「まったく、お前ってやつは」
「けっ、そもそもアイツがこの数十年姿をくらましてたのが悪いんだよ」
「この少年に聞けば彼の居場所が分かるのでしょうか」
「力ずくでも口を割らせるぜ」
「…お前なぁ」
「けっ!」

会話が聞こえる中、俺は目を覚ました。
すごく大きくて綺麗な部屋のソファーに寝ていたみたいで上半身を起すとさっきパレードで見た 精霊達の視線が俺に集まる。
…うっ!
な、なんで、どうしてこんな空間に俺がいるんだ。
固まって動けない俺の傍まで水の精霊が長いドレスを揺らして来た。

「お名前は?」
「えっ、あの…っ、ア、アシルです」
「良い名前ね、アシル。闇の精霊があなたに酷い事をしてごめんなさいね」

水の精霊が俺に謝罪すると闇の精霊が声を上げて近づいて来る。

「おい、なんで謝るんだよ。俺は悪い事してねーぞ。おいガキ、アイツの居場所を言え」
「ダルク、乱暴はよしなさい」
「なにもまだやってねーだろ」

やってないってすでに俺、胸倉掴まれてるんだけど…。

「おい、聞いてるのか。アイツの居場所だよ」
「…アイツって?」

さっきからアイツアイツ言うけどさ誰だよ。

「あのいけ好かないウィスプレイルだよっ」

ウィスプレイルって言ったらあの呪文じゃないか?
人の名前ではないぞ。
そんな人知らないって闇の精霊に言ったらふざけんなと怒鳴られた。
そして俺の上に乗り上げてくる。

「このガキしらばっくれると痛い目に遭うぞ!」
「何すんだっ!」
「止めろ、ダルク」

俺の上から闇の精霊を引き離したのは赤い髪の火の精霊だ。
首根っこを掴まれたまま闇の精霊は身長差から床に足が付かずにジタバタ暴れている。

「離せっ!フレイっ!」
「お前は少し落ち着け」

闇の精霊はそのままどこかへ連れて行かれた。

「アシル、大丈夫?」

水の精霊が心配そうに聞いて来たので大丈夫と頷いた。
それにしてもここはどこなんだろう?
まさかとは思うけど…。

「あの…ここってどこですか?」
「ここはシュトレーム城よ」

やっぱりお城だったっ!
ほほ笑んだ水の精霊の手が俺のピョンピョンと跳ねている癖っ毛の髪を撫でた。
うわっ。

「アシル、あなたからわずかにウィスプレイルを感じるの」
「お、俺本当にそんな人知らないんだけど…」

困ったな…。
呪文はサザとの秘密だから精霊達にも言えないし。

「どれどれ…」

今度は土の精霊が近寄って来た。
しわしわの手を俺の額にあて不思議な言葉を唱える。
するとバチンっと大きな音がして俺は驚いて目を丸くした。

「ふむ」

土の精霊は納得したように白いひげを撫でて俺から離れる。
一体、何だったんだろう…?

「この少年、やはり加護を受けているのう」
「ウィスプレイルからですね」

水の精霊の問いに土の精霊は頷いた。
だからウィスプレイルって人は知らないと言ってるのに。
そもそもウィスプレイルってどんな人なんだ?と 疑問に思った事をそのまま口に出した途端、 精霊達が一斉に俺を見た。
…あ。
自ら緊張をするような事をしてしまった。
たじろぐ俺の頬にふわっと風が撫でるように通り過ぎる。

「ウィスプレイルについては僕が話そう」

窓の傍にいる風の精霊がニコリとほほ笑む。

「ウィスプレイルは僕たちと同じ精霊だよ」
「精霊…」
「そう、それも光のね」

ウィスプレイルは光の精霊の事だったんだ。
あれ?まてよ。
パレードの時ちゃんと光の精霊いたはずだけど…。
俺の顔を見て風の精霊は口元に人差し指をあてた。
まるで秘密だよと言っているみたいに。

「パレードの時、君が見た精霊は実は偽者なんだ」

えっ!
偽者!?

「困った事にウィスプレイルは先々代の王の時代から姿を隠してしまって、僕たちが探しても 見つからなかったんだ。今日は国民に精霊の姿を見せないといけない日だろう?だからしょうがなく 代役を立てたんだよ」

光の精霊がずっと行方不明ってこんな事俺に話していいのかよ…。
国民に知れ渡ったら大変な事になるんじゃないか?
それにマルティナは光の精霊が家に来るって喜んでいたのに。

「あの、マルティナの、サリュート家の加護とかって…」
「ああ、それは代役がうまくやってくれたから大丈夫。でも…」

でも…?
でも何だよっ。

「本当の光の加護はサリュート家に与えられていないから、かわいそうかな」

ええーーーーっ。
軽く言ってくる風の精霊にサリュート家が心配になってきたよ。

「もしも加護がなかったらどうなるんですか?」
「うーん、加護で護られている部分が無くなるからどこかしらマイナスな事が起きるよね」

そんなあっさりと。
でもね、と風の精霊は目を細める。

「それよりも大切なのはこの国の光の加護の事だよ」

そうだ。
カルム王国は光、闇、火、水、風、土の6精霊の加護を受けているんだ。
その中の一つの加護が無くなるとどうなるんだろう…。
すごく大変な事が起きるような感じがして変に胸がドキドキする。

「このまま光の加護がこの国になかったらどうなるんですか?」
「精霊を建物の柱だと考えてごらん。6本の柱の内1本が無くなるんだよ。良く考えて」

まさか…。
建物は傾いてやがては崩れる…っ!?
という事はこの国は…。
大変だーーーっ!

「早く見つけないとっ!」
「だからさっきからお前に居場所を聞いてんだろっこのガキ!」
「いてっ!」

急に現れた闇の精霊が俺の頭を叩きやがった。
火の精霊に違う場所へ連れて行かれたのにどこから来たんだ。

「ふふんっ、影のある所ならそこを通って来れるぜ」

闇の精霊の足元にはソファーの影があってそこを靴のつま先でコンコンと鳴らした。
そっか、パレードの時いきなり俺の後ろから現れたのは きっと建物の影を通ったんだな。

「だから俺はウィスプレイルは知らな…むぐっ」

闇の精霊が急に俺の口を塞ぎ真剣な顔をして呟いた。

「アイツが…来る…っ」




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