「あんたは、どうしてそうなの? 女だったら魔物でもいいわけ? 信じられない節操なし!」
ああもう、面倒くせえな。
ゲルダの家がルーラで行けるようになってたら、こんな途中で魔物と戦うような手間が掛からずに済んで、ゼシカにここまで言われる事も無かったのに。
でも魔物のアレに引っ掛かるとは、オレも無事に宝石を手に入れたことで、少しは気が緩んでたのかもしれないな。
「ねえ、何とか言いなさいよ。真面目に聞いてる?」
「確かに、不覚を取ったのは認めるけどさ。あれってそんなに問題にすることか? ちょっと一時、動きが止まっただけだろ?」
メダパニ喰らって混乱したり、魔法を封じられたりするより、よっぽど迷惑はかけてないはずなんだけどな。
「ゼシカだってあの時、つられて踊ってたじゃないか。オレばっかり責めるのは、お門違いじゃないか?」
「つられて踊っちゃうのと、ぱふぱふでボーッとするのと、一緒にしないでよ!」
そんなに違わないと思うんだけどな。
「それに、何でオレばっかり責めるんだよ。前にエイトだって同じことされてボーッとしてたことあるだろ? その時は何も言わなかったじゃないか」
「エイトは仕方ないわよ。あんたと違って純粋なんだから」
何だよ、それ。
エイトは良くてオレはダメなのか?
いくら何でも贔屓が露骨すぎるだろ。

「ああ、そう。じゃあ、オレもハッキリ言ってやる」
多分これを言ったら、ゼシカの怒りは5倍くらいになるだろうけど、この際いい。
「オレたちが魔物なんかのパフパフに引っ掛かるのは、ゼシカに色気が無いからだ!」
「なっ……」
ゼシカは口をぱくぱくさせて、言葉が続けられない様子だ。
ショックから立ち直られる前に、畳み掛けて置こう。
「そうでなくても、修道院から出てこっち。喪に服した国とか、無法者だらけの町とかで、殺伐とした光景ばかり見てるんだ。潤いってヤツに飢えてんだよ。それなのに、紅一点のゼシカにまで色気が無いもんだから、ついうっかり、魔物なんかの色香に惑わされるようなハメになるんだ」
とりあえず、さっき言われた分くらいは言い返した。
「しっ……失礼ね!」
ゼシカが、ようやくショックから回復したようだ。
ポイズンダガーは恐ろしい威力だったが、キアリーを使えるオレには怖くない。
とりあえず、どくがのナイフのマヒ毒にだけは気をつけとこう。
「この、ボンッ、キュッ、ボン! のダイナマイトバディのどこに! 色気が無いっていうのよ!?」
「自分で言ったー!?」
いつから聞いてたのか、ヤンガスがすぐそこで叫んだ。
しかし……そう来るか。
ゼシカの怒りのツボの位置が、今一つわからん。
でも口での勝負なら、大抵のヤツには負けない自信がある。
……ここ数日、エイトにちょっと押され気味だが。

「ハッ、そんなの。胸がデカいってだけなら、ヤンガスだって寄せて上げれば、その位はあるぜ」
「気持ちの悪いこと言うんじゃねえ」
ヤンガスから苦情が来たが、とりあえず無視しておく。
「色気ってのは、内面も伴って初めて滲み出てくるもんなんだよ。ゼシカからは、何も漂ってくるものが無い。もしゼシカにぱふぱふしてもらったって、きっとオレは何も感じないね」
「練習するわよ!!!!」
そろそろ怒りの鉄拳が飛んでるくかと思いきや、意外すぎる答えが返ってきた。
「あんな魔物なんかより、もっとすごいぱふぱふをマスターして、ククールに『参りました』って言わせてみせるわ!」
……やばい。このコ、おもしろすぎる。
「いや…いきなりぱふぱふは、難易度高すぎるんじゃないか? 初心者は、投げキッスくらいから初めて、スキルアップしていった方がいいぜ」
「そ、そう。わかった、投げキッスね。……とにかく。もう二度と『色気が無い』なんて言わせないくらいになってやるんだから、覚えてなさい!」
いったいどこまで言えば、からかわれてるって気づくんだろう。
「それには、魔物もうっかり見とれるくらいにならないとな。まあ、ゼシカがリベンジしに来るのを、楽しみに待ってるよ」
「ええ。首を洗って、待ってなさい!」
そう言い放ち、ゼシカは肩を怒らせて、エイトたちの方へと歩いていった。

「悪い男でがすな」
ヤンガスが呆れ声でそう言うけど、止めに入らなかった時点で同罪だ。
あー、しまった。
練習してからじゃなくて、いますぐに試してみろって言えば良かったか。
あの素材で、あれだけ色気を感じさせないっていうのも、今限定のレアだったのかもしれないのに、ちょっと勿体ないことしちまったぜ。

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