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他の精霊達も何かを感じ取ったみたいで周りを注意深く見ている。
闇の精霊から影が立ち上り俺に向かって襲いかかって来た。
またかよっ!
ギュウッと目を瞑っていると闇の精霊が偉そうな口調で前を見てみろと言って来た。
そっと目を開けると。

「なんだここ?」

闇に包まれて真っ暗だが前方だけは白黒でさっきの部屋の様子が分かる。
声も聞こえるけど遠くから響いてくるような変な感じがした。

「しばらくここにいろ」
「え?」

闇の精霊は姿を消し次には目の前の白黒に映る部屋の中にいた。
俺はだんだん腹が立ってきたぞ。
精霊だからって何でもやっていいと思うなよっ。
しかも俺の事、ガキガキって言うが闇の精霊だって年齢と身長はたいして変わらないじゃないか!

「ここから出せー!!今すぐ出せー!!……あっ?」

叫んだ俺の目に良く見知った人物が白黒の中に現れた。

え?
あれは…。
あれは間違いなく…。

「サザっ!?」

家にいるはずのサザがどうしてここに?
しかも、何か…雰囲気が違う。
いつもニコニコ笑っている顔は無表情で。
柔らかい空気を纏っているのに今はとても冷たい感じがして。
トロくて鈍いのに精霊たちの前に立っているサザはどこにも隙がない。
そんなサザを闇の精霊が睨み付けた。

「よお、随分久しぶりじゃねえか。家出はもう終わりか?ああ?」
「ダルク止めなさい」

水の精霊が闇の精霊を注意する。
そしてサザにほほ笑んだ。

「元気そうで良かったです。お帰りなさい」

サザは無言のまま広くて華美な部屋をぐるりと見渡す。

「どこだ」
「あ?」

サザの第一声に闇の精霊が怪訝な声を出した。
もう一度サザは同じ問いかけをする。

「どこだと言っている」
「何の事だ?」
「私の愛し子をどこへ隠した」

すごーい低い声はサザの機嫌が悪い事が良く分かる。

「あのガキを見た時わずかにお前の力を感じ取ってまさかとは思ったが、あのガキに加護を与えたのか」

闇の精霊の言葉にサザはそれはそれは冷たい笑みを浮かべる。
思わず俺は怯んで一歩後退してしまった。
あれは本当にサザなのか?
サザと闇の精霊が睨み合っている中、誰かが部屋に入って来たみたいで他の精霊たちの視線が 動いた。
誰が来たんだろう?
その人物の姿が前方の白黒に映る範囲に入ってきた。
俺の見間違いでなければあの人は…この国の王様だ!

「ウィスプレイル、戻って来たか」

……えっ?
今、王様はサザに向かってウィスプレイルって言ったよな?
どういうこと?
急に俺の中に不安が生まれた。

「貴様に用はない」

サザが王様に向かってそう言うと他の精霊達の顔が曇った。
き、貴様…って、王様に向かって何て言い方を…!
怒られるぞ!
だけど王様は怒ることなく苦笑いをしている。

「まったく、先々代の王の時から姿を消しようやく100年目の封印時に現れたと安堵したのだが 変わっていないな。他の精霊達と比べ非協力的でこの城に留まらずふらふらと姿を消す。 だが今日という日に間に合って良かった」
「勘違いをするな。私がここに来たのは封印の為ではない」
「なんだと?」

怪訝な顔をする王様から視線を外したサザは闇の精霊を見下ろした。
闇の精霊は腕を組んでサザを睨み付ける。

「あのガキに会いたかったらさっさとエルゼンと契約を結べ」

エルゼンは王様の名前だ。
それにしてもさっきから出て来る契約とか封印ってなんだろう?

「それは無理だ。私はもうすでに契約をしている」

サザの言葉に王様と精霊達は驚いた声を上げた。
水の精霊はサザに問いかける。

「もしかして貴方が契約しているのはアシルですか?」

それにサザは笑みで返す。
声を荒げたのはやはり闇の精霊だ。

「――っ!このバカが!あのガキと契約しただと!?」

な、なに?
契約って?
俺、そんな事した覚えなんて無いよ。

「あのガキとさっきから誰の事を言っている。まさか私の愛し子の事ではないだろうな」

サザの眼光に闇の精霊はたじろぎ舌打ちをするとちらりと俺の方へ視線を向けた。
闇の精霊のその行動を見逃さなかったサザは確信を持って呟いた。

「そこか」

すると俺のいる空間が光り出す。
光りは瞬く間に膨れ上がっていき、眩しくてギュウッと目を瞑った。
まるであの呪文を言った時のような現象だった。
ふと、誰かが俺を抱き締める。

「坊ちゃん」

その声に目をゆっくり開けるとサザが俺を覗き込んでいた。
さっき見ていた光景が嘘だったように優しくほほ笑んでいる。

「…サザ?」
「はい、坊ちゃん」

いつものサザだ。
俺はホウッと息を吐いた。
…そうだよ。
サザじゃないように見えたのはきっと闇の精霊のせいだ。
あの白黒に映っていたものは真実ではないんだ。
もう少しでだまされるところだったぜ…。
サザは俺の背を優しくポンポンと叩いた。

「さあ、家に帰りましょうね」

帰りましょうねって…いいのかなと周りを見てみると 王様や他の精霊達は意外なものを見たという顔をして驚いている。
闇の精霊の顔が引きつり口がヒクリと動いた。

「うげぇっ、なんだアレは…って、オイ、このまま帰すわけがないだろ!!」

我に返った闇の精霊は大きな影でサザを襲った。
しかしサザの身体が光り輝いて影を弾き飛ばす。
それを目の当たりにした俺は無意識にサザから遠ざかっていた。

「坊ちゃん?」

手を伸ばしてくるサザから俺はまた遠ざかる。
だって……だって!!

「違う………じゃない…」
「坊ちゃん?」
「違う!サザじゃないっ!!」

俺に触れようとするその手を払った。




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