朝っぱらから、外が騒がしい。
このキャンキャン騒いでる声は、ゼシカの姉ちゃんだ。
静かになりそうにないんで、観念して起き上がってみると、部屋に残ってたのはオレ一人だけだった。
盗賊稼業から足を洗って以来、夜更かしは苦手になったが、だからって急に早起きが得意になるもんでもないらしい。

外に出てみても、まだゼシカの姉ちゃんは怒鳴り続けてた。
昨日はアスカンタで、兄ちゃんの葬式を思い出すってメソメソしてたのに、今日はこれか。
この姉ちゃん、怒ってるか泣いてるか、どっちかだな。
同じ女でも、もっとこうワイルドな色気があって、気っ風が良くてサッパリしてるのもいるってえのに。

「朝っぱらから、何を騒いでるでがすか? 近所迷惑でげすよ」
宥めようと話しかけると、ゼシカは両の拳を握り締めて叫んだ。
「だって! ククールが、私のこと『ブス』って言ったのよ!?」
「だから、言ってねえって!」
ククールは、すぐに否定した。
そりゃまあ……言わねえだろうな。
「オレはただ、寝不足は美容の敵だって……」
「その後で、『オレみたいに美人になれない』って言ったじゃない! それって、私は美人じゃないってことじゃないの!」
……くだらねえ……。

「ヤンガスも起きたんなら、朝ごはんにしようか。王様、姫様、今ご用意しますので、少しお待ちくださいね」
エイトの兄貴は、ククールとゼシカを放って、馬車から食材を取り出し始めた。
「兄貴、いいんでがすかい? あのまま放っておいて」
「んー? いいよいいよ、やらせとこう。たいした内容じゃないし」
兄貴は…やっぱり大物だ。
「それにしてもさあ。ゼシカも、ずいぶん丸くなったよね」
ゼシカの怒鳴り声をBGMにしての兄貴の発言に、ちょっと耳を疑いたくなった。
「ヤンガス、覚えてる? ドニの町に着く頃、ゼシカに『私一人でドルマゲスと戦わせて』って言われたこと」
「覚えてるでげす。あん時は本当に、どうしようかと思ったもんでがすなあ」
「それが、ククールが仲間になった時、『ドルマゲスは私一人の仇じゃない』に変わったんだ。『みんなでドルマゲスを倒そう』に。すごいよね、何日も経たない間に、そんなに気持ちが変われるって」
……言われてみりゃあ……確かにそうだった。
「すこいのは、兄貴の方でがす……アッシは、そんなこと、気づきもしなかったでがすよ」
確かにあれ以来、ゼシカはあんまり先走った無茶を言わなくなった。
ドルマゲスに対しての憎しみにギラついてたのに比べりゃあ、ククールに怒鳴ってるのなんて、甘えてじゃれてるようなもんだ。
「いい出会いだったんだろうね。ゼシカにとってククールは。……僕にも経験があるから、わかるんだ」
人と人とが出会うっていうのは……すげえことなんだな。
そして、オレにとっちゃあ、エイトの兄貴こそが、その『いい出会い』だったんだ。
ガラじゃあねえが、神様に感謝したい気分だ。
そういやあ、ここはちょうど教会だ。
とりあえず、ちょっと拝んどくとするか。

なんまいだー。

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