「おい、ちょっと待てって!」
「何ですか、おじさん」

仕事が終わりさっさと帰ろうとするバニーをアポロンメディア社内で引き止めた。
すると新しい相棒はさも迷惑そうな顔を隠そうとせず俺を見る。
まったくもってかわいくない。
なぜ俺がこんな若造とコンビを組まなきゃならんのだ。
まぁ、文句を言っててもしょうがないのでここはベテランヒーローである鏑木・T・虎徹が 新人のヒーローであるバーナビー・ブルックスJr.と仲を深めるためにコミュニケーションを 取ろうと思ったんだよ。
それなのに……。

「用があるなら早く言ってもらえます?」

この通りだ。
まったく最近の若いやつは。
しかしここでいちいち腹を立ててたらきりがない。

「この後って暇か?バニー」
「僕の名前はバーナビーです!」

真顔で怒って来るバニーを軽くスルーした。
バニーって呼び方、自画自賛ってわけじゃないがなかなか良いネーミングだと思うんだよな。
もう一度、暇かと聞くとメガネのブリッジを指で押し上げたバニーが目を冷たく細める。

「僕はあなたと違って暇ではないんですよ。これで失礼します」
「あ、おいっ」

背を向けたバニーはさっさとこの場を立ち去って行った。
一人残された俺は深い深い溜息を腹の底から吐き出す。
これからの事を考えると胃が痛くなってくる。
手で胃を撫でた途端、ぐぅ〜っと腹が鳴った。
家に帰って飯でも食おう。

「晩飯はチャーハンでも作るか。その後、楓に電話して……」

帽子を被り直し会社を出ようとしたその時。
手首に付けているPDAの音が鳴る。

『ボンジュール、ヒーロー!シュテルンメダイユ地区で強盗事件発生――』

出動だ。
斎藤さんの所に急いで行くと早くスーツを着ろと手を振られた。
あれ?
バニーのスーツが無い事に気付く。

「斎藤さん、バニーは?」

斎藤さんが何やら口を動かしている……が、全く聞こえない。
もう少し声出せねえかなぁ。
しょうがないから耳を近づけるとやっと聞き取れた。

「彼なら先に言ったよ」
「はぁ!?先に行った!?」

おいおい、普通こういう時は一緒に行くもんだろ。
顔を顰めながら俺はバイクを走らせ目的の場所へと急いだ。
高層ビルが立ち並ぶそこはすでにヒーロー達が応戦をしていた。
それぞれの能力を使って戦っているみんなを確認していると、ヒーロースーツ姿のバニーを見つけた。
相棒の傍に駆けて行くと俺に気が付いたバニーが振り向く。

「遅いですよ。おじさん」
「あ?」
「僕の足を引っ張らないようにして下さいね」
「お、ちょっと」

バニーはお得意の跳躍でさっさと俺を置いて犯人達を捕まえるべく行ってしまった。
またかよ!!
あーあー、そうですかっ!
お前がその気なら俺も勝手にやってやるからな!
腕を前方に突き出しビル目掛けてワイヤーを発射する。
ん?
あれ?出ない。
ぺしぺしと叩いて腕を振っていると突然バシュっという音と共に発射した。
ぐんぐん伸びて行くワイヤーの先端が引っ掛けたのは……。

「げっ!!」

よりによってバニーに……っ!!
おおお、わーーーー!!?
外そうとする間もなくワイヤーに引っ張られ、ワイヤーに引っ掛けられたバニーもまた 引き寄せられた。
路上でぐるんぐるんにワイヤーに巻きつかれた俺とバニーが密着したまま転がる。
俺の上に乗っかったバニーがそれはそれは恐ろしい空気を纏って見下ろしてきた。

「え、えへっ」

間違いなくバニーからブチッと切れる音が聞こえてくる。

「何がえへっですか!また同じ事をしてあなたに学習能力というのはないんですか!?」

確かに今の状況と同じ事をつい最近したけどさ。
上を見上げるとヒーローTVの飛行船に付いてる巨大モニターに俺達の間抜けな姿が映し出されてしまった。
くそ、カッコわりぃ。

「悪かったって」
「悪いと思うなら今すぐこのワイヤーをどうにかして下さい!」
「うーん」

どうにかって言ってもよ、両手が絡まって動かせられない。
どうすんだ?これ。
もぞもぞと動いているとバニーの顔がだんだんと険しくなってきている。
やばいな。
早くしないと口を聞いてくれなくなってしまいそうだ。

『おーっと!ブルーローズが犯人の一人を完全ホールド!!』

実況アナウンサーの声が大きく響くと周りのギャラリーから大きな歓声が上がった。
その後も次々にヒーロー達が犯人を捕える様子が伝えられていく。
そしてついに俺達がワイヤーから抜け出せない間に全ての犯人が捕獲されてしまった。

「……あなたと言う人は」

地の底を這うような恐〜い声を出しバニーが俺を睨み付ける
いや、うん……。

「わ、悪かったよ!」
「貴方が僕の邪魔をして番組で目立てなかった事、一生覚えておきます」

こいつ、謝っている傍から。
しかも。

「これであなたの状況判断の無さがはっきりと分かりました」
「おい、そんな言い方ねえだろ!ちょっとミスっただけで」
「可能なら貴方とコンビを今すぐ解消したいですね」
「……な!?」
「会社命令とはいえもう耐えられません」
「っ!!」

ぎゃあぎゃあと言い合っている頃、俺達のその姿が中継車内で映し出され、 それを見たアニエスがこめかみに怒りマークをくっつけながら深い溜息を付いていたのだった。




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