キラのおばあさんの家は、以前泊めてもらった川沿いの教会のすぐ近くだったんだけど、こんな夜中にいきなり押しかけていくのも失礼なんで、とりあえず教会で一泊して、夜が明けてから訪ねることにした。

久しぶりにベッドで眠れたのに、夜明け前に目を覚ましてしまった。
理由は、サーベルト兄さんのお葬式の時の夢を見てしまったから。
きっと、アスカンタの人たちの喪服姿を見たせいだわ。
兄さんが亡くなったばかりの頃の、まだ敵討ちなんて思いつかなくて、ただ信じられずに、時間だけが過ぎていってた頃を思い出させられたのよ。
……村を飛び出す時、兄さんがいなくなってしまったのに、何も変わらずに暮らしてる村の人たちを、恨めしく思ったりもしたけど、アスカンタの人たちが、二年もあんな沈んだ様子で暮らしてるのを見ると、ちょっと複雑な気分。
兄さんは絶対、そんな事を望む人じゃないし……私だって、いやだわ。

何げなく部屋を見回すと、エイトの姿が無いのに気が付く。
多分…馬姫様の所に行ってるんだわ。
この教会の人たちは、トロデ王が魔物の姿でも気にせずに泊めてくれてるけど、さすがに馬の姿の姫様までは建物の中に入れてくれない。
きっと外で一人で、寂しい思いをしてるはずだものね。

私も姫様の様子を見に行こうと思って、教会を出たんだけど、二人の姿を見ると足が止まってしまった。
ちょうど夜が明け始めた時間で、朝陽が射す中で見た二人の姿は……何か…邪魔しちゃいけないような気がしたの。
姫様のお世話をしてるエイトは、臣下としての務めを果たしてるって様子じゃない。
姫様のエイトを見る瞳からも、上下関係なんてまるで感じなくて、むしろすごくエイトを頼りにしてるみたい。
何…ちょっと待って、この二人って、もしかして……。
そういえば、アスカンタのキラの、あのせつなそうな顔も、もしかしてパヴァン王のこと?
やっぱり…どう考えても、そうよね?
あー、どうしよう! 誰かに話したい! 
一番辛い時、そんな風に自分を想ってくれる人が近くで支えてくれてるなんて、素敵。

不意に、肩に何か掛けられた。
「こんな所で、何突っ立ってんだよ。風邪ひくだろ」
いつの間にか、ククールが傍に立っていた。
「い、いいわよ、寒くないから。余計なことしないで」
着せかけられたマントを返そうとしたけど、逆にしっかりと包まれてしまった。
「ダメ。そんな肩丸出し、見てるこっちが寒い」
相変わらずの過保護に、ちょっと腹も立つけど、今はそれはいいわ。
「……勘、なんだけど。ちょっとした女の勘」
身分を越えたロマンスに、私の頭は一杯になってるのよ。
「む? いきなり、何の話をしておるのじゃ?」
小さくて気づかなかったけど、トロデ王もいたみたい。
う……何か、ちょっと、話づらいかも。
「あれだけ尽くすっていうのは、ただの働き者ってだけじゃないわよね。うん! 絶対そう!」
何とか主語を入れずにわかってもらおうと思うんだけど、ククールも首を傾げてる。
ああ、もう!
あれだけ『家族と最愛の妻とじゃ、いろいろ違う』とか『恋をすればわかる』とか、ご高説たれておいて、鈍いんだから!
「だから、さっきから、何の話をしておるのじゃ!?」
「もう! うるさいわね! 王様は、だまっててよ!!」
「……理不尽じゃ」
しょうがないじゃないの。
姫様のロマンスを、その父親に話して聞かせるほと無神経じゃないんだから。
「そんなことより、ゼシカ……もう一眠りしといた方がいいんじゃないか?」
とことんまで子供扱いするククールの言葉に、かなりカチンと来たんだけど、その後の言葉に、私の我慢は限界に達した。
「睡眠不足は美容の大敵。ちゃんと寝ないと、オレみたいに美人になれないぞ?」

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