「キャッ、ちょっと、こっちに血が飛んできたわよ。あー! スカートに着いたじゃない、どうしてくれるのよ!」
戦闘終了後、必ず剣を一振りしてから鞘に収めるククールさんに、ゼシカ嬢が文句を言います。
「あー、ゴメン。お詫びに洗濯するから脱いで。よければ全部」
悪びれもせずにとんでもない発言をするククールさんに、ゼシカ嬢はムチを構えました。
「アホなことばっかり言ってんじゃないわよ。だいたいアンタ、血が付いてない時も必ずそうやって剣を振るわよね。危ないからやめてよ、いつもヒヤヒヤもんなのよ」
「さすがにそこまでヘマはしねえけどさ、これもうクセになってんだよ。修道院時代の悲しい習性」
修道院時代のクセと聞くと、ゼシカ嬢も少し興味が沸きます。
「……理由によっては許してあげるわ。話してみて」
「ゼシカみたいな、いいとこのお嬢には話したって無駄さ」
バカにするようなククールさんの声の響きに、ゼシカ嬢は益々ムキになります。
「そんなこと決め付けないでよ、いいから聞かせて」
ククールさんは遠い目をして、ゆっくりと話し始めました。
「チューブ式のハミガキあるだろ?」
「はい?」
「あれ、最後の方になると中々出てこないけど、反対側持って思いっきり振ると出しやすくなって、結構使えるんだよな」
「アンタ、何の話してるの?」
「だから、とにかく振ればいいってクセがついちまって、剣も最後に振っちまうって話」
ゼシカ嬢は脱力しました。
「セコすぎる。怒る気なくしたわ……」
しかし、周囲の仲間はククールさんの話に感心していました。
「ああ、そうすれば良かったんだ。いつも反対側を切って、こそぎ出してたよ。ククール、あったまいい!」
「うんうん、物を大事にするのは大事なことでがす」
「だよな、修道院って限られた物資で質素に暮らすから、こういうちょっとした智恵って重要なんだぜ。不自由なく育ったゼシカには、わかんねえだろうけどな」
ゼシカ嬢は救いを求めるように、一応は王族のトロデ王様を振りかえります。
「そうか、鮭缶にかけるマヨネーズもその手を使えばいいんじゃ!」

そうしてゼシカ嬢はククールさんのクセに文句を言えなくなり、戦闘が終わるたびに斬られそうになってビクビクするのでした。
メデタシメデタシ。

※この世界にチューブ式のものがあるのかというツッコミはご勘弁を。

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