アスカンタ城の小間使いをしているキラに、彼女のおばあさんに話を聞いてきてほしいと頼まれてしまった。
とりあえず、王様と姫様の所に戻ろうと、夜の城下町を歩いていきながら、ちょっと思った。
いくら何でも僕たちって、行く先々で頼み事されすぎじゃない?
あんまり行く先々で不審者扱いされたり、襲いかかられたりするから、そっちは気にならなかったけど、トラペッタでも、リーザス村でも、ポルトリンクでも、マイエラ修道院でも、誰かに何かを頼まれてる。
この調子だと、いつまで経っても、ドルマゲスに追いつけないんじゃないだろうか。

「いやあ、しかし、エイトの兄貴の人徳はすごいもんでげすなぁ。どこに行っても、兄貴を頼ってくる人間だらけでがすね」
ヤンガスは何げなく言ったんだろうけど、その言葉は僕には結構深く刺さる。
「い、いや、僕を頼ってくるってわけじゃないと思うよ。ヤンガスの方が、よっぽど風格があるじゃない。きっと頼られてるのは、ヤンガスだよ」
「いやいや、アッシは今までの人生、この外見のせいで、初対面の人間のほとんどは近寄ってもこなかったでがすよ。エイトの兄貴のお供をするようになって、初めてまともに交流ってやつが出来るようになったでげす」
ヤンガスって……そんなに外見、怖いかなぁ。
お腹の肉とか柔らかそうで、むしろ癒し系だと思うんだけど。

ふと気づくと、ククールとゼシカが、ものすごく微妙な顔をして、僕の方を見ていた。
なんていうか、同情と諦めと呆れが入り交じったような表情だ。
「あのさ……もしかして、『お前のせいで寄り道ばっかりするハメになってる』とか、思ってる?」
少し間があった後、ククールが小さく言った。
「無自覚ならタチが悪いが、わかってるならいい」
「ちょっと、何よ、その言い方! あんただって、強引に頼み事してきたじゃないの!」
「オレもそれは、わかってる。だから、今だって文句言ってないだろ」
ということは、二人とも文句は言わないだけで、寄り道させられてるとは思ってるんだね。

「でも、そうでがすなあ。もしエイトの兄貴が、困ってる人間を見捨てていけるようなお人だったら、アッシは今頃、谷底に落ちて死んでたでがす。今こうしていられるのは全部、兄貴がお人好しなおかげでがすよ」
『お人好し』って単語は……どうして褒め言葉には聞こえないんだろう。
「そうよ。私だって、エイトがお人好しで押し切られてくれたから、無理矢理ついてこれたんだから。感謝してるのよ、ちゃんと」
ゼシカ……ちょっとそれ、酷くない?
「あ、じゃあ、エイトのおかげで、オレはゼシカと一緒に旅が出来てるってことだ。そういうことなら、オレもエイトのお人好しに感謝しとく」
一番素直じゃないククールの言葉が、なぜか一番素直に聞ける。
「だから! どうしてそうやって、すぐふざけるのよ!?」
「ふざけてないって。ゼシカがいなかったら、男ばかりのムサ苦しいパーティーだったってことだろ? 考えただけでも、ゾッとする」
「何よ、それ! 私じゃなくても、女だったら誰でも良かったの!?
何だか話が逸れてしまったけど、二人は楽しそうに言い合ってるから、それはそれで好きに続けてもらう事にした。

「えっ、えらい! なんと主君思いのメイドじゃ!」
アスカンタの様子と、キラからの頼み事を話すと、王様は感動に顔を輝かせた。
「よしっ! これは命令じゃ! そのメイドさんのチカラになってやれ!」
「あの、王様……。それだと、寄り道になってしまいますけど……」
「そんなもん、お前が急いで、ぱぱっと片づければ問題ないわい。さあ、行くぞ! その優しいメイドさんのために、ひとはだ脱ぐのじゃ!」
……何だか、拍子抜けした。
さっきまで、まるで僕のせいで頼まれ事して、寄り道することになってるって流れだったから、ちょっと気にしてたのに。
冷静に考えると、一番積極的に頼み事を引き受けてたのは王様で、ゼシカも結構乗り気のことが多い。
ヤンガスやククールだって、面と向かって頼まれたら、多分断れないはずだ。
だから、仮に頼み事されるのが、僕のせいだったとしても。
それを引き受けてるのは、僕だけのせいじゃない。
……とりあえず、そういう事にしておいて。
どうすれば、あんなに『お人好し』って連発されずに、済むようになるんだろう……。

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