪がゆるやかに下っている。「そうだ、ここを降ってみよう。少々の滝なら細引きを繋いで降ることも出来る(尤、10mまでだが)」又、気力が出てきた。思えば、弱気の虫が出たり引っ込んだりの繰り返しだ。降り始めて暫らくは、水が“現れては枯れ”の繰り返しだが、同じような傾斜の谷が続いている。あたりは薄暗くなり始めるが、よく滑る石に(尤、足にも疲れが出でいるが)思うほどピッチは上がらない。滑床がつづいている個所を廻り込み、ふと足下の苔を見ると足跡だ。今日下降し始めて、初めての“人の痕跡”だ。希望が湧いてきた。

 

どのぐらい降ったか、前方に何か見えた。林道か?急いで降っていくと、それは林道に落ちる断崖と、滝だった。(G地点)見覚えのある滝だった。気持ちを落ち着かせる為、ザックを降ろして水を飲む。下山開始後、初めてデジカメを取り出し(6時)滝の上部を廻り込み、あたりの様子を見る「布引の滝ダ」・・・すでに陽はかげり、あたりはもう暗くなってしまった。左の絶壁を廻り込むと林道まで木が茂っている、「ここを降りよう」決断は早かった。林道に降り立った(H地点)のは、間もなくだった。

 

 真っ暗な林道を歩き、面河渓谷の国民宿舎に着いたのは7時前だった。急いで友人に連絡し、夕食をたらふく食べ(今日一日は、満足に腹にはいっていない)熟睡を促すビールを飲んで疲れを癒した。しかしその夜は、お約束の熟睡は出来なかった。後悔や教訓の多い山行だった。しかし次の瞬間、失ったものは帰ってこないし・・・と、いつもの私に戻っていた。

 

 【教訓と反省点】

●準備不足だった。(少なくとも山行の前日には、準備すべきだ)

●藪漕ぎ初心者印の身で、下山路の確認不足だった。(初めての尾根の下降を下山路に計画!)

●下降点が確認出来ない侭に、降りる・・・30分でも1時間でも探すべきだった。 

●路迷いの段階で落ち着いた行動がとれなかった。(もっと経験を積もう)

 

 旅行から帰ると、ひどく興奮気味。お土産話も聞かずに、原稿を読め読めというので、最初はおもしろがって読んでいくうち落としたものの多さに(・。・)、、、。命だけは落とさなかったのが幸い(^・^)。損失は○○万円!

 《もう、ひとりでは行かれんじょ!!》