桜井さんのお誕生日お祝い小話(こちら)を書きましたが、読んでくださった幸乃さんが「その前日」のお話を書いてくださいました!

前日にこんなことがあったのか!とお楽しみいただけたらうれしいです♪

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『こたつむり忍者~前日譚~』

町の道具屋の前で派手な着物の長身の男と違う意味で派手な着物の小柄な男がひそひそと話し込んでいる。
本人たちは目立たぬ様に話しているつもりだが町の名物ふたりが並んで立っている時点でかなり目立っている。
それでも町の人たちは遠くからふたりを温かく見守るだけで近づかない。
……ヘタに近づいてドタバタに巻き込まれたくはない。
しばらく見守っているとふたりは意を決したらしく道具屋の中へ入っていった。

「いらっしゃ…お、珍しいふたり組だな」
店員がふたりの顔を見て驚く。
「どうも~」
「ってそんなに驚くなよ」
店員の驚きっぷりを気にせず助丸は笑顔で挨拶をし俊丸は何だよ来ちゃ悪いのかよとふて腐れる。
この道具屋は絵師をしている桜丸の仕事道具を扱っている店だ。
修繕屋をしている助丸はたまに訪れる事もあるが俊丸にはほとんど縁の無い店だ。
「今日は何しに?」
「うん、ちょっと欲しいのがあってね」
言って助丸は店の中をぐるりと見渡す。目的の物は一番目立つ所にあった。
「俊丸、あったよ!あれだよ!!」
「本当?あれがそうなの?」
ふたりで駆け寄る。
新品の筆が並んでいる。
「間違いないよ」
「なんだよ、ふたりとも筆に興味あったのか?」
店員が着いてきて一緒にのぞき込む。
「いや全く興味ない」
ふたりでハモれば店員はだよな、と納得する。
「俺たちはないけど桜丸がね」
「もうすぐ誕生日だから何か贈り物をと思ってね」
いつも家の事を全て任せきりにしてしまっている桜丸にお礼の気持ちを込めて何かを送ろうとふたりで話し合った。
何がいいか分からなかったふたりはここ数日順番に尾行して探っていた。桜丸が買い物に行く度に見るだけで決して手を出さなかった物、それがこの店で売っている筆だった。
「それね、確かにちょっと値が張るんだけどその分滑りが良くて」
店員の説明に値段を確認すれば俊丸は高い!と叫び助丸はなるほど、と頷く。
「桜丸じゃ難しいかもね」
「そうだね、ケチだし」
うんうん頷く俊丸に助丸はそうじゃないでしょ、と突っ込む。
頂いた給金はきちんと三人で分けている。
この仕事はいつまでも続けられる保証はない。いつか仕事ができなくなった時のための蓄えが必要だと桜丸は自分の分から貯金しているのだ。ちなみに助丸も俊丸ももしもの時用の蓄えはしている。
ふたりと違うのは慎重派の桜丸は自分の事に使うお金をぎりぎりに押さえているという事だった。
そんな桜丸だからまだ使える筆があるのに新しい物を買うなんて選択はできなかったようで。
ふたりが見守っている間、何回も筆を見るのだが買おうとはしなかった。

それで贈り物にしようと見に来たのだがやっぱりちょっと高い。
「ねえ、ちょっと安くならない?」
助丸は店員を見上げてお願いする。
「これはいい筆だから無理だね」
小悪魔な助丸の笑顔だがそんなので揺らぐようでは店員なんてできない。
「う~ん、ねえ…」
助丸は背伸びをして店員の耳もとへ何事かを囁く。
店員の顔がひきつる。
「安くしてくれる?」
助丸がもう一度聞くと店員は勢いよく頷いた。
「ありがとう」
微笑む助丸の後ろで俊丸が苦笑している。


目的の物を手に入れたふたりは店を出てきた。
「これで桜丸喜んでくれるかな?」
「大丈夫だよね」
桜丸が喜んでくれるだろう事を予想してふたりとも顔を見合わせて微笑みあった。家でならともかく町の中ではあまり見られることの無い貴重な風景に遠巻きにふたりを見ていた女性たちからはキャーだかイヤーだかよく分からないため息が聞こえてきた。
「さて、あとは見つからないように隠さないとね」
「あ、助丸の行李(こうり)の中は?いろいろ入ってるから紛れさせれば…」
「桜丸が時々開けて変なの入ってないか確認してるからダメ」
「変なのって?」
「以前、女の子達からもらったの隠してて行李が大変な事になったからね」
「いったい何が…… あ、俺のもダメだよ」
「分かってるよ。俊丸の行李は入れたら出せなくなるからね」

桜丸が絶対に気づかない場所を考えなくては。

「ねえ、こういうのはどうかな?」
助丸が俊丸に耳打ちする。
俊丸は面白そう、とほくそ笑む。

作戦を考えながらふたりは家路を急いだ。



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桜丸へのプレゼントである絵筆を買いに行く二人、でした!
前段階をお話にしていただけるとは!
桜丸の欲しいものが何か、ちゃんと二人は観察していたわけですね(*^^*)

それにしても助丸は店員に何と囁いたのか…
そして、二人の行李の中にはいったい何が入っているのか…
この二つの謎がとっても気になる賢狂ですw

幸乃さん、お話書いてくださり、ありがとうございました!
また設定をお借りするかも…いや、お借りします、きっと!w
その時はまたよろしくお願いします~(*^^*)

2020.01.23