ユリマちゃんの夢のお告げの通り、滝の洞窟にあった水晶玉を見つけて、それを無事にルイネロさんに渡す事が出来た。
初めはルイネロさんは『よけいな事をするな』って怒ってて、水晶玉を砕きかねない勢いだったけど、ユリマちゃんの説得で何とか占い師として復帰する決意をしてくれた。
自分の占いのせいで、ユリマちゃんのご両親を死なせてしまったと悩んで、ルイネロさんはその罪滅ぼしの為にユリマちゃんを引き取って育ててたみたいだけど、ユリマちゃんはそんなことは、とっくの昔に知っていた。
僕もヤンガスも、別に驚かなかった。
だって、この何日かの間に町の人達にいろんな話を聞いただけで、それくらい十分に推測出来たから。

復帰したルイネロさんは、ドルマゲスの事を占ってくれた。
マスター・ライラスを殺害したのはドルマゲスだと聞かされたけど、改めて酷いヤツだと思うだけで、それも別に驚かなかった。
それも町の人たちの話を聞いてる内に、そうじゃないかと思ってたから。

ドルマゲスは南の方にある、リーザスって村へ向かったと教えてもらい、僕たちはすぐに後を追って、トラペッタの町を出た。
途中の関所は、知らない人間が見たら、かつては関所だったなんてわからない程、無惨に破壊されていた。
普段は強気の王様も、さすがに動揺を隠せないでいた。
健在だった時の関所の姿を見ているヤンガスの話によれば、この関所の門はいくら魔法を使っても、人間の力でどうにか出来るような物ではなかったらしい。
だけど、ドルマゲスがとんでもない力の持ち主だってことは、城にかけられた呪いを見て、十分すぎる程わかってたんで、それも別に驚かなかった。

関所を越えた途端に襲ってくる魔物が強くなって、それはちょっと驚いたけど、基本的に僕は、ずっと自分の事ばかり考えていた。

《わしの偉大なる攻撃をひとつも受け付けぬ、その体質!》
水晶を取りに行った洞窟で戦った、滝の主が言った言葉がどうしても気にかかって仕方なかった。
確かにあの戦いで、滝の主が巻き上げた霧は、一度も僕の身体には届かなかった。
僕よりレベルアップのペースが早くて、力も強くて体力もあるヤンガスでさえ、何度もあの霧に身体を動かなくされてたのに。
『その体質』って言われたって、僕は何も特別な体質なんかじゃないはずだ。
僕の記憶にある限り、身の回りで不思議なことなんて、何も起こらなかった。
身体だって大きくないし、魔法だってレベルアップしたら何とか使えるようになったけど、本当に魔法の才能のある人間なら、普通に訓練を積むだけで3〜4つは使えるようになるらしいし。
つまり僕は凡人だってことだ。
そんな僕だけが、あの茨に包まれた城の中で無事で済んだなんて、こうしている今でも信じられない。
姿だけは変わってないから気づかないだけで、本当は僕も、とっくに別の種類の呪いにかけられてるんじゃないかって思ってしまうんだ。

関所を越えた後、しばらく東へ旅していると、ずっと前方に風車が回ってるのが見えた。
まだ大分距離があるのに、これだけはっきり見えるってことは、結構高い塔か何かの上に付けられた物かもしれない。
久しぶりに人の作ったらしい建物を見たんで、意気込んでそこへ向かおうとしたら、ヤンガスに呼び止められた。
「兄貴、そっちに行くと通り過ぎちまうでげすよ。リーザスって村は、こっちでがす」
ヤンガスに言われて左を見ると、確かにすぐそこに、前方に見えてるのと同じような風車が回ってる、村の入り口らしきものが見えた。
「何をやっとるんじゃ、エイト。お前も案外そそっかしいのう」
王様にも注意されてしまった。
確かに今は、他の事に気を取られていたんで、ちょっとボーッとしてたかもしれない。
でもこの村って、回りを囲むのは木の塀で、辺りの風景に妙に溶け込んでて、ちょっとわかりにくいっていうのはあると思う。

村の中に入ってみると、いかにも整備された町っていう感じだったトラペッタの町とは全然違っていた。
土なんかも剥き出しになってて、ただ塀を作ることで周囲から遮断して、その内側に無造作に家を建てていっただけって感じだ。
何ていうか……きっとこれが『田舎』っていうものなんだろうな。

「待てっ!! お前たち、何者だ!」
村の中を見回して歩いてたら、いきなり男の子に呼び止められた。
「いーや、わかってるぞ。こんな時にこの村に来るってことは、お前らも盗賊団の一味だな!」
何だかよくわからないけど、思いっきり怪しいヤツだと思われてるみたいだ。
「マルク! こいつら、サーベルト兄ちゃんのカタキだ! 成敗するぞ!」
一方的に言いたいことだけ言って、お鍋を兜代わりにかぶった子を加勢に呼ぶ。
「いざ、しんじょうに勝負っ!!」
いや、勝負ったって……。

「こ…これ! お前たち! ちょっと待たんかい!!」
どうしていいか迷ってるうちに、おばあさんが止めに入ってくれて、子供たちはすぐにどこかに走っていってしまった。

……何だったんだろう、今の慌ただしい展開は。
何か、こんなのどかな風景の中で、あんな小さな子供に悪いヤツだと思われるのって、結構落ち込むなあ。
……あ、いやだ。
今、すごく嫌な仮定が思い浮かんじゃった。
思えば城を出てからこっち、誰かと知り合ったり、新しい所に行く度に、今みたいに襲われたり、怪しいヤツ呼ばわりされてる気がする。
どうしよう……。もし、『行く先々で必ず誰かと揉め事を起こすことになる呪い』なんてものにかけられてるとしたら。
思わず、溜め息が出てしまった。
ここでうまくドルマゲスの手掛かりを得られたとして、次に行った所でもいきなり誰かに襲いかかられたとしたら……。

…………やだなあ。

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