「何やってんだ、このバカ!」
最近ククールのヤツ、何かある度にエイトの兄貴に『バカ』を連発するが、こいつはこいつなりに、真剣に兄貴を心配してるんだろう。
ついさっき、ミイラ男の集団との戦闘で、兄貴は自分を回復するべき場面で、ククールを先に回復した。
何とか先に魔物の方を全滅させられたけど、もう一発でも攻撃を受けてたら、兄貴は死んでたかもしれない。
「いや、僕の回復はククールがしてくれると思ったから……」
確かに、いつもだったら、ククールがエイトの兄貴を回復するタイミングだった。
だけどククールが呪いの玉で動けなくなったもんだから、危機一髪の所までいっちまったんだ。
「それは…確かにオレも悪かったけど、あのタイミングだったら、回復対象を自分に変えるくらい出来るだろ?」
「無理。僕、鈍いから」
「居直るな!」
「エイト。それは自信に満ちた顔で言うセリフじゃないわよ」
ククールだけでなく、ゼシカの姉ちゃんからもツッコミが入った。

「なあ、やっぱりエイトは後ろに回った方がいいんじゃないか?」
ククールが、前から結論が出てない問題を、ここでまた引っ張り出してきた。
「エイトは罠も全部、造ったヤツが喜ぶだろうなってくらいキレイにハマるしな。一番前なんて危険なポジションは、頑丈なヤンガスに任せとけばいいんだよ」
『自分に任せろ』とは絶対言わないのがククールらしいが、オレとしてもそれには賛成だ。
いつでも兄貴は一番前で、魔物の攻撃も一番多く喰らって、いつも大ケガしてる。
お役に立ちたくて子分にしてもらったのに、そういう兄貴の姿を見るのは、少し辛いものがあったんだが……。
「いやだ」
何度この話をしても、兄貴の答えは変わらない。
「僕が後ろに退がるってことは、ククールが前に出るってことだよね? 打たれ弱いククールに、そんな事させられないよ」
兄貴の言う事も、尤もすぎる。
「オレは打たれ弱くねえよ。少なくともエイトより、よっぽど頑丈だ」
ククールは、ちょっとムッとした調子で言い返す。
「ああ、言い方間違えた。打たれ弱いんじゃなくて、我慢弱いんだ」
確かにククールは、パッと見、細く見える割に頑丈で、魔物の攻撃を喰らっても大したケガはしないようだ。
だけど、もう二、三撃は平気だろうって段階で、すぐにヘバりやがる。
それにしても……ククールが相手の時のエイトの兄貴は、中々キツい物言いをする。
やっぱり『バカ』を連発されるのに、内心腹を立ててるのかもしれねえ。
「それにククールだって、全然自分を回復しないじゃないか。いつも僕やヤンガス優先で、そんなククールが前に出たら、それこそすぐ死ぬよ」
「オレは、攻撃喰らう確立の高いヤツから回復してるだけだ。オレが前に出るなら、しっかり自分最優先で回復するさ」
「ああ、だから私の事はあんまり回復してくれないんだ」
ゼシカの姉ちゃんが、横からヌケた発言をした。
「えっ……そうだっけ? オレはレディに優しい男のはず……」
いや、確かにククールはあんまりゼシカを回復しない。
だから見かねて、時々オレが回復してるくらいだ。
「あ、いいのいいの。それはむしろ見直したから。思ったよりも真面目にやってたのね」

「とにかく。僕よりククールの方が回復が早くて正確なんだから、ククールが一番後ろで状況を把握してくれた方がいいんだよ」
横道に逸れた話題を、エイトの兄貴が元に戻した。
「オレが動けなくなっても、エイトさえ無事ならリレミトして教会に戻って蘇生してもらえるけど、もしオレ一人だけが残っても、死にかけを三人も担いでダンジョンからは出られねぇんだよ。リーダーってのは責任持って最後まで生き残って、他の人間を無事に連れ帰るのが義務じゃないのか?」
「その為に仲間を盾にして、安全な場所に隠れてるようなリーダーに、誰が本気で付いてきてくれる?」
ククールが言葉を詰まらせた。
これは勝負あったな。

「くそっ。やっぱりベホイミじゃ足りないか。ザオラルも覚えるしかないのか?」
ククールがボヤいてる。
体力と根性を身につけようとはしないのがククールらしい。
「じゃあやっぱり、私が前に出ればいいのよ。回復役二人が後ろなら、守りは万全よね」
「「いや、無理」」
ゼシカの姉ちゃんボケに、兄貴とククールがハモッてツッコんだ。

結論。この四人の中で一番頑固なのは、実はエイトの兄貴だった。

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