「……ぅ、ん…」

喉の渇きを覚えて眠りから覚醒する。
身体を動かそうとしても動かない。
何かが俺の上に乗っていてそれがとても重いのだ。

「お、重っ、何が……」

目を開けると金色の髪が見えた。
仰向けに寝ている俺に圧し掛かりながら肩に顔を埋めるようにしてぐうすかバニーが寝ている。
それだけならまだしも……。

「なんでこいつ裸!?」

下着は穿いているから全裸ではないんだがどうして服を脱いでいるんだ?
こいつ、酔っぱらうと人にキスをするだけじゃなくて服を脱いでしまうのか?
新たな問題点を見つけてしまった。
とりあえずバニーの下から抜け出そうともぞもぞ動いて……。

「げっ!?」

思わず大きな声を出してしまった。
なぜなら俺まで下着姿だったからだ。
いくら酔っていたとはいえ俺は服を脱ぐ事はしない。
と、言う事は……バニーに脱がされたのか?
こいつは人の服まで脱がすのか。
さらなる問題点が増えた。
身体をずらしながらバニーの下からどうにか抜け出す。
ふうっと一息吐いて気持ちよさそうにソファーの上で寝ているバニーの鼻を指でピンっと弾いた。
下着姿のまま冷蔵庫まで行きミネラルウォーターのペットボトルを取り出してぐびぐびと飲んでいると、 のそりとバニーが上半身を起こす。
ん?起きたのか。
こいつも水がいるだろうと思ってもう一本ミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出した。
水を飲みながらバニーに近寄ってずいっとペットボトルを差し出す。
ちらりとバニーが横目でそれを見て俺を見上げた。
飲むだろ?とペットボトルを揺らすが焦点が定まっていないバニーは俺をじっと見たままだ。
まだ酔ってんのか寝ぼけてんのか検討が付かない。

「み、ず……」

ポツリとバニーが声を出した。
水と聞き取った俺は、ほら飲めとペットボトルをバニーの目の前でチラつかせる。
しかしそれをバニーに手で払われしまいペットボトルが音を立てて床に転がる。
その上、払われた勢いで水を飲んでいた俺は飲み口から水をこぼしてしまった。
口のまわりや胸を濡らす水が床にぽたぽたと落ちていく。

「お前っ、何すんだよ。あーあ、水が床に零れて……」

グイッと口を腕で拭いながら濡れた床を見下ろしていると人の気配を感じた。
顔を上げるのと同時にひんやりとした柔らかい感触が俺の口に触れた。
なんというデジャヴ。
突然の事に頭がついてこない俺はパチパチと瞬きをした。
その間に熱を持った舌が顎に滴る水を舐め取る。

……な。 なーーーーーっ!!!?
驚いて大きく口を開けるとバニーの口に塞がれた。
んぐーーーーっ!!!!
慌てて引き離そうとしたががっちり後頭部を掴まれて逃れられない。
にゅるっと舌が口の中に入って来る。
ひーーーーーっ!!!!
思わず縮こまる俺の舌にバニーの熱い舌が触れると獲物を見つけたように 無理矢理絡めていく。

「ん……む……ぅ!!」

バシバシとバニーの背を叩くが全く意味をなさずその間にも同じ人間の舌とは思えないくらい 軟体かつ巧妙に俺の口の中を動き回った。
不覚にも身体がぞわぞわしてきてぶるっと震えてしまった。
だだだ、断じて感じてるわけじゃないぞ!!
というか何だこいつのキステクは!!

「バ、ニー……っ」

溢れ出す唾液が口の端からこぼれ落ちる。
それでもバニーは夢中になって俺の口に吸いついたまま離さない。
攻められるだけ攻められると突然、膝がかくんっと落ちた。
しかししっかりと背に回っているバニーの腕に支えられて床に倒れる事はなかった。
そこでようやくバニーがゆっくりと口を解放して息を切らしながら見上げる俺をジッと見てくる。

「虎、徹さ…ん」

ぐらりとバニーが倒れてくる。
俺はギョッと目を丸くした。
バニーに支えられている状態の俺が倒れてくるこいつを受け止められるはずもなく そのまま一緒に後ろへと倒れてしまった。
ゴンッという素晴らしい音を立て 後頭部を強打した俺は部屋の中だというのにたくさんの星を見る事になり、 バニーの酒癖の悪さ一覧にキス魔という新たな項目が追加されたのは言うまでもない。





朝、キッチンで大きなたんこぶを氷水で冷やしているとバニーがソファーからむくりと起きた。
俺がそこまで運んだんだ、感謝しろよ。
バニーは背もたれから俺と目を合わすとパッと目を逸らし下を向いた。
俺はそれを見て鼻からフンッと息を出す。
キスの事を思い出したのか。
こぶの痛さに顔を顰めつつ文句を言ってやろうと口を開いた時。

「まったくあなたという人は……っ!」

バニーは顔を下にしたままボスっとソファーに拳を落とし怒って来た。
へ?なんで俺が怒られてんの?
顔を両手で覆いぶつぶつと呟いているが何を言っているのか聞こえないので そっと近寄ってみた。
するとキッと鋭い目つきで俺を見るが頬はなぜだが赤く染まっている。

「貴方が酒を飲み過ぎるとあんなに酷いとは思いませんでした」
「は?」

それはお前だろ、と言い返そうとしたが興奮しているバニーに口をはさむ隙がない。

「いいですか、絶対にこれから酒を飲み過ぎると言う事は止めて下さい。いえ、いっそ 禁酒です。今日から虎徹さんは禁酒です!!」
「はあ!?」

馬鹿な事言うなよ。
そんな事出来るわけないだろ。
呆れた顔でそう言うとそれはそれは恐い顔をした。

「自分がどれだけ酒癖が悪いか知らないから……っ!!」
「それはお前の方だって!!」
「言いがかりはよして下さい」
「それはこっちのセリフだ!俺がお前に何をしたんだよ!」
「……っ!?」

俺が叫んだ途端、顔を真っ赤にして硬直した。
………。
…………。
おーーい。
バニー?
バニーちゃーん?
手を目の前で振ってみるが固まったまま微動だにしない。

「とにかくっ!!」

うおっ!動いた!
ビシリと俺の鼻の先に指を差すバニー。

「虎徹さんは今日から禁酒です!」
「勝手に決めんな!!」
「健康にもいいですしいいじゃないですか」
「だからいつもそんなに飲んでねえって」
「信用できません」
「俺を信じろって!」

そう叫ぶとさすがにバニーも、うっと声を詰まらせる。
拳をギュッと握って目を逸らした。

「……いいえ」
「え?」
「これとそれとは別です」
「はあ?」
「僕は貴方の為に言っているんです!そんな僕を信用しないのは虎徹さんの方です!!」

バニーに叫び返されてしまった。
素早く服を身に付けたバニーは最後に俺を見て「禁酒です!」と言ってから家を出て行った。

「禁酒だって?」

つま先にコツンっと酒びんが当たり転がっていく。
むうっと唇を尖らせてバニーが出て行ったばかりの玄関のドアを睨みつけた。
俺はバニーの言う事をきくつもりはこれっぽっちもなかった。




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