「また会える日まで」


「……あ~…」
「……暇だ…」

寮の部屋に寝転がりながら、二人はボーッと天井を見つめていた。
何をするでもなく、ただ、ボーッとしている。
そうしていても、仕事をしろと怒られることもなければ、ドアを破壊し、稲妻のような激しい攻撃をしてくる者もいない。
つまり、願ったり叶ったりの喜ばしい状況だ。仕事をしないでいいのなら、そんな幸せなことはない。お目付け役がいない今こそ、羽を伸ばすチャンスだ。
…それなのに。
「…ねぇ、いつ戻ってくるの?」
「…さぁ…」
「さぁ…って、今日で一週間経つよ?そろそろ戻ってくるよね?」
「上からの指令だぞ?俺が知るわけないだろ」
「えぇ~…」


「…明日から上の指令で地上に行くことになった。おまえたちは留守番だ」
一週間前にそう言って、地上へと行ってしまった小さいけれど、誰よりも強くて恐ろしいコウノスケ。
突然のことに二人は驚いたが、まれに地上で何か大きな出来事が起きた時などに出張要員として充てられることがあるらしい。地上の状況を正確に見極め、上に報告できる天使に指名がくると聞き、なるほどと納得した。

今、地上では新たなウイルスが発生し、全世界で感染が拡がっている。感染拡大を何とか食い止めようと頑張っているが、多数の感染者が出ており、それぞれが外出を自粛するなど、感染防止対策を行っているところだ。
そんな地上の状況もあって、残念ながら地上での業務が停止となった。天使には感染しないのだが、混乱している地上へ下りるべきではないと、上が判断したのだ。
ここ二ヶ月ほどは時々天界での仕事を与えられ、それがない日は一日休み、そんな日々を過ごしている。優秀な天使には天界での仕事も多数あるが、マサルとトシヒコには残念ながらあまり来ない。なので、何もない今日のような日はとにかく暇なのである。
そもそも天界の仕事は好きではない。与えられない方がうれしいのだが、何もすることがないというのもなかなかの苦だと、最近は思い始めていた。

そんな時に出たのが、コウノスケへの出張の指令だ。詳しくは教えてもらえなかったが、今の状況からして、おそらくそのウイルスの調査なのだろう。
感染しないとはいえ、地上に行くと言われる心配になる。
大丈夫なのかと問うと、「力で全身にシールドを張っている。どんな細かな菌や粒子も侵入できない」と彼はクールに答えて地上へと下りていった。
見た目は可愛いのに、相変わらず格好良い天使である。

出張と聞いた時、二人は心の中でヤッター!と思った。いなくなった日の夜は、二人でしこたま飲み、仕事もないから翌日は寝たいだけ寝た。何て幸せなんだろう、こんな日がずっと続けばいいのに。そう思った。
…はずだった。

「…何だよ、いなくて寂しいのか?」
マサルがニヤリと笑う。すると、問われたトシヒコは否定することも忘れ、
「……うん」とポツリと呟いた。その素直さに驚いて、わざわさサングラスを外してトシヒコを見た。
「す、素直すぎて気持ち悪いんだけど…っ」
「…だって……本当に寂しいんだもん…。コウノスケがいないと何かつまんないし。そ、そういうマサルはどうなんだよっ?寂しくないの!?」
「え?お、俺?俺はそんな、別に…」
そう言いながら、サングラスをかけ直す。
「ふ~ん…。でもさ?ここのところ、酒飲んでも全然酔えてないよね?」
「……」
「毎日、すごーくつまらなさそうだよね?」
「……」
「いないの忘れて声かけそうになって、慌てて”な、なぁ、トシヒコ!”って言ってるよね?」
「……」
「ほら!白状しなよ!」
「…まぁ、寂しいか寂しくないかと聞かれたら……寂しい……なぁ…」
「ほらー!」
トシヒコに指を差されて、マサルはゴロリと背を向ける。照れ隠しである。

そう、そうなのだ。
どうにもこうにも寂しい。そしてつまらなくて、何かする気も起きない。
自分たちはどうしてしまったのだろうか。
「…何でこんなに寂しくてつまんないのかな」
「…コウノスケの冷たい物言いと刺すような目を一週間も見てないから?」
「…あ、そうか!そういうことか!…え、じゃあ、何?俺たち、コウノスケに冷たく貶されない日が続いてるから寂しくてつまんないの?完全なMじゃん!」
「とうとうトシヒコもMになっちまったなぁ…」
「ちちちち違う違う!それはマサルだけだ!俺は違う!」
「じゃあ何で寂しいんだよ?」
「そ、そ、それはぁ…そのぉ~……そ、そう!トレーニング!ほら、コウノスケがトレーニングになると色々と無理難題ふっかけてくるでしょ?あれに慣れたら、そういうのがないとトレーニングがつまらないんだよ!」
「ふ~ん?」
「嘘じゃないよ!本当!」
「へぇ~…まぁ、そういうことにしておいてやるよ」
「本当だってば!」
「はいはい。…それにしても…だ。本当にさ、あんな鬼畜な天使のチームに入って、散々痛めつけられて、こんな仕事すぐにでも辞めてやる!弱味を握って上に密告してやる!なんて思ってたはすだったのに、まさかこんな風になるなんてなぁ…」
「…ね。思ってもみなかったよ、いないと寂しいって思うなんて」
はぁ…とトシヒコはため息をついた。

もちろん、今でもコウノスケは非情なやつではある。冷たい時はとことん冷たいし、数日に一回は怒られて、あの冷ややかな目で殺されそうになっている。
未だに、本気で怒らせてブラックホールに吹っ飛ばされる日が来るかもしれないと怯えることもある。
けれど。
地上での仕事では、誰よりもトシヒコとマサルを信頼してくれている。自分たちもコウノスケのことを信頼している。何かがあれば身体を張って守ろうと思う、そんな大切な仲間になった。

そんな大切な仲間であるコウノスケがいない日常なんて、もうあり得ないのだ。
トシヒコはどうにも落ち着かず、寂しいし、とてもつまらなくて仕方がない。
そして、どうしているのか気になる。
ちゃんと食事は摂っているだろうか。
働きづめで寝不足じゃないだろうか。
疲れていないだろうか。
…熱は出ていないだろうか。
もはや子を想う母である。
自分たちよりしっかりしているコウノスケにそんな心配は無用なはずなのに。

コウノスケが知ったら、「ぼくを心配する…だと?バカにするなよ。心配など無用だということを証明してやる。かかってこい、本気で相手をしてやる」と言って、両手両足をへし折られ、木っ端微塵にされてしまうだろう。
決して口にはできない。

「ねぇ、マサル」
「んあ?」
「寂しくて毎日泣いてない?」
「なぁに言ってんだよ。それは自分じゃないのか?コウノスケ~…って枕をギュッと抱きしめてたりして」
「してないよ、そんなこと!そんな…そういうのを本当にしてそうな天使は他にいるじゃん!」
「…ああ!」
そうだ。約一名、おそらくそんな状況になっているかもしれない天使を二人は知っている。真っ白な羽を持ち、柔らかな微笑みを絶やさないコウノスケ命なあのお方。見つめる天井にその姿を思い浮かべる。
「…そうだな、確かにあの人は毎日悲しそうに微笑んで泣いてそうだ」
「でしょ。あの方はきっと枕にコウノスケの写真とか貼って、見つめて泣いてるよ」
「は、はは…確かに。…そういえば、最近見てないな。一緒に地上に行ってるのか?」
「ん~どうだろ?中級と上級は毎日会議なんじゃないかな。今後どうしていくのか話し合ってるんじゃない?」
「じゃあ、今頃は会議室でしょんぼりしながら―」
「誰のお話ですか?」
『うわあぁぁぁぁっ!!!』
思い浮かんでいた人物が上から覗き込んできたので、二人はマッハで壁際へと後ずさった。心臓が止まりそうだった。いや、一瞬止まったかもしれない。

「あら。そんなに驚かせてしまいましたか?」
「お、お、驚きますよ!!」
「い、いつの間に部屋に入ってきたんですか!!」
気配を感じなかったのは仕方がない。主天使に気配を消されたら気づくのは難しい。しかし、ドアが開く音もしていないし、破壊もされていない。どうやって入ってきたのか。
「私が寮に来るとみなさんが気を遣ってしまうので、今日は窓から入ってみました」
そう言って窓を指さして、にっこりと笑った。
『……』
マサルは”あなたは泥棒ですか!”と口から出そうになるのを何とかこらえる。
コウノスケが普段から”もう少し立場を考えて行動してください!”と口を酸っぱくして言っている気持ちが身にしみて分かった。とても良い天使ではあるが、やることが位と一致しないのだ。関わらなければ“面白い“で済むが、関わると厄介だ。
気に入られているコウノスケにとったら、もっと厄介なことだろう。
コウノスケが気の毒になってくる。

「…あの、主天使様?」
「はい?」
「そういうことをしていると、またコウノスケに怒られますよ」
「ふふ、そうですね」
「何でうれしそうなんですか」
「コウノスケが地上に行って、もう一週間ですからね。怒られるようなことをすると帰ってきてくれるというのなら、もっと色々してしまいたいくらいですよ」
「…た、例えば?」
「そうですねぇ…。おそらく天界で何らかの異常が発生すれば、コウノスケは気づきますから、建物をひとつ破壊すればきっと―」
『神に怒られますって!!』
マサルとトシヒコがあわあわする。
「ふふ、冗談ですよ」
「主天使様が言うと冗談に聞こえませんよ!」
「あら、そうですか」
「そうですよ!本当にするかと思いましたよ!」
「あらあら、それは失礼しました。ですが、そんな冗談を言ってしまうほど、とても寂しいのですよ。コウノスケと一週間も会っていませんから」
「そ、そこまで寂しいんですか?」
「ええ…毎日、早く戻ってこないかなと思いながらコウノスケの写真を眺めています」
枕にコウノスケの写真を貼って、見つめて泣いている姿は妄想ではなかったかと苦笑する。
寂しいという気持ちはマサルにもあるが、さすがに主天使やトシヒコほどの気持ちはない。面白いぐらいLOVEすぎる。
「主天使様もトシヒコもコウノスケLOVEすぎませんか」
「お、俺はLOVEじゃないよ!」
「さっき寂しいって言ってたじゃないか」
「さ、寂しいけど、それはマサルだって―」
「まぁ!トシヒコも私と同じなのですね!」
「え!ち、ちがっ」
パァッと輝くような笑顔でトシヒコの両肩を掴む。筋トレが趣味なトシヒコだが、その手から逃れられない。主天使のすさまじいパワーで押さえつけられるからだ。
「同志ができてうれしいです!そうそう、地上ではうちわという物に”LOVE”と書いて大好きな者に向けて振るんだそうです。今度一緒に作りましょう!」
「え、ええっ!?」

そんな偏った地上情報をどこから得たのだろうか。
聞きたいような聞きたくないような。マサルは面倒なことになりそうだったので、聞かないことにして話題を戻すことにした。主天使とトシヒコとの間に入る。
「そ、それはまた今度にしていただいて!一つ聞いてもいいですかっ?」
「はい?」
「主天使様は知らないんですか?コウノスケの任務がいつまでなのか、とか」
「ええ、残念ながら。上級からの指令で地上に行っていますからね。私はただ、取り次いだだけに過ぎません」
「あいつ、一体どんな指令を受けたんですか?」
「今、地上で新たなウイルスがまん延していることはお二人もご存じですよね?」
「ええ、それはもう」
「それのせいで地上の仕事が完全にストップしていて、毎日筋トレしかやることがないですよ」
「そうですね、あなたがたの仕事にも大きく影響が出ていますね。コウノスケには地上の状況を確認するという任務が与えられています」
「コウノスケ一人で、ですか?」
「いえ、数人の天使で手分けして遂行中です」
「え、数人…なんですか」
「ええ。ですので、少々時間がかかっているのだと思います」
「じゃあ、もっと大人数でやればいいじゃないですか。俺たちだって行けば何かの役に立ちますよ。なぁ、トシヒコ?」
「……いや、数人なのには理由がありそうだよ」
「え?」
「最近見かけない天使が、たぶんコウノスケと同じように地上に行ってると思うんだけど、どの天使も共通してることがある」
「共通してること?何だよ?」
「みんな下級天使だけど、相当なエリートたちだ。コウノスケには及ばないけど、コウノスケの前に俺たちが超えなきゃいけないやつらだよ。おそらく、中級や上級は天界を守るために地上へは行けない。だから下級のエリートたちに調査を指示した。…ですよね、主天使様」
トシヒコに問いかけられ、ニコニコと微笑んで聞いていた主天使はさらにうれしそうに笑った。
「さすがですね、トシヒコ。そうです、地上へ調査に行く者は限られています。私たちに感染しないとはいえ、ウイルスから身体を守る必要があるのです。私たち中級や上級は天界を離れるわけにはいきませんので、全身に完璧にシールドを張れる下級天使たちに地上へ行っていただきました」
「なるほど、そういうことですか。俺たちじゃ無理なわけだ」
「ええ、残念ながら。あと何年かで、あなたがたもそのレベルに達すると思いますが、今はまだ足りません」
「ええ…何年ってそんな無茶な…」
「私は無茶を言ったつもりはありませんよ、マサル。あなた方の成長は凄まじいものがあります。経験を積み、能力をさらにレベルアップしていくことで、自身の防御力も増していきます」
「そんな上手くいきますかね。俺はトシヒコと違って、力は強くないし…」
「マサル、防御力ってのは力が強い、弱いは関係ないと思うよ」
「え?どういうことだ?」
「そりゃ、力が強ければそれなりに防御もできるけど、一番は力の使い方だ。ほら、ちょっと前に久しぶりに泉に付いていったけど、負の感情が流れてくるの、だいぶ気にならなくなってたでしょ?」
「…え?あ、ああ、そう言われてみればそうだな。最初に入った時は恐ろしいほど流れ込んできたのに、前ほどはなかったな。いや、でも、あの時はたまたまだろ?」
「違うよ。マサルの力の使い方が上手くなったんだよ」
「え!」
「そうですね。集中力が増し、上手く力を使えるようになったことで、負の感情が流れ込まなくなっているのでしょう」
「そ、そうなんですか!?」
「ええ、マサルが成長している証拠です」
「そ、そうなのか…」
まじまじと自身の手のひらを見つめる。見た目は何も変わっていないから、変化はよく分からないのだが。
「泉のさざ波も上手く止められるかもよ」
「え、そんな上手くいくか?」
「今度、コウノスケと泉へ行った時に試してみるとよいでしょう。きっと、以前よりできるようになっていると思いますよ」
「は、はい!」
今の状況が落ち着き、また泉へ行く時にコウノスケに付いていって試してみよう。マサルは一人ウンと頷いた。

すると穏やかに微笑んでいた主天使が、急に寂しげな笑顔になってしまった。ん?と二人は首を傾げる。
「主天使様?」
「どうかしましたか?」
「…コウノスケがいないことを思い出してしまいました」
『あぁ…』
名前を出したことで、思い出してしまったらしい。トシヒコよりも重症である。
「やはり、何か破壊して…」
『だあぁぁぁぁっ!!』
主天使がスッと窓の先にある建物を指差すので、二人は慌てて間に入る。主天使の強大な力で破壊したら、建物の一つや二つ、一瞬で瓦礫の山だ。怪我人も山のように出る。
「ダメですよ!主天使様がそんなことしちゃ!」
「き、きっと、もうすぐ帰ってきますって!」
「帰ってこないかもしれません」
「うっ…」
「あなた方も寂しいのですよね?」
「そ、それはまぁ…」
「ちょっとは寂しいですけど、あいつは上からの指令で地上に行ってるんですから、さすがに破壊行為をして戻ってこさせるというのはちょっと…」
「…ダメですか…」
『ダメです』
「……(しゅん)」
問題児だった二人が何故偉い人に破壊はダメだと諭さなければならないのだろうか。本来は逆だろう。コウノスケがいないことで、おかしくなってしまっている。何と厄介な天使なのだろうか。

(どうする、この人…?)
マサルがトシヒコにアイコンタクトをするが、トシヒコも名案は浮かばず、首をフルフルと振られてしまった。
とにかくなだめて帰ってもらわねば。何と言って帰ってもらおうかと考えていると、突然主天使が二人の肩に手を置いた。
『はい?…え?』
二人が主天使を見上げると、何故かものすごくうれしそうな顔をしていた。先ほどまで寂しそうな顔をしていたのに。
…何か嫌な予感がする。
「あ、あの…」
「主、主天使…様?」
「……壊さなければよいのですよね?」
『…はい?』
「コウノスケにとって、あなた方は何より大切な仲間ですよね」
「な、仲間は仲間ですけどね…」
「そこまでの仲間かどうかは何とも…」
コウノスケの心の内まではさすがに分からない。何より大切とまでは思われていないかもしれない。
「そこまでの仲間だと、コウノスケは思っていますよ」
「そ、そうですか?」
「も、もし、そうであってもそうでなくても…こ、壊さなければいいっていうのは、どういう…?」
肩に置かれた主天使の手が気にかかり、トシヒコはビクビクしながら尋ねた。すると、主天使はにっこり笑う。顔だけは。
「あなた方に何か起きた方が、コウノスケには効果があると気づきました」
『へっ!?』
「おそらく、任務をこなしながらもあなた方の気配を確認しているはずです。もし、あなた方の気配が消えたら、きっと急いで戻ってくるでしょう」
笑顔が怖い。その向こう側から強大な力が見え隠れする。二人はゾッとして青ざめた。
「け、気配が、き、消えたらって…」
「コ、コウノスケに戻ってほしくて、俺たちを抹殺するんですか!?」
「え?…まぁ、そんな。さすがにそこまではしませんよ。私を何だと思っているのですか?」
『い、異常なまでの“コウノスケLOVEさん“…』
「…間違ってはいませんが、下級天使を指導する中級天使ですよ?それなりの分別はあります」
建物を破壊しようとしていたのに?という言葉は飲み込む。
「ただ、少しの間、完全に気配を消させていただきたいのです」
「気配を?」
「完全にって…どういうことですか?」
「気配を感じられないように、あなた方にシールドを張るのです。そうすることで天界からあなた方の気配は消え、存在が消えたかのようになります」
「へ、へぇ…」
「コウノスケがあなた方をどれほど大切に思っているかも分かると―」
突然口をつぐんだ主天使に首を傾げる。
「主天使様?」
「ど、どうかし―」
「ふふっ」
「ふふ?」
「あの…?」
「しなくてもいいぐらい、大切だったようです」
『はい?』
「……ちょうど、調査が終わっただけです」
不機嫌そうな冷たい声。聞き慣れたその声に二人がハッとして部屋を見渡すと、窓の外にコウノスケの姿があった。
『コウノスケ!?』
トシヒコが慌てて窓を開ける。
「任務は終わったのか?」
「ああ」
「そっか!地上はどうだった?」
「感染が収まっている地域もあるが、まだ完全とは言えないな。すべての地域が元の状態に戻るには時間がかかりそうだ」
「そっか…長期戦になりそうだね。地上での業務はまだまだ許可されそうにないかな」
「…今後の状況次第だな。上がどう判断するか、だ」
「そうか。地上はかなり大変そうだなぁ…」
「……」
『…コウノスケ?』
コウノスケが何やらジッと主天使を見ているので、トシヒコとマサルが交互に二人を見やる。何だかコウノスケの目が怖い。
「任務ご苦労様でした。そんな怖い顔をしないでください?二人には何もしていませんよ」
「……するおつもりだったのでしょう?」
「…ふふふ」
「…寮に入れないようにシールド張りますよ」
「まぁ、それは困りますね」
「でしたら、二度と企まないでください」
「しませんよ。しなくてもよいことが分かりましたから」
「……」
「ですが、一週間も不在というのは長いので、もう少し早く戻ってきてほしいですねぇ。そうでないと、またうっかり企んでしまいそうです」
「……」
「ふふっ」
「はぁ……分かりました。地上へ調査に行ったとしても、五日で戻ります」
「そうしてください。ああ、もちろんもっと短くても良いですよ。二日とか」
「五日です!」
「三日とか」
「五日です!!」
「四日」
「五日!!!それ以上は短くしません!」
「あらあら…」
前半の二人の会話の意味はよく分からなかったが、今回のように地上へ行った時、最長でも五日で帰ってくることにしたらしい。
寂しくてつまらなかったトシヒコにとってはうれしいことだった。これで、いつ帰ってくるのかとヤキモキすることはなくなる。

「まったく…。…トシヒコ、マサル」
「ん?」
「何?」
「……」
『?』
「…何でもない。報告してくる」
「うん」
「おう」
何か言いたそうな顔だったが、そんなことよりコウノスケが戻ってきたことが何よりうれしかった。
飛び去っていくコウノスケの後ろ姿を見ながら、帰ってきた大切な仲間の無事を二人は喜び、自然と笑顔になる。

(二人が私の気に少し怯えただけで戻ってくるなんて、どれだけ二人が大切なのでしょう。ふふっ、妬けてしまいますね)

「調査は難なくこなせたようですね」
にっこりする主天使に、二人は鼻高々に自慢する。
「当然ですよ!」
「あいつを誰だと思ってるんですか?最強チームのリーダー」
『コウノスケですよ!』


コウノスケが戻ってきた。
早く三人で仕事がしたい。
そう思うトシヒコとマサルなのであった。



地上が当たり前の日常を取り戻したら、また俺たち天使が手助けしてやるよ。

今は天界から見守っているからね!

共に頑張りましょう。
また会えるその時まで―



―おわり―

※2020.06.13
  コウノスケVerも書きました!→こちら
***********あとがき*******************
三天使も地上でのお仕事はお休み中でございます。
日常に”当たり前”の生活が戻ってくるまでは、天界から見守っていてくれます。
それまでは共に頑張りましょう!

2020.05.31

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