「第一戦」


「…な、何?」 ドアを開けた三人は、室内の異様さと出迎えた人物に怖じ気づいた。
「お待ちしていました。さぁ、こちらへお座り下さい」ニッコリと、しかし誰かさんのように眼鏡の奥の目は笑っていないそんな笑顔で三人に座るよう促す棚瀬は、この長い付き合いの中、今までで一番圧を感じる雰囲気を醸し出している気がする。
「…ねぇ、俺ら何かやったっけ?」高見沢が小さな声で後ろの二人に問う。
「したつもりは…ないけどね」
「同じく」
「じゃあ、あれは何だ。何であんな―」
「まるで裁判所みたいな机と椅子の配置だね」
「尋問でもされるのか?」
「やっぱり何かやったんじゃねぇのか?おまえが」
「俺ぇ!?」桜井に言われて高見沢はギョッとするが、心当たりがないわけでもない。もしかしたらあれか?それともあっちか?頭の中で思い返す。
「高見沢さん、坂さん、桜井さん、早く入って座って下さい」
『…はい……』 有無を言わさない棚瀬の冷笑。 坂崎と一緒に居すぎて似てしまったのかもしれない。 小さくて笑顔が怖いなんて、そんなところ似なくてもいいのだが。
促されて座ったのは、まるで被告人席のような位置にある三つの椅子。 座ると真正面には弁護人が立つような、はたまたプレゼンでもするようなテーブルが一つ。そして、左右には何人か座れる長テーブルがある。
「…棚瀬、何、これ?」たまらず坂崎が尋ねるも、
「後ほど説明します」とだけ答えてニッコリ笑う。
「坂崎も聞いてないのか?」ボソッと桜井が問う。
「何にも」
「高見沢も?」
「ああ」
「…嘘ついてるんじゃなくて?」
「本当に知らないんだって。なぁ、坂崎?」
「うん。安心して、桜井だけが知らないわけじゃないから」桜井の疑心暗鬼に坂崎は小さく笑った。 よく桜井だけ知らずに事が起きる場合がある。桜井は今回もそうではないかと疑っているのだ。 しかし、今回ばかりは誰も知らないらしい。 それはそれで怖いのだが、桜井としては何だかホッとしてしまうのであった。

ドアが開いた。振り向くと、スタッフが数人入ってきた。 その内の一人が、何やら箱を持っている。 福引きでもするつもりなのか、坂崎は下町商店街的な予想をしてみるが、まさかそんなことはしないだろう。
全員が各々椅子に座ると、メンツが揃ったのか棚瀬が三人の前に立って口を開いた。
「では、始めたいと思います」
『何を?』三人の声が揃った。
「高見沢さん、坂さん、桜井さん。今日来ていただいたのは、お三方に言いたいことがあったからです」
「言いたいこと?」桜井が首を傾げる。
「はい」
「いい加減、遅刻するなとか?」坂崎が左隣に座る高見沢を見上げた。ぐ、と言葉を詰まらせ高見沢が坂崎を見下ろしたが、
「それは常々高見沢さんに言ってますが、一向になくならないので、もはや諦めています」と棚瀬が返してきたので、そうではないようだ。
「じゃあ、酒もやめろとか?」今度は右隣の桜井を見上げて坂崎が問う。
「ちゃんと、休肝日作って頑張ってるのに!?」悲痛な声を上げて桜井が眉毛を八の字にしたが、
「そこまで言うとさすがに桜井さんが可哀想なので、言わないでおきます」と返ってきた。…本当は言いたいらしい。
「あ、分かった!もうちょっと趣味を減らせ!物を減らせ!だろ!」坂崎を指差しつつ高見沢も言うが、
「それも諦めています。それにそれは高見沢さんが人に言えることではないと思いますが」と首を傾げて返された。
「……」先日、新たなゴジラのフィギュアを見つけてポチッとしたところだ。何も言い返せない。
「それぞれに何か言いたいわけではなく、お三方に言いたいんです」
「だから、何?」
「全然分からん」
「分かるように説明しろ」 三人とも、少しイラッとして口々に言った。
棚瀬がいなかったら、
「ひぃーっごめんなさいっっ!!!」と全員土下座していることだろう。
「……」棚瀬は何も言わず、スタッフが差し出した箱を受け取って、三人に見せる。
「実は、昨年、この箱をこっそりライブ会場に設置していました」
「え?ライブ会場に?」
「ええ、お三方には内緒でアンケートをしていました」
「アンケート?」
「ええ。ファンのみなさんへお願いです。…私からの」
『は?』 棚瀬が強調した”私からの”という言葉が気にかかる。
「棚瀬個人的なお願いってこと?」
「…といっても過言ではないですね」
「つまり、棚瀬は個人的にファンに向けて、俺たちの何かについてアンケートを取った、そういうこと?」
「そういうことです」
「俺たちに内緒でマネージャーが?」
「何でまたそんなこと…」
「お三方のせいです!!!」急に棚瀬が声を荒げるので、三人はビクッとした。棚瀬の顔は笑顔から泣き顔になっている。
「な、何だよ、急に…」
「俺たちのせいってどういうこと?」
「ちゃんと説明してくれよ」
「…お、お三方がいつまで経っても”仲良し”だって認めないからです…っ!」
『はぁ???』
「私はもう限界なんですよ…っ!!」
「…お、おい、話がまったく見えないんだけど…」
「う…っ…ううっ…」
「ちょっと、棚瀬。何も泣くことはないでしょ」
「うう…っ」
ちっとも埒が明かない。頭を抱えた高見沢がたまらず声を張り上げた。
「おおいっ!!誰か、説明しろーっ!!」



『……』
スタッフの一人に事情を説明されても、三人は”なるほど”とはならなかった。
それもそうだろう、”仲が良いよねって言われることが多いんだけど、何を見て仲が良いって見えるのか、ぜんっぜん分からないんだよね”という高見沢のMCでの発言のせいで、勝手に始まっていたというのだから、本人たちとしては寝耳に水だろう。

「…そんな発言が何でこんな大事(おおごと)になるわけ?」呆れたように高見沢が言うと、棚瀬がバンッとテーブルを叩く。
「全然分かってないからですよっ!!数年前から”わちゃわちゃ”で集まっていたから、そろそろ分かってきたと思ったのに、まだ分かっていないじゃないですか!!」
「分かってなくたって別に何も問題ないだろ」
「そうだよ。俺たちは別に困ってないし」桜井と坂崎もあっけらかんと言う。
やっぱりダメだ、スタッフたちは一同ため息をついた。

「お三方は別に困らないかもしれませんが、私やファンにとっては大問題なんです!!」
「ファンにとって…は、まぁ分からないでもないけど、何で棚瀬にとっても問題なんだよ?」
「ファンの想いは私が一番分かっていますから!ファンの問題は私の問題でもあります!」
「…おまえ何者だよ」呆れたような桜井が呟く。
「まぁ、棚瀬が好きっていうファンもいるみたいだからね。棚瀬宛の手紙もあるぐらいだし」
「そうなのか?何だよ、おまえ。俺たちよりもファン側につくのか?」
「そうなってしまうのは仕方がないじゃないですか!お三方は分かってないんですよ!どれだけファンのみなさんが”そろそろ仲良しだって認めて!”と思っているか!!」
「そ、そんな、全員が全員、そういう風に思っているわけじゃ」
「思ってます!!!」
「ええ…」
「だからずっと申し訳なくて…っ」
「だ、だから泣くなって!」
「うう…っ…で、ですから!デビュー四十五周年という節目の年に、”そうか、俺たち仲良しなんだね”と口にしてもらおうと―」
「言うかよ!」
「言わないよ!」
「言わねぇよ!」
バンッ!!
棚瀬が再びテーブルを叩いてゆらりと顔を上げて三人に微笑む。普段、のほほんしているだけに、余計に怖い。怖すぎる。
「今年こそ言っていただきます」
『……』
これは…本気だ。三人は四十五年のキャリアを忘れ、新人のように縮こまるのだった。


「ファンのみなさんには、”お三方は仲が良い”と思う実際に見聞きしたエピソードを書いてもらいました」
『……』
「その内容をこれから紹介していきたいと思います」
「…去年一年分ってこと?」ムスッとしながら高見沢が尋ねる。
「ええと…春ツアーの途中で始めたので、まぁ、一年と言えば一年ですね。本当は春ツアーの間だけのつもりでしたが…」
「が?」
「諸事情により一年になりました」
「諸事情?誰の諸事情だよ」
「……まぁ、それはいいではありませんか」
「何で誤魔化す!」
「裏の事情はいいんです!」
「気になる!」
「気にしなくていいです!」
「言わないなら、こっちも聞かないぞ!」
「脅してもダメです!」
高見沢が何を言っても頑として譲らない棚瀬。今日は折れてくれない。
「高見沢、もう何を言ってもダメそうだよ。今日は黙って聞くしかないんじゃない?」
「疲れるだけだぞ。もう諦めろ」先に諦めて黙っていた坂崎と桜井がポンと高見沢の肩を叩く。
「…くそっ」
棚瀬がニッコリ笑った。
「では、紹介しますね」


エピソードその一
ファンになりたての頃、ライブの映像で「Rockdom~風に吹かれて」を見た時、三人が一本のマイクで歌うシーンがありました。
その時、めちゃくちゃ顔が近くてすごく驚いたのを覚えています。
見ている私たちの方が照れちゃいます。
普通友達同士でもそんな近くなんて、恥ずかしくて寄れないですよ!

桜「マイク一本だから、寄らないと声拾ってもらえないんだけど…」
高「そう、これは仕方なく、だよな」
坂「マイク一本なのに離れてる方がおかしいよ」
棚「近くて恥ずかしいということはないんですか?」
高「でかい顔だなーとは思うけど…」
桜「でかくて悪かったな!」
坂「声もでかいなーとは思うけど…」
桜「俺、マイクから離れましょうか!?」
高「ダメダメ!俺たち、三人でアルフィーだろ。一人離れてたらおかしいよ」
桜「でも、顔がでかくて声もでかいんだろ?離れた方がいいだろ」
高「誰も離れろなんて言ってないよ。そりゃ、離れてても声は届くだろうけど」
桜「じゃあ、離れててもいいだろ」
坂・高『ダメー!!』
桜「ええぇ~…」
棚「…ほら!仲良しじゃないですか!!」
三『……どこが?普通でしょ。』
棚「……」


エピソードその二
貧乏だった学生時代からの流れだと思いますが、収録などでも当たり前のように食べ物や飲み物を回し食べ・回し飲みをするところを見ると、何て仲が良いんだろうって思います。
生放送などの収録でも、試食タイムで一つの皿を普通に回して食べているし、ある時は坂崎さんが二人に「あーん」と食べさせていました。
いい歳の大人が食べさせますか!?
それを見て、仲良しと思わない人はいないでしょう!

坂「回し食べとか回し飲みはしちゃいけないものなの?一つしかないから回してるんだけど」
桜「だよな。三人で一皿なんてよくあるから、回すしかないもんな」
棚「…ま、まぁ、そうですけど…。で、でも、さすがに”あーん”は…」
坂「だって高見沢に渡したらこぼしそうだもん。俺が口に入れた方がいいでしょ」
高「俺、そんなにこぼす?」
坂・桜「こぼす」
高「即答かよ!」
棚「それは…まぁ、そうですけど……ってそういうことではなくて!!」
三『じゃあ、どういうこと?』
棚「……」


エピソードその三
ラジオとか、一人で出演している時でも、メンバーの話を出しまくるところ。
しかもめっちゃ笑顔で「うちの坂崎は―」「うちの桜井が―」「うちの高見沢がね―」とうれしそうに話す。
坂崎さんがラジオで高見沢さんのソロのライブや曲を当たり前のように紹介するし、メンバーのことが大好きなのね~とほっこりする。

桜「…大好き…って、一人の時はメンバーのこと話しちゃダメなわけ?普通でしょ。ねぇ?」
高「普通だよね。自分一人のラジオだとしても、そもそも”アルフィー”の高見沢としてやってるわけだしね」
坂「そうだね。個人個人の活動だからって話題にしないなんて、それこそどうかと思う。そんなグループ、グループでいる必要ないでしょ」
棚「…でも、話している顔がすごくうれしそうって…」
三『そう見えるだけでしょ。』
棚「……」


エピソードその四
三人で受けるインタビューなど、三人が密着しすぎだと思います。
ソファーに座っていてもぴったりくっついています。
そこまでくっつく必要があります!?

棚「私もそう思います!!」
坂「それ、ソファーが小さかっただけでしょ」
桜「椅子にしたって、そこに置いてあるから座ってるだけだし」
高「置かれているのをこっちが位置変えるのもおかしいだろ」
三『よって、これも普通のこと!』
棚「……」


エピソードその五
「行列のできる法律相談所」に高見沢さんが出演した時に、VTRで桜井さんがエピソードを話されていたが、内容的に困ったことばっかりだったのに最後に「可愛いヤツですよ」とニッコリしていた。

坂「ああ、あれね。観た観た」
桜「俺、何かおかしなこと言った?」
坂「いや?ファンなら、みんな知ってる話ばっかりだったよな」
高「うん」
棚「……いや、そこではなくて。最後に何故”可愛いヤツ”ってなるんだって―」
坂・桜『人に話せるカワイイレベルの話だったじゃん。』
棚「そっちのカワイイですか!?」


エピソード六
ハンドマイクで歌う坂崎さんがやたらと桜井さんのお尻を触りにいくことが多く、触るなと桜井さんに言われても「桜井のお尻を触って何が悪い」的な発言をされることもあります。
桜井さんのお尻は坂崎さんのモノですか!?

棚「確かによく触っていますね」
高「それは否定できない。すごい時は一本のライブ中に何度も触ってるもんな」
桜「この人痴漢です!」
坂「何が痴漢だよ(笑)女の人のお尻を触ったらダメだけど、桜井は男じゃん」
桜「でも触り方がイヤラシイんだよね。こう…下から…」
高「やっぱり痴漢だ!」
坂「違うよ。そこに桜井のお尻があったから触ってるだけ」
高「登山家が山に登る理由のごとく”そこに山があるから”みたいなこと言うな」
棚「さすがにこれは普通じゃないですよね!ね!?」
高「ん~…でも俺も触る時あるしなぁ」
桜「俺も面白がって触ることあるなぁ…」
坂「俺だけじゃないでしょ?」
高・桜『そうだな。』
棚「え…」
三『ということで、これも普通のこと!』
棚「……(ガクッ)」
三『…で、これで終わり?』
棚「…いえ!あります!最後のエピソードが!!」


エピソード七
ライブのMCで高見沢さんが手でハートマークを作って、桜井さんに堂々と「大好き」と言っていましたし、「LONG WAY TO FREEDOM」で歌詞を変えて高見沢さんが桜井さんに向かって「守りたいのはおまえの心の身体」と歌っていました。
高見沢さん、桜井さんのこと、本当に大好きなんですね!

坂「あ~そんなこともあったね」
桜「ははは…(苦笑)」
棚「高見沢さん、これはさすがに言い訳できないでし―」
高「だって好きだもん」
棚「…へ!?…い、今…何と?」
高「だから、好きだもんって言ったの!」
棚「み、みみみ認めましたね!?」
高「…何を?」
棚「何って…桜井さんが好きって言ったんですよね?」
高「うん、言ったけど?…あ、もちろん、坂崎も好きだぞ!」
坂「うん、知ってる」
棚「好きってことは、それはつまり仲が良いってことじゃないですか!」
高「あのさぁ、好きじゃなきゃ、こんなに長く一緒にやってこられないだろ」
棚「ですから!!それはつまり”仲が良い”ってことで!!」
高「それとこれとは別だろ」
棚「別じゃないでしょう!!!」
高「別だよ、別!…あ、ねぇ!二人は俺のこと好き?」
坂「え、ええ?」
桜「な、何言ってんだよ~」
坂・桜『好きに決まってるだろ。』
高「うん、知ってる!」
三『あはははは~』
棚(……こ、この人たちは~~~~)
桜「…で、これでもう終わりなんだろ?帰ろうぜ」
坂「うん、帰ろう帰ろう。高見沢はこれから仕事?」
高「うん、ラジオの収録。坂崎は?」
坂「俺はこれから打ち合わせ」
桜「お忙しいことで」

和気あいあいとおしゃべりしながら部屋を出て行く三人の後ろ姿を睨む棚瀬。
(…全然認めないくせにこの仲良しっぷり。…くそ!だんだん腹立たしくなってきた…!!)
そんな棚瀬の肩にスタッフの一人が手を置く。
「…棚瀬さん、まだ十一カ月あります…!次の手を考えましょう!」
「そうだね…まだ……時間はある!!」

デビュー四十五周年、棚瀬の戦いは始まったばかり―


続く…はず


***********あとがき*******************
実話を元に三人にぶつけてみましたが、見事玉砕しましたw
恐るべしアルフィーさん!
我が家の棚瀬さんともども、今後も戦います!

ネタを提供してくださったみなさん、ありがとうございました!


2019.01.27


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