「どもー、お邪魔しまーす!」
「どうぞ」

バニーがドアを開けてくれて中へと入ると広いリビングに通された。
そこは壁一面のディスプレイと一人掛けのイスにサイドテーブルがある……が、 言いかえるとそれだけしかない。
俺も一人暮らしだがもう少しいろんなものがあるぞ。
なんだか自分が使うもの以外は何も置いていないように感じられた。
例えば友人が来たときに使うイスだとかな。
そんな事を思いながら大きな窓ガラスまで行く。

「で?おじさんは何の用で来たんですか?」

窓ガラスに張り付いてシュテルンビルトの夜景を見ていた俺はバニーを振り返り手に持っていた袋を上げた。
バニーは少し首を傾げてそれを見る。

「それは?」
「夕飯まだだろ?一緒に食おうぜ。酒もあるぞ」

するとバニーが額に手を当てはぁっと溜息を吐き視線をチラリと俺に移した。

「またおせっかいですか?何度言ったら分かるんです?僕に関わらないで下さいっていつも 言ってますよね」

……おーい、ファイアーエンブレム。
これを見ても仲が深まったなんて言えるか?
やっぱり何も変わってねえじゃねえか。

「別におせっかいじゃねえよ。たまにはいいだろ?一緒に食おうぜ」
「あ、勝手にっ」

俺はその場に座り込んでごそごそと袋から取り出して行く。
ほらっと使い捨てのフォークをバニーに差し出した。
バニーは諦めたらしく俺の向かい側に座りフォークを受け取った。

「お前さ、いつも何食ってんの?」
「適当です」
「適当って……あ、酒もあるんだ。ほら」
「ありがとうございます」
「飲み過ぎんなよ。前みたいに二日酔いになるからな」
「あれは完全に失敗でした」

そう言いつついきなり缶ビールを開けぐびぐびと飲んでいる。
おいおい大丈夫か?

「お前、酒弱いの?」
「いえ、弱くはないんですが、あの時は考え事をしていてついたくさん飲み過ぎてしまって」

バニーが二本目に手を伸ばす。
俺も一本目の缶ビールに口を付けた。

「そういや……あれから探しものは見つかったか?」
「……いえ」

小さく返事をしたバニーが三本目を開けた。
随分ペースが早いな。
そうこうしている内に五本目を空にしてしまった。

「いつもそんな飲み方してんのか?俺なんかまだ一本目だぞ」

少し頬を赤く染めたバニーがすみませんと謝って来る。
どうやら俺が買って来たビールをたくさん飲んでしまった事に対する謝罪だった。

「いや、別に何本でも飲んでいいけど……」
「ビールがなくなってしまいましたね。銘柄は違いますがウチにあるのでよければ持ってきます」
「お、おお」

そう言ってバニーは数本のビールとワインを持って来た。
ビールもワインも高いものだ。

「このワインはお薦めですよ。僕の好きなロゼなんですけど」

少し酔っているのか無愛想なバニーがほほ笑んでいる。
普段のつんけんした態度が感じられない。
いつもそうだったら可愛げがあるんだがなぁ……って今さっき持って来たビールがなくなりそうに なっている!?
俺は慌てて今開けようとしているビールをバニーから取り上げてワインを勧めた。
ワインなら一気飲みするような事はないだろう。

「もうビールはよせ。二日酔いになるぞ。ワインでも飲んどけ」
「ああ、すみません。おじさんに持って来たビールだったのに」
「いや、いいけどよ」
「なんだろう。いつも一人で飲んでる時はこんなにペースが早くないんですけどね」
「まあ、一人酒よりも誰かと飲んだ方がいいって事だろ?」

酔っているせいかバニーの瞳が揺れている。

「……そうですね」

うーん、やはり酔っていると人間素直になるものなのか?

「ワイン飲みます?」
「ああ、もらう」

バニーからグラスを受け取り口に含むといい香りが広がる。
うん、これはうまい。
飲みやすさもあって結構な量を飲んでしまったと気付いた頃には俺も 酔いがかなり回っていた。




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