暗黒神の復活を阻止する為、日々命懸けの旅を続けるエイト君たち一行ですが、たまには息抜きをすることもあります。
一番多く利用される息抜き施設は、何といってもカジノなのですが、グリンガムのムチも、はぐれメタルよろいも、はやぶさの剣も、装備できる人数分は既に集めてしまったので、最近ではあまり用がありません。
ですが、この西の大陸にはもう一つ、極め付けの癒しスポットがあるのです。
魔法のカギですら開くことの出来ない秘境。
そう。それは男のワンダーランド。クラブ・パッフィーです。


ぱふぱふが行われる部屋に入室出来るのは常に一人。そして目隠しが絶対のルールです。
レディー・パッフィー曰く『快感が2倍にも3倍にもなる』からだそうです。

ぱふぱふ。ぱふぱふ。ぱふぱふ。
ぱふぱふ。ぱふぱふ。ぱふぱふ。

気の抜ける効果音と共に、両の頬を柔らかいもので挟まれると、気だけでなく、身体の余分な力も抜けていきます。
まさに究極のリラックスタイム。
……なのに、ぱふぱふを終え、仲間の待つ隣室に戻ったゼシカ嬢は、うかない顔です。
「私に勝るとも劣らない大きさの人を見たのは初めてだわ。世界一かもしれないって、自負していたのに……」
ゼシカ嬢は、一人でブツブツと呟いています。
基本的に男性対象の癒しの場の、このクラブに通い詰める事に、女性のゼシカ嬢が文句の一つも言わないのは、レディー・パッフィーと自分、どちらの胸が大きいのかを、見極めたいが為のようです。
ゼシカ嬢にとって、世界一胸が大きいというのは、世界一頭がいいとか、世界一力が強いとか、そういう事と同じだと思っているので、全く頓着せずに張り合ってしまうのです。
そういうゼシカ嬢の呟きは聞こえていないのに、ヤンガス氏はタイムリーな発言をします。
「本物のぱふぱふとは、ずいぶんちがうでがすが、これはこれでエロエロでがすよ。やっぱ目隠しってのは、想像力をかきたてるでがすね」
「えっ……本物とは違うって、どういう意味?」
誠実そうな雰囲気を漂わせていながら、実はぱふぱふ時に誰よりも口元が緩んでしまうエイト君が聞き返します。
「どういうもこういうも……あれっ? もしかして、エイトの兄貴は気づいてなかったでがすか? あのぱふぱふ、本物じゃないでがす。多分、スライム辺りでがすよ」


「「ええええええええええっ!!!!!?」」
エイト君だけでなく、ゼシカ嬢も叫びます。
「あの質感と弾力は、多分そうでげす。アッシは、ちょっと経験があるんで、わかるでがすよ」
ヤンガス氏は子供の頃、不思議なダンジョンでスライムを頭に乗せまくっていた事があるので、その経験でわかったようです。
「ヤンガス……すごいね。僕、本物のぱふぱふなんて、されたことないから、わからなかったよ」
「いや兄貴。デスセイレスやウィッチレディにされてるはずでがすよ」
珍しくヤンガス氏がツッコミを入れますが、ヤンガス氏が本物のぱふぱふの経験が豊富だと思い込んだエイト君は、全く聞いていません。
「ねえヤンガス……今度から『ヤンガスの兄貴』って呼んでもいい?」
「紛らわしいから、やめてくだせえ!」
エイト君がヤンガス氏を困らせている間に、ゼシカ嬢はあることに気が付きました。
それは今、隣室でぱふぱふを楽しんでいる、もう一人の仲間のことです。
「あれ? でも、それだとククールは……?」


「うーん。ずーっとここで、ぱふぱふしてもらいながら一生を終えるのも、悪くないな
パーティー加入当初は、クールキャラを装ってカッコつけてばかりいたククールさん、今やすっかり仲間と打ち解けた為か、アホ丸出しの発言をしながら、戻ってきました。
その表情は、心から幸せそうです。
ゼシカ嬢、そんなククールさんを、ジッと見つめてしまいます。
「……何? オレの顔に何かついてる? あ、オレの美貌に見とれてた?」
「まさか」
ゼシカ嬢、一刀両断です。
ククールさんも、もう慣れっこになってるので、今更傷つきはしません。
「ねえ、ククール? ぱふぱふ……どうだった?」
ゼシカ嬢に真顔で訊ねられ、ククールさん、ちょっと困ってしまいます。
「いや、どうだった? って言われても……。気持ちよかったとしか…って、何言わせんだよ」
「ククールは、あのぱふぱふ……」
『スライムだって、わかってるの?』とゼシカ嬢は続けようとしましたが、エイト君が後ろから腕を引っ張り、それを止めました。
「何? エイト」
発言の途中で邪魔され、ゼシカ嬢は眉をしかめます。
「オレが何?」
言いかけたことを途中でやめられたククールさんは、もっと不快です。
「えっ、と……。ククール! ゼシカの前で、あんまり他のぱふぱふを褒めたらダメだよ。自分が世界一だって自負してたのに、自信をなくしかけてるんだから」
「何言ってんのよ、エイトー!!?」
エイト君の問題発言に、ゼシカ嬢は大慌てです。
「ハッ、そうか。ごめん、ゼシカ。オレが無神経だった。ゼシカが自信を取り戻すまで、オレが専属でぱふぱふの練習台になってやるから」
「だから、違うってば! この大バカー!!」

結局その場では、話はうやむやになってしまいました。

その後、一行はミーティア姫の気分転換のため、不思議な泉へと移動しました。
束の間、人間の姿に戻ったミーティア姫と、楽しい時間を過ごした後、泉の近くに住む隠者のおじいさんの家に、挨拶に行くことにしました。
そこまでの短い道程で、ゼシカ嬢は、どうしてエイト君が、ククールさんにぱふぱふの正体を話すのを邪魔したのかを話してもらいました。
ククールさんは、修道院育ちの僧侶のくせに大の女好きで、更に絶世の美男子なので、女性からも大変モテます。
普通に考えると、このパーティーメンバーの中で一番、本物のぱふぱふ経験が豊富だと思われます。
そんなククールさんが、女性の胸とスライムの区別がついていないと本人が知ったら、プライドを傷つけてスネてしまって、面倒になるとエイト君は思ったのだそうです。
基本、ククールさんがスネた時は放置を決め込むゼシカ嬢に対し、そういうわけにもいかなパーティーのリーダーのエイト君は、その辺りの気苦労が多いのです。

「でも、実際のところ、どうなんだろう? 気づいてないのかな?」
今更なことを言うエイト君に、ゼシカ嬢は少し驚きます。
「どうなのも何も、気づいてないでしょう? 気づいてたら、あのククールが黙ってるわけないじゃない」
「う〜ん。ククールって、ああ見えて、気遣いが細かいとこがあるし、僕たちに水を差しちゃいけないと思って、黙ってるって可能性もあるかなって」
確かにそれもありそうだと、ゼシカ嬢も思いました。
エイト君も、ゼシカ嬢も、ククールさんのアホな部分が、仲間として好きですし、女性に対して節操が無いのは困りものだと思っています。
ですが、その一方で、やっぱりククールさんには、何でもわかってるカッコイイ人でいてほしいという、複雑な気持ちがあるのでした。
「やっぱり確かめた方がいいんじゃないの?」
「いや、でももしやっぱり気づいてなかったら、絶対スネると思うし……」
結局、堂々巡りのまま、隠者のおじいさんの家に到着してしまいました。


「この家に住んでいるじいさんなら、今は出かけていて、いないっちよ。だから、となりの部屋を探してもムダだっちよ。あまのじゃくなぼくが言うんだから、本当だっちよ」
あまのじゃくなスライムが一行を出迎え、親切におじいさんのいる部屋を教えてくれました。
自分で自分をあまのじゃくだと言う辺り、彼はとても正直者です。
「相変わらず、ここのじいさんは、魔物と一緒に暮らしてるようでがす。怖くないんでがすかねえ?」
そのヤンガス氏の言葉に、ククールさんも頷きます。
「スライムやドラキーを飼うのは、オレにもわかる。かわいらしいからな。けど、泥人形なないだろ! マニアックすぎやしねえか?」
一見何げないククールさんの言葉ですが、エイト君は聞き流しませんでした。
「わかるの? ククール……?」
スライムやドラキーだって、立派な魔物です。
腕っ節の強いヤンガス氏だって、怖くないのかと不思議がるのに、その魔物をかわいらしいとか、飼う気持ちがわかるとか、普通の神経と価値観では、ありえない発言です。
そしてその言葉を聞いたゼシカ嬢、悩んでいた答えに辿り着き、瞳を輝かせました。

「そっかあ! ククール、好きなんだ。スライムが!」
いきなり大声を出すゼシカ嬢に、ククールさんは目を丸くします。
「ね、エイト。ククールはスライムが好きだから、あれでいいのよ。そうだったんだぁ……。ああ、スッキリした」
「そっか……スライムが好きなら、あれで何の問題もないのか。確かにそれなら納得いくよ。良かった〜。これで今夜はぐっすり眠れそうだ」
自分たちだけで何か納得してる二人に、ククールさんは訳がわかりません。
「おい。いったい何の話をしてるんだ?」
そんなククールさんを、何となく事情を悟ったヤンガス氏が押し止どめました。
「聞かねえ方が、身のためでげす」
この辺り、やはり亀の甲より年の功のようです。


結局ククールさんが、クラブ・パッフィーのぱふぱふが、スライムだと気づいているかどうかは、永遠に薮の中になってしまいました。
それどころか、ククールさんには勝手に『スライムフェチ』という烙印まで捺されてしまったようです。
でもまあ、エイト君もゼシカ嬢も、そんなククールさんに、以前にも増して親しみを感じたようなので、これはこれで良いということにしておきましょう。
メデタシメデタシ。

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