憎きドルマゲスを追って旅を続ける一行に、新しい仲間が加わりました。
その名は、元聖堂騎士団員のククールさん。
騎士だけど、戦いよりも回復が得意です。パッと見、派手で軽薄そうですが、これが意外と常識派。パーティーの良きツッコミ役になってくれるでしょう。
今日も5人と1頭は険しい道を進みます。目標はアスカンタ国領にある願いの丘。
その丘で一晩過ごすと、どんな願いも叶うという言い伝えを確かめるためにです。
辺りには、珍しい青い花が咲いています。ゼシカ嬢は、それを見て思いました。
『キレイな花。兄さんのお墓に供えてあげたい。摘んでいって、ルーラでちょっとリーザス村に寄ってもらえるようにお願いしてみよう』
実に女の子らしい考えでした。しかし、それが不運の始まりだったのです。
ようやく山頂まで辿りついた一行。まだ、夜になったばかりです。
ゼシカ嬢は、今のうちにお花を摘んでしまおうと思い、リーダーのエイト君にお願いします。
「ねえ、エイト。私ちょっとお花摘んできたいんだけど、いいかな?」
ところが、それに答えたのはエイト君ではなく、ククールさんでした。
「ダメだ!」
一同はビックリです。
「レディがそんなことしたらダメだ! っていうか、言うのも良くないと思う」
ククールさんは真剣な顔をしています。
「どうして? あ、魔物が出るから? 平気よ、そんなに遠くに行かないから。皆から見える所にいるわ」
「いや、それ大胆すぎるって、ダメダメ。絶対ダメ。そんなに切羽つまってるのか?」
「そりゃあ、後でもいいけど、どうせ一晩中ここにいないといけないんだし……」
話がかみ合ってるようで、根本的なところがズレていることに、エイト君だけがようやく気づきました。しかし、少し遅かったようです。
「ああ、そうか。なら仕方ない。レディにそんな事させられない……。ルーラ!」
先走ったククールさんは、エイト君が止める間もなく、ルーラの呪文を唱えてしまいました。
アスカンタの城門にルーラさせられ、ククールさんとエイト君を除く一行はポカンとしています。
「まだ大丈夫か、ゼシカ? さあ、早く行ってくるといい」
「……どこに?」
ゼシカ嬢には、ククールさんの言っていることがサッパリ理解できません。
「えっ、どこって……」
やっとククールさんも、自分が何か勘違いしていたらしいのに気付いたようです。
エイト君が溜め息をつきながら、ゼシカ嬢に何やら耳打ちしました。
『花を摘む』という言葉の、もう一つの意味を教えてあげたのです。
育ちの良すぎるゼシカ嬢や、育ちの悪すぎるヤンガス氏は、この隠語を知らなかったようです。
ゼシカ嬢の顔はみるみるうちに赤くなり、体は怒りに震えています。
「あんた……。私が、そんなはしたないマネするように見えるわけ?」
ゼシカ嬢、一気にSHT状態です。はっきり言って顔、怖いです。
でも、ククールさんにも言い分はあります。
彼は結構箱入りだったので、旅することに慣れていません。しかも意外な慎重派。道中は魔物の警戒で精一杯。野に咲く花に目をやる余裕などありませんでした。
それにゼシカ嬢とはまだ知り合ったばかり。彼女がどういう人かなんて、わかるはずがありません。
でも、生き物としての本能でしょうか。ククールさんは逃げ出しました。ゼシカ嬢は、キレたら本当に殺る人だというのはわかったようです。
ゼシカ嬢は当然追います。
さすが、素早さ自慢の二人。速いこと速いこと。あっという間に見えなくなってしまいました。ククールさんは生きて帰ってこられるでしょうか。
エイト君は思いました。
二人、だいぶうちとけたようで良かったと。そして、もう一度最初から、願いの丘に登り直しになった責任をとらせる為、ククールさんのことはシメないといけないな、と。
ちなみに、この件で『花を摘む』という隠語を覚えたヤンガス氏。すっかりこの言葉が気に入って、愛用するようになったそうです。
メデタシメデタシ。
※『花を摘む』とは、トイレに行くという意味の隠語です。
しゃがむ姿が、花を摘んでる仕草に似ているため、こういう表現が使われたそうです。
第二話へ
短編ページへ戻る
トップへ戻る
|