「はじまり」

―静岡ライブ終演後―

バタバタバタバタッ

通路を走る人。
慌てた様子のその人は、目の前のドアを勢いよく開けた。

「…ど、どうしたんですか!?棚瀬さん!?」
部屋に勢いよく走り込んできたのは、チーフマネージャーの棚瀬だ。
髪がいつも以上に乱れていて、息切れしている。

「…た、大変……だ…っ」
「え!?」
後片付けに追われていたスタッフたちはギョッとして全員固まった。
ライブは先ほど無事に終演している。
となると、ステージの解体作業もしくはメンバーに何かあったのか。
全員が棚瀬の次の言葉を待った。

「はぁ…はぁ…はぁ…っ」
「棚瀬さん!?」
「……ダメだ…」
「…え?」
「…あの人たち、まだ全然分かっていない…!」
「…は?」
「今すぐ…会議だ…!…き、緊急会議だー!!」
『ええっ!?』


スタッフたちはホワイトボードに書かれた議題を見て、「ああ…」とようやく納得した。
つい先ほど終わったライブでのMCのせいだ、と。

アンコール最後のMCで、メンバーがこんな話をしたのだ。
「最近”仲が良いよね”って言われることが多いんだけど、何を見て仲が良いって見えるのか、ぜんっぜん分からないんだよね。この二年でそれを解明していきたいと思います(笑)」

確かに、あれだけあちこちから”仲が良い”と言われまくっているのに、それでもなお”どこが仲が良いのか分からない”と言っているということは、本当に全然分かっていないのだろう。

もちろんスタッフたちも皆、メンバー同士は仲が良いなと思っている。
だが、その仲の良さを本人たちが認識していないことに、大きな問題があるとは思えない。
棚瀬はなぜここまで問題視しているのか、スタッフたちは首を傾げていた。

「棚瀬さん、どうしてメンバーが”仲が良い”ということを認識できていないことに問題があるんですか?」
「…この中で、メンバーの誰かに”わちゃわちゃ”の意味を聞かれた人はいるかい?」
「え?」
「あ、はい。私聞かれました」一人の女性スタッフが手を挙げた。
「一時期、その言葉の意味が分からず三人が集まって議論していたんだよ」
「え、”わちゃわちゃ”の意味が分からなかったんですか?普段から三人でしているのに?」
「そう。あの人たちは何をしたら”わちゃわちゃ”していることになるのか分からなかったんだ」
「えぇ…」
「ファンの人から”三人がわちゃわちゃしているところが好き”と言われたものの、分からなくて何度か集まってね。ようやく言葉の意味が分かって私も一安心していたんだが…まさかわちゃわちゃ=仲が良いということに気づいていなかったなんて!!」
「……」
「…つ、つまり、”わちゃわちゃ”と仲が良い、が結びついていないわけですね…」
「そう!!そうなんだ!普通分かるよねぇ!?」
「…う、う~ん…どうですかねぇ…」
「…あの三人ですから………」
「…はぁ……。どうしたらあの人たちは分かってくれるんだ…」頭を抱える棚瀬。
「……あの、棚瀬さん…?」一人のスタッフが意を決して口を開いた。
「…何だい」
「そ、それで…僕たちは何をしろと…?」
「何とかして”仲が良い”ということをこの二年で解明できるように、私たちスタッフもサポートしていきたいと思うんだ。今年は結成四十五周年、来年はいよいよデビュー四十五周年だ。四十五年もやってきて”仲が良いですね””どこが?”なんてやりとりはそろそろ終わらせなくてはいけない!!」
「は、はぁ…」
「三人に”仲の良さ”を伝えるための策をみんなで考えてくれないか」
「え…」
「策…ですか?」
「そう、どうやったら三人に伝わるのか考えてほしいんだよ」
「う…う~ん……」
「策と言われても…」
「なぁ…」
「何でもいいんだ。何かアイデアを出してほしい。もう私には何も思いつかないんだよ…」困り果てたような棚瀬。”仲が良い”ということが分かっていないことで、これまで色々と苦労してきたのかもしれない。
彼らの活動期間が長いということは、棚瀬の苦労もそれだけ長いということ。
長く彼らの活動に携わってきているスタッフも多いが、棚瀬ほど長い人はいない。

だんだん可哀想になってきたスタッフたちは、棚瀬のために真剣に考えることにした。
「あの、棚瀬さん。俺たちは仲が良いという理由をメンバーに伝える方法を考えればいいんですか?仲が良いという理由はまた別の誰に考えてもらうんですか?」
「う~ん…まだその辺りをどうするのか、考えがまとまっていないんだよ。どう思う?」
「僕たちスタッフは伝える方法を考えて、理由については三人をよく知る人にお願いした方がいいんじゃないですか?」
「例えば?」
「…長い付き合いのミュージシャンの方々とか、もしくはファンの方々の力を借りるとか…」
「ファンの力?どうやって?」
「例えば…メンバーが仲が良いと思う理由をライブ会場で書いてもらって、設置したBOXに入れてもらうというのはどうでしょう?」
「…なるほど」
「僕たちスタッフ、あとは友人・知人にも書いてもらえれば、ファンから見た仲の良さと身近な人たちから見た仲の良さも集められます」
「それを集めて、俺たちスタッフがメンバーに伝える…というわけか」
「うん」
「それ、いいかもしれない」
「うん、いいね」
「でも、メンバーにはどうやって伝えるんだ?」
「そこはまた考えないといけないけど…」
「……」棚瀬が考え込む。
「棚瀬さん、まずはスタッフ、友人・知人、ファンの方々の意見を集めてみませんか?三人に伝える方法はまた別途考えるとして」
「…そうだね。それでやってみようか」
「じゃあ、早速用紙を準備しますね!」
「あ、じゃあ俺、BOX作ります!」
「私も手伝います!」
「次の公演から設置できるようにします!」
スタッフ全員が立ち上がり、それぞれ準備に取り掛かった。

「ありがとう、みんな!よろしく頼むよ!」
頼もしいスタッフたちに棚瀬は心から感謝するのであった。

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~会場にて~

「…あれ、なぁに、これ?」
「…意見箱?募金?」
「ええと…メンバーの仲の良さアンケートだって。”仲が良いと思うところや理由を書いて入れてください”だって」
「何それ~」
「”メンバーは未だ自分たちが仲が良いと分かっていません。仲が良いということをメンバーに伝えたいので、ぜひご協力ください。棚瀬”だって~!」
「え!棚瀬さんのお願い!?」
「それは書かなきゃ!!」
「みんなにも書くように言ってくる!」


続きはこちら

※企画受付は終了しました
★企画:メンバーの仲の良さアンケートに答える★


***********あとがき*******************
みなさまもご協力をよろしくお願い致します~!!m(_ _)m

2018.05.02


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