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「本当はさ、あの髪止めはサザの誕生日プレゼントだったんだ。でもあんな事が起きちゃって 結局なにもプレゼント用意出来なくて…ごめん」
「いいえ、坊ちゃん。私はプレゼントを貰いましたよ」
「え?」
「坊ちゃんです」

俺がプレゼント?
きょとんとする俺にサザは後でたくさん坊ちゃんを貰いますからと訳の分からない事を言って来た。
突然、第三者の声が突っ込んでくる。

「おいっ!そんなガキに手を出すのか!」

いつの間にか姿を現した闇の精霊が嫌そうな顔をしてサザを見ている。
そして他の精霊達も俺とサザの近くにいた。
い、いつからいたんだ!?
サザに好きって言った事聞かれてないよなっ。

「アシル」

俺の名を呼んだのは水の精霊だ。

「エリュセルト家の者が貴方に乱暴な事したようね。ウィスプレイルから聞きました」

申し訳なさそうな顔をしたのでなんでだろうと思っているとサザがエリュセルト家の加護は 水の精霊が与えていると教えてくれた。
でも俺が危険な目に遭ったのは水の精霊のせいではないし。
そう伝えると水の精霊はほほ笑んだ。

「優しい子」

そう言われると照れる。

「おい、ウィスプレイル。お前がどこに行こうと誰と契約しようと勝手だが封印だけはしろよ」

体格の良い火の精霊がサザを見ている。
そういえば封印とか契約とか一体なんの事なんだろう?
俺が疑問に思っている事が分かったのか土の精霊がひげを撫でながら見上げて来た。

「契約、それはワシら精霊が無条件で力を貸す者を指すのじゃよ。昔からそれは王と してきた。だがウィスプレイルは王ではなくお前さんと契約した」

えぇっ!?
それっていいの!?
大丈夫なの!?

「そんな顔をしなくても良い。王以外の者と今まで契約をした前例がないだけでしてはいけない 事ではないからのう」

はぁーーーーっ。
よ、良かった。

「そして封印、それはこの地に眠る悪しき者を封じるためにワシら6精霊が100年ごとに封印をかけ直しているのじゃ」
「…悪しき者って?」

フム、と土の精霊は頷いた。
昔々の事、一人の勇気ある男と6人の仲間たち、そして精霊王から命を下された6精霊達は この地にいた人たちを苦しめていた悪の元凶を倒す事に成功した。
だが倒してもその身を滅ぼすまでには至らず、この地に封じた。
後に勇気ある男はその地を治める王となり6人の仲間たちは王を支える6候となる。
しかしその強力な力は王と6精霊達が100年に一回封じ直さなければならなかった。
悪しき者が眠っているその場所はこの国の城下町の中央広場だ。
だから加護を与えるという名目で100年に一度精霊達は国民に姿を現し本当は封印を掛け直していた。
だけど今回、数十年前に姿を消した光の精霊が今日になっても見つからず他の精霊達と王様を悩ませていた。
そこに光の精霊の力を纏わせている俺が現れたら…捕まえないわけはないだろうな。
でも、まさかこの国の下に悪い奴を封印してるなんて知らなかったよ。
国民が知ったら驚くから秘密じゃよと土の精霊は俺に言った。
驚くって言うか大パニックだろうなぁ。
ところで…。

「サザ、封印をまだしてないの?」

俺の問いに答えたのはサザではなく闇の精霊だ。

「まだしてねえよ。封印は6精霊が揃ってされるもんだ」
「サザ、封印しなきゃ」
「………」

サザは黙っている。
なんかやる気がないみたいだ。
なんでだろう?

「サザは封印をしたくないの?」
「私はこの国がどうなろうと別にいいのです。5精霊だけで封印は出来ます」
「えっ!?でもさ、柱が5本だけだったら崩れちゃうよ!」

何の話しです?と首を傾げるサザに風の精霊が俺に問いかけて来た事を言うと 笑った。

「大丈夫ですよ。5本も柱があるのに簡単に倒れるわけがないです」
「サザ…俺は、生まれ育ったこの国が危険な目に遭うのは嫌だよ」
「私は光の精霊の姿を見せ坊ちゃんに嫌われる方がずっと嫌です」

…嫌うって?

「サザとウィスプレイルは同じであって同じではない。坊ちゃんの前ではサザでいたいのです」
「サザはウィスプレイルの自分が嫌いなの?俺はウィスプレイルを嫌ったりしないよ。 だってサザはウィスプレイルでウィスプレイルはサザでやっぱり同じなんだよ。だからえっと、サザと 同じウィスプレイルだから…」

俺はサザの耳元で他の精霊達に聞こえないように小さく囁いた。

「す、好きも一緒だよ」
「坊ちゃん…」
「封印してくれる?」

サザは…ウィスプレイルはゆっくりと頷いた。










その夜、人気のない城下町の中央広場に王様と6精霊が姿がある。
国民が見たら驚愕ものだが万が一に備えて人を通さないように警備兵が広場の周囲に配置されている。

「では始める」

王様のその言葉に6精霊は肯定した。
大きな剣を掲げた王様は封印を始める言葉を言った後切っ先を地に下ろした。
その周りを囲んでいる精霊達が王様に向かって手を掲げ聞いたこともないような言葉で長い呪文を 唱えている。
それぞれ精霊達がいろんな色に輝き始めた。
その光は剣に吸い込まれ王様が封じる言葉を叫ぶと大きな光は足元を輝かせすごい速さで国土全てに光が 広がり渡った。
だがそれも一瞬の事で直ぐに光は消えた。

すごい。
今ので封印は終わったのかな。
精霊達の輪からウィスプレイルが外れ俺の所に歩み寄る。
サザの時の深みのある優しい金色の髪とは違い今は月光のような凛とした輝きあり菫色の瞳からは感情が読めなくて全体的に冷たい印象がした。
ウィスプレイルは俺の目の前で止まり黙ったまま見下ろしている。
俺は手を取り握った。
冷たい手がそっと握り返して来る。

「封印終わったの?」
「はい」
「そっか。お疲れさま。もう帰っていいのかな?早く帰って夕飯作ろ。父ちゃんがまた拗ねちゃうよ」

クスクス笑う俺にウィスプレイルは安堵したようにフッと笑った。
笑うと少し冷たい印象が和らいだ。
王様が剣を鞘に入れみんなに向かって言葉を発した。

「さて、皆。無事に封印はされた。今の出来事に国民達が騒ぎ始めているようだ。後は警備兵に 任せて帰るとしよう。少年、この後どうする?我らと共に城に来るか?」

王様が俺を城へ誘ってくれたけど断った。
だって今日はサザの誕生日だから父ちゃんと一緒に祝いたいんだ。
でも一つだけ王様に聞きたい事がある。

「あの、王様」
「何だ」
「サザ…ウィスプレイルを俺の家に連れて帰ってもいいですか?」

王様は黙って俺とウィスプレイルを見つめている。
ダメだと言われたらどうしよう。
ギュッとウィスプレイルの握る手を強めた。

中央広場に王様の笑い声が響く。

「良い。連れて帰れ」
「いいんですか」
「ああ。ウィスプレイルは君と契約をしている。我が駄目だと言ったところでウィスプレイルは 素直に言う事を聞くはずがない。それに君と一緒にいた方が居場所が特定出来る。 だがもしもこの先、ウィスプレイルの力が必要となった時は協力をしてもらうぞ」
「は、はいっ」

良かったね、と言うとウィスプレイルは当たり前だというふうに王様に向かって 鼻をフンッと鳴らした。
お、王様に向かって何てことをっ!
ハラハラしている俺を余所に他の精霊達が王様の元に集まる。

「アシル。また会いましょう」

水の精霊が手を振る。
闇の精霊はウィスプレイルを睨み付けてから立ち去った。
他の精霊達も別れの言葉を言って王様と一緒に城へと帰って行った。
静けさが戻った中央広場が段々と騒がしくなって来る。
さっきの封印のせいで町の人たちが外へ出て来たんだ。

「俺達も帰ろうよ」
「はい、坊ちゃん」

こうして100年の精霊祭は幕を閉じた。




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