アル友さんが書かれたお話の設定、忍者な三人で桜井さんお誕生日お祝い小話を書きました~(^^)

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「春の巻、忍者物語 -こたつむり-」


「桜丸ぅ~」
向こう側から間延びした高い声が俺の名を呼ぶ。そちらの方を見ると、大きな手がブンブン左右に揺れている。欲しいものを察して、目の前にあるミカンを手に取った。
「投げるぞ」
「おう!」大きな手がピタリと止まり、俺が投げるミカンを待つ。
この後の結果は目に見えているが、とりあえず投げる。無理だと言っているのに、そうしたいというのだから仕方がない。
「ほい」
「よ!あれっ…いたっ!!」せっかく手のあるところに投げたのに、手をずらすからミカンは見事に手を通り過ぎて案の定、寝っ転がる俊丸の頭に当たった。
これで何度目だろうか。
そろそろ諦めて手渡しにすればいいのに。
「いってー!桜丸、下手くそ!」
「違うだろ。俊丸が下手なんだ。せっかくお前の手に目がけて投げてやってんのに」
「俺じゃない!桜丸のコントロールが悪いんだよ!」
「そういうこと言ってると、二度と取ってやんないぞ」
「あ!ウソウソ!ごめんごめん!取ってくれてありがと!」
「それほどまでに出たくないのかよ…」
「うん」
「こたつむりめ」
やれやれとため息をついて、手元に視線を戻す。すると、今度はポスッと太股のあたりに細い腕が現れた。もう一人のこたつむり。
「桜丸ぅ~僕もミカン~」
「はいはい」
また目の前のミカンを一つ掴んで、その手に乗せた。
「ありがと~」
「どーいたしまして」
握った絵筆が手元の紙に落とされないまま、さっきから二匹のこたつむりの世話ばかりしている。これじゃあ、ちっとも進まない。
はぁ…とため息をひとつ落とし、こたつなんてもらわなければよかったと後悔した。

年末に大掃除をしていた時、いつも世話になっている梅さんが古くなったこたつがあるが、使わないかとやってきた。解体して薪にでも…と思っていたらしいが、そういえば俺たちのところにこたつがなかったと気づき、わざわざ聞きに来てくれたのだ。
俺たちが住む町家はなかなかの古さだから、すきま風もすごい。あれこれ対策はしているものの、それでも寒い。だから冬はいつも三人で団子のようにくっついて何とかやり過ごしているのだが、細くて小さい年長者がいつも寒そうにしていて、今年はとうとう半纏を二枚重ねで着るようになった。もともと脂肪が少ないから、歳を重ねるたびに寒さに弱くなっていっているのかもしれない。
「寒いよぉ~」と俺や俊丸に毎日のようにくっつかれても邪魔くさいし、湯たんぽ代わりに野良猫たちを家に上げて何匹も飼われても困る。
何か対策はないものかと考えていた矢先にやってきたのが梅さん家のこたつだ。
二つ返事で「ください!!」と言い、せっせと掘りごたつを造り、火鉢を中に置いて、安く手に入れたこたつ布団を掛けて、その日のうちに温かいこたつが完成。これで助丸が寒がらなくてよくなるなと思った…のだが。

こたつを置くとダメ人間が増えるという話は知っていた。そのまま寝てしまい、風邪をひく人も多いと聞く。
二匹のこたつむりを見ていれば、その言葉通りの状況になりつつあるのは明白だ。
助丸が寒がらなくなったのは良いことだが、こたつから出なくなってしまっては、寒さ対策だけのつもりで造ったこたつが単なる怠け者にさせる困ったものになってしまう。

さて、どうしたものかと思っていると、今度は俊丸が湯呑みを掲げてきた。
「桜丸!お茶ほしい!」
「あ、僕も~」
俺は嫁か母親か。少々カチンと来たので、お茶を淹れに行きがてら、ちょっとばかり意地悪をすることにした。
よいしょと立ち上がり、まずは縁側のふすまを開け放った。そして、台所のふすまを全開にする。これで、空気の通り道が完成だ。庭からのヒューッと冷たい風が部屋を通り抜けていく。
『さ、寒っ!!』
二匹のこたつむりがギョッとして、布団にさらに潜り込む。
「桜丸!!嫌がらせかよ!!」
「桜丸、寒いよぉ…」
「何言ってるんだよ。換気だよ、換気。空気を入れ替えないと頭がくらくらするだろ?」半分嫌がらせだけど。二人の湯呑みを盆に載せて台所へ降りる。
「そうだけど、そこまで全開にしなくてもいいじゃん!」
「そうだよ。せっかく部屋が暖まってるのにぃ…」
「そんなに寒く感じるのはこたつに肩まで入って寝てるからだ。そうやってこたつに入ってばっかりいると、そのうち風邪ひくぞ」台所でお湯を沸かしながら二人に注意すると、
「俺は大丈夫!」と俺の背中に向かって俊丸が自信満々に声を張り上げた。うん、それはそうかもしれない。筋肉量が多いとか、脂肪が少ないとか、そんなことは関係なく俊丸はとにかく風邪をひかなさそうだ。
「うん、まぁ、俊丸はな。でも、助丸は気をつけなきゃダメだろ。骨と皮しかないんだから」
「う…ちょっとぐらいお肉も筋肉もあるよ。…たぶん」
「腹筋一回しかやれないのに、どこにあるんだよ、筋肉が」
「やれないんじゃないよ。やらないの」
「…あのなぁ…」
「無理だよ、桜丸。助丸は何言ってもやらないって。それより、桜丸が栄養のある飯を作って食べさせた方が免疫力が上がるよ」
「そうそう。よろしく、桜丸~」
「おい!完全に人任せか!」
「ふふふ~」
「まったく…」
やれやれと息を吐く。

沸いたお湯を急須に入れて、三つの湯呑みに注いでいく。お茶の良い香りがふわりと広がる。気持ちがほっこりして、イラッとした気持ちが少しおさまった。
そうだ、この二人に何を言っても無駄だった。今更ああしろこうしろと言ったところで、素直に言うことを聞くはずがない。そもそも俺は一番年下。そして、何かあったら多数決で決められるから、勝てるわけがない。
もう放っておこう、そう自分に言い聞かせて部屋の方へと振り向くと、仰向けで寝っ転がっていた二人がこたつを出て、ニコニコしながら俺の方を向いて座っていた。
色違いの半纏を着て、正座する二人。可愛いけれど、何か怖い。
「…な、何?」恐る恐る尋ねると、
「ね、今日は何の日か覚えてる?」と逆に聞かれた。
今日?何の日?
「…八百屋の特売日は昨日だったし、頼んである味噌と醤油の受け取りは明日だし…」
「そういうことじゃなくて!!」
「思考回路が嫁か母親みたいになってるぞ!」
「ええ?…う~ん……あ!」
『思い出した!?』
「豆腐屋が来る日だ!!」
ドタッ!二人が同時に突っ伏した。
『だから、そういうことじゃなくてぇぇ!!』
「何だよ?そういうことじゃないなら、何だよ?」
『今日は桜丸の誕生日でしょうが!!!』二人が口を揃えて言った。
「……え?」
「今日は何日!?」
「二十日でしょ!!」
「…あ……」

すっかり忘れていた…
そうだ、今日は自分の誕生日だった。
毎日、嫁か母親のごとく二人の世話と家のことばかりしていて、すっかり頭から抜け落ちていた。
「誕生日なんて、すっかり忘れてた…」
「自分の誕生日を忘れないでよ、も~。はい、これ」助丸が苦笑しながら、包み紙を差し出してきた。
「え、これは…」
「僕と俊丸からの誕生日祝い」
「桜丸に見つからないように隠しとくの大変だったんだから」
部屋の掃除に片付け、そしてゴミ捨てなどなど、基本的に家のことは全部俺がやっているから、どこに何があるかはすべて把握している。
そんな広い家でもないから、何かを隠していたらすぐに見つかってしまう。
それなのに、俺はこんな包み紙、一度も見かけた記憶がなかった。いったいどこに隠していたのか。
「どこに隠してたんだ?隠せるところなんて…」そう尋ねると、二人がうれしそうに笑った。
「ここのところ、何のために“こたつむり“してたと思ってるんだよ?なぁ、助丸?」
「そうそう。別に怠けてたわけじゃないよ?」
「……あ、ま、まさか!」
最近、我が家に出来たこたつ。そして、ここ数日、どちらかが必ずといっていいほど、こたつむりになって、中の掃除すらさせてもらえなかった。
中の火鉢をキレイにしようとしたら、桜丸はやらなくていいよ!と二人が珍しく率先してやってくれた。槍でも降るんじゃないかと思っていたが、そういうことだったのか!!

「大変だったよね~今日まで隠しとくの」
「本当本当。こたつの布団剥いで中を掃除しようとした時は焦ったもん」
「だ、だから、あんなに必死で止めたのか」
「そうだよ。布団剥いだら見つかっちゃうもん。ほら、受け取って!」ポンと手の上に包み紙が置かれる。あまり重くはないけれど、わざわざ上質な和紙で包まれたそれは、見た目だけでも二人の気持ちがにじみ出ていて、俺はうれしくなった。二人が俺のために選んだ品。中身が何であっても、もらえただけで幸せになる。
「ね、開けてみて!」
「う、うん」少しドキドキしながら包み紙を開けていく。丁寧に丁寧に。出てきたものを見て、うわ!と驚いた。
「…あ…こ、これ…!」
出てきたのは、数本の絵筆。見てすぐに分かった。俺がほしいと思っていた職人の絵筆だ。
少し値が張るからなかなか買えず、店で見掛けても買うのは我慢していた。今の絵筆がダメになったら…そうしたら一本ずつ買おう、そう思って。
それが、一式目の前にある。
「それ、ずっと欲しかった絵筆でしょ?」
「うん…」
「桜丸への祝いの品はこれしかないな!って二人で買ってきたんだぜ!」
「うん…」
「桜丸の絵、その絵筆ならもっともっと上手く描けるようになるよ!」
「…うん…」
うれしくてうれしくて、声が震える。
こたつむりをしていたのは、怠けていたわけじゃなかったのか。
全部、これを今日渡すためだったのか。
…ああ、やられた。やられたよ!

ポン、ポンと二人が俺の頭を撫でる。
「いつもありがとね」
「これからもよろしくな」
二人が満面の笑みを浮かべる。
『誕生日おめでとう、桜丸!』

俺のために絵筆を買ってきてくれた二人。
可愛くて格好よくて、いつも一歩も二歩も前を歩いて、俺を導いてくれる二人。
日常生活はダメダメだけど、そんなの可愛いもんだ。ダメダメなところは俺が面倒みてやるさ。任せろ!

「ありがとう、俊丸、助丸。絵筆、大事にするよ!」

幸せな誕生日をありがとう。
これからもよろしくな。


でも、こたつむりは今日で終わり!!
今日こそは掃除するぞ!!

「ほら!!こたつから出る出る!!」
『ぎゃー!寒ーい!鬼!悪魔!』
「問答無用ーっ!!」



おわり


<2020.01.23追記>
幸乃さんがこの小話の前日話を書いてくださいました!
こちらからどうぞ(*^^*)
***********あとがき*******************
読んでくださってありがとうございます~(^^)
桜井さんのお誕生日に間に合ってよかった!
当日の約2時間作品なので、ひねりも何もないですが(^^;)
”こたつむり”が出したかったのでw

桜井さん、お誕生日おめでとうございます!
ずーっと付いていきます♪

2020.01.20


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