うー…。
夕飯を食べてなかったので腹を空かせながらの目覚めになった。
腹減ったよ〜。
目を開けると金色の光が。
サザの手触りの良い長い髪がぼんやりと目に映る。
視線を上げると綺麗な顔が目を閉じていた。

「…綺麗だな」

サザの顔に窓から入る朝日が当たり白くてきめ細かい肌と金色の髪がキラキラしている。
その昔有名な彫刻家が実際に6精霊を見てあまりの美しさに感動し長い年月をかけて完成をさせた 銅像が城下町の中心にあるけれどそれ以上にサザは綺麗だと思うんだ。
それに比べて俺は一目見て下町育ちだと分かるような容姿だ。
これといって特徴もないし唯一あるとしたら長所とは言えないダークブラウンの癖っ毛の髪。
いくら整えてもピョンピョンと跳ねる。
まあ、不満を言ったって今さらどうしようもないけどさ。

「ん…坊ちゃん、おはようございます」

サザの瞼が上がり菫色の瞳が俺を見る。

「おはよ、サザ。お腹空いた〜!」
「分かりました。大きいオムライス作りますね」

クスリと笑ったサザは俺の朝食を作る為にベットから出て階段を下りて行った。
あ、そうだ。
洗濯物、干しっぱなしだ。
俺も洗濯物を回収するためにリビングへ向かった。










洗濯物が吊り下げられていないすっきりとしたいつものリビングでサザが作った 大きいオムライスをムグムグと食べていると父ちゃんが起きて来た。

「父ちゃん、おはよ」
「アシル、サザおはよう」
「おはようございます」

父ちゃんは俺とサザを見て笑った。

「なんだ、仲直りしたのか」
「…別にケンカしてたわけじゃないし」
「お、いいなぁ。朝からオムライスか」

俺のオムライスを父ちゃんが狙っている。
ガバッと腕で皿を囲んで睨んだ。
昨日父ちゃんは俺の分まで食べたくせにっ。
サザが来て父ちゃんに朝食を用意していく。

「ジョスタさんの朝ごはんはこっちですよ」
「アシルはけちんぼだな。うんうん、こっちもうまそうだ」

朝食を食べ終えた父ちゃんは席を立ち仕事に行く為に家を出て行った。
しばらくすると玄関から俺を呼ぶ声がする。

「おーーーーいっ!アシルー!」

この声は同じ下町の幼馴染で近所に住んでいるジャンだ。
ジャンは身体が横にも縦にも大きくてよく悪知恵が働く悪ガキだ。
玄関に行くと興奮したジャンが大きく足を上げ下げしている。

「おいっ早くしろよ!行くぞ!」
「…は?どこに?」
「あの雷親父の所だよ!」

雷親父とは俺ら下町の子供たちがいたずらをすると怒りながら箒を振り回して追いかけてくる 老人だ。

「昨日の雷が雷親父の家に落ちたんだってよ!」
「えっ!本当かよ!?」
「それを見に今から行くんだって。雷親父に雷が落ちたって笑えるよな!」

ジャンはおかしそうに声を上げて笑っている。
俺は急いでリビングに戻り残っているオムライスを口の中にかき込んで上着を掴んだ。
そんな俺を見たサザが声を掛けてくる。

「坊ちゃん?どこにいくんですか?」
「すぐそこまで!」
「私も一緒にっ」
「サザは留守番!」
「ぼ、坊ちゃん〜」

不満そうなサザを家に残して俺はジャンと一緒に雷親父の家まで走って行った。
家の間の迷路みたいな細い道をずっと進んでいくと塀に囲まれている一階建てのこじんまり とした家が現れた。
そこが雷親父の家だ。
別にこれといって変わった様子はない。

「おい、ジャン。別に何も変わっていないぞ?」
「あれー?おっかしいなぁ。朝さ、母ちゃんと近所のおばちゃん達が言ってたんだけど」

うーんと考えているジャンを見ていると突然、バンっと家のドアが開く音がした。
その音に俺もジャンも驚いてビクッと身体が跳ね上がった。

「げっ!雷親父っ!」

ジャンが箒を片手に持った雷親父に向かって叫んだ。

「この悪ガキ共め!雷が家に落ちたと思って笑いにきたか!」
「げ、バレてる…!」

ジャンのバカっ!
声に出して言うなよ!

「残念だったな。雷が落ちたのは庭じゃ!」
「なーんだ…。つまんねーの」

だから、声に出して言うなって!
顔を真っ赤にした雷親父が箒を俺達に向かって突き出した。
そして声を荒げながら走って来る。

「うわっ、アシル、逃げるぞ!」

俺たちは一気に駆け出してその場を逃げ出した。
暫く走り続けた後、立ち止って後ろを振り返るともう雷親父は追いかけては来なかった。
はービックリした。

「うまくまけたか」
「ジャンのせいで朝から疲れた…」
「俺のせいじゃねえもん。母ちゃん達がよ…」

ジャンが途中で言葉を止め俺を見る。
俺もジャンを見て頷いた。

「どっちだと思う?」
「アシルだろ?」
「何言ってんだよ。ジャンだろ?」
「じゃあ賭けるか?」
「良いよ。俺はジャンに100ガルト」
「俺はアシルに100ガルト」

こそこそと話しながらちょうど、分かれ道の所まで来た。
そして…。
俺達は一斉に左右に分かれて走り出す。
少し離れた所から黒服を着ている男達が俺達を見ていた事に俺もジャンも気付いた。
用があるのは俺とジャンのどっちだ?
でも俺にはそんな奴らに付けられるような事はしていないので絶対ジャンだろうと思って後ろを 振り向いた。
ほら、俺なんか追いかけてこない……。

「ぎゃーーーーーっ!!」

なっなんでーーーーーーーー!!?
走っている俺の後ろを黒服の男達がしっかりと付いて来ている。
ジャンならともかく、おおおおお、俺っ何も悪い事してないぞ!
加速して走るが相手もプロなのか段々と距離が縮まってくる。
くそっ、下町っ子を舐めるなよ!
わざと迷いやすい細い道を選んで走り続ける。
しばらくするとさすがの俺も息が苦しくなって来た。
立ち止まって息を整える。

「ぜぇーぜぇーっ。もう、大丈夫だろ。………っ!?」

俺の目の前に追い付いた男達が姿を現す。
警戒する俺に一人の男が前に出た。

「そう、警戒しないでくれ。君に聞きたい事がある」
「…聞きたい事?」
「昨日、君は骨董市で髪止めを買わなかったか?」
「な、何で…」

それを知ってるんだ?

「まだそれを持っているか?」
「…あるけど」
「そうか!」

黒服の男はホッとしたように胸を撫で下ろした。

「骨董市にいた老婆からすでに少年に売ってしまったと聞いて君を探していたんだ。 実はそれは間違ってとある方が手離してしまった物で返してもらいたいんだ」
「え…」

でもあれはサザの誕生日プレゼントなのに。
素直にうんと頷かない俺は想定内だったようで黒服の男が交換条件を言って来た。

「もちろんそれなりのお礼はする。20万ガルトでどうだ」

な、20万ガルトだって!?
とんでもないお金だ。
俺があの髪止めを買ったのは5千ガルトなのに。

「悪い話しではないだろう?」

確かにそうだけど…。
でも、アレをサザにと決めたからなぁ。
黙っている俺に黒服の男はそれならとさらに驚く事を言って来た。

「では50万ガルトでどうだ」
「…!!」

俺は少しめまいがしたよ。
どうしたらそんなお金の額をこんな俺みたいなガキに提示出来るんだ。
余程困っているのか?
…………。
はぁー、しょうがない。
サザに似合うと思っていたんだけどなあ。

「…分かった返すよ。でも」
「でも?」

死んだ母ちゃんが言ってたんだ。
うまい話しには裏があるって。
金持の言う事は簡単に信じちゃだめだってさ。

「俺がその髪止めを買った5千ガルト…それだけもらえればいいよ」
「欲のない子だな。せっかくくれると言っているものを」
「いいんだって」
「では…」

もしかしてこの人達、家まで付いて来る気か…?
城下町ならともかく下町で黒服の男と一緒に歩いていたら近所の人に変な目で見られるって。
その事を説明すると指定した場所に持ってくるように指示された。
そして変な事を聞かれる。

「そうそう、その髪止めを買った事を誰かに見せたり話したりしたか?」

俺は頭を振る。

「してないけど」
「それなら良い。その髪止めを持ってくる時も誰にも見せず話さず持ってきてくれ」
「……?分かった」

まったく変な事を言うなぁ。
一旦黒服の男達と別れて俺は家に戻る事にした。





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