散々苦労して、ようやくビーナスの涙の入ってる宝箱の所まで来られたっていうのに、その宝箱は、何と魔物だった。
この洞窟を造った人って、本当に最っ低!
それに、宝箱が実は魔物だったって展開、地下二階にもあったわよ。
根性が曲がってる上に、芸まで無いのね!
だけど、このビックリ箱の魔物、強いわ。
ルカニが効かない上に、ラリホーやメダパニまで使ってくるから、同士討ちを恐れて、エイトもヤンガスもテンションを溜められない。
ククールはマホカンタを使ってるけど、スクルトと回復とキアリクで忙しくて、テンションを溜めて攻撃に回る余裕は無い。
私もマホカンタは覚えてるけど、回復呪文まで跳ね返してしまうデメリットの方が大きくて、この場面では使えずにいる。
同じ呪文を覚えていても、私とククールで、こんなに使い勝手が違ってしまうなんて……。
今は回復も追いついてて、少しずつでも魔物に攻撃出来てるけど、エイトとヤンガスが同時に混乱させられでもしたら、全滅の危険だってある。
少しでも早く、勝負を付けないと……。
ハルミドで買ってもらった、どくがのナイフに魔力を込める。
実戦で使うのは初めてだけど、今の私が、一番大きなダメージを敵に与えられる技。
最大限に魔物に接近し、斬りつけながら刃に込めた魔力を流し込む。
でも……ダメだ、手応えが無かった。
魔物がヒャダルコを唱え、身体が氷の刃で斬り裂かれる。
「ゼシカ、無理しないで! 敵に近づきすぎると危ないよ!」
エイトが心配して、声をかけてくれる。
「大丈夫! やらせて!」
スクルトが重ねがけされてるおかげで、普通の攻撃ではほとんどダメージを受けなくなってる。
魔法攻撃は、どこにいたって軽減はされないんだから、接近戦でも問題ないわ。
もう一度、同じ攻撃を試みる。
でもまたダメ。かすり傷程度を与えるだけ。
魔物のラリホーでヤンガスが眠らされて、エイトがキアリクで起こす。
私には、ホイミも、スクルトも、キアリクも、盾になって攻撃に耐える体力も無い。
私に『守る力』は無い。
だったら、せめて誰よりも強い『攻める力』を持たなくちゃ、私が仲間でいていい理由が無い。
魔法剣士の家系なのに、私に剣の才能は受け継がれなかったけど……。お願い、兄さん。力を貸して!
刃が魔物を掠めた瞬間、ほんの引っ掻き傷程度の傷口から確かに魔力は流れ込み、それが猛毒へと姿を変えて、泡が弾けるように魔物の全身へと広がっていったのを感じた。
「やった……」
ようやく技が成功したと思った瞬間、魔物は大きな口を開けて私に飛びかかってきた。
気が緩んだ一瞬を突かれた。これを受けたら、痛恨の一撃になってしまう。
【スカラ!】
【ベホイミ!】
ククールとエイトの呪文が、私の身体を包む。
ヤンガスが私と魔物の間に割って入り、攻撃を盾で受け止めた。
「ゼシカの姉ちゃん、あんまり無理するもんじゃないでがすよ」
「あ、ありがとう。ごめん」
攻撃を止められた魔物は、動いたせいで毒の回りが早くなったのか、大きな苦悶の声を上げた。
「でも勝負はついたわよ。魔力を猛毒に変えて流し込んでやったの。放っておけば毒が回って倒れてくれるわ」
魔物は怒り狂ったようにラリホーやメダパニをかけてくるけど、集中力が途切れてるのか、私たちには全く効果は表れなかった。
それどころか、動けば動くほど毒が回っていってるみたい。
皆も、もう手を出すまでも無いと感じたのか、追い打ちをかけようともせずに、それぞれ回復に専念し始めた。
私はとりあえず、思いがけない反撃をされてもいいように身構えてる。
「そうだ。せっかくだから、ヤンガスがトドメを刺したら? 昔の雪辱を果たすってことで」
全員が完全回復した頃、エイトがそう提案してきた。
「えっ、アッシがでがすか? でもエイトの兄貴こそ、自分の手で馬姫様を助けたいと思ってるんじゃ?」
「ううん、僕は姫様をお助け出来るなら、それだけでいいんだ。やっぱりここはヤンガスがやりなよ。ククールとゼシカも、いいよね?」
ヤンガスに花をもたせてあげようとするなんて、エイトって優しいのね。
「もちろん、私はいいわよ」
「ああ、オレはそれこそ、どうでも」
「うう。アッシは感激でがす。それじゃあ、お言葉に甘えて」
そう言ってヤンガスが斧を握り直した時だった。
魔物が最後の悪足掻きとばかりに、ヒャダルコを唱えてくる。
氷の刃が、私たちを襲う。そして……。
こき〜ん。
何となくマヌケな効果音と一緒に、ククールのマホカンタが魔物へと呪文を跳ね返す。
最悪な事にそれが…………トドメになってしまった。
………………………。
何ともいえない気まずい沈黙の後に、エイトが口を開いた。
「ククール。空気読もうよ」
「あー、ちくしょう! こいつにだけは言われたくねえ!」
「むっ、失礼な」
これ……笑っていいのか、脱力していいのか、わからない。
でもあのタイミングだと、ククールがヒャダルコを跳ね返さなくても、毒が回って自滅したから、結局ヤンガスがトドメを刺すことは出来なかったってことは……。
言っても何の救いにもならなそうだから、黙っていよう。 →
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