「え?お前飲みに行ったの?」

お前と言うのはバニーの事ではない。
ロックバイソンの事だ。
たまたまバーで会い一緒に飲んでいるとふとロックバイソンが思い出したように口を開いたのだ。
この間、バーナビーと一緒に飲んだと。

「いや、飲みに行ったんじゃない。今日の虎徹みたいにここで飲んでいたのを見つけただけだ」
「へー。お前とバニーだなんてめずらしい組み合わせだな」
「まあ、そうだな」
「どんな話しをしたんだ?」

俺が聞くといたって普通の会話だと言う。
礼儀正しくて好青年だとバニーを褒めた。
……礼儀正しい?好青年?
ちょっと待て。
今聞き捨てならない事が耳に入ってきたぞ。
俺をおじさんと言ったり心配してんのにおせっかいとか他にもずけずけと遠慮せずに 物申すあいつが……何だって?

「だから今時の若い者にしては気持ちのいいやつだよ。世間に人気がある理由がわかるな」

お前……完全に騙されてるぞ。
俺はグビッと酒を煽ってグラスをカウンターにダンっと置く。

「バニーはそんなかわいい性格はしてないぞ。お前は騙されている」

ビシッと指をロックバイソンに突き立てて……ずきりと肩が痛んだ。
いてててて!!
思わず手で右肩を押さえる。

「おい、虎徹大丈夫か?」
「おー、平気平気」

あの正体不明なNEXT、ルナティックの炎で負傷した肩は順調に回復しているが時々変に捻ると 痛みに襲われる。
俺はバーテンダーに焼酎のロックを頼んでそういえば…とロックバイソンに聞いた。

「なぁ。その時のバニー、かなり酒を飲んでいたか?」
「んー、そうだな。バーナビーが普段どれくらい飲むか分からないがそれなりに飲んでいた気が するな」

何か嫌な予感がしてくる。
なんたって酔ったら人に絡んでキスをしてくるんだぞ!
ま、まさか。
チラリとロックバイソンを見た。

「何も……なかったか?」
「何もって何だ?」

俺の質問に質問で返してきやがった。

「だから!バニーが酒癖悪くなかったか?」
「いや、別に普通だったぞ」
「普通?」
「ああ」

ロックバイソンが頷いて俺はホッと胸を撫で下ろした。
この後、なんだか気が緩んでしまい相手が親友って事もあってついついいつも以上に飲んでしまった。
しばらくして誰かが俺を揺すっている。
何だよ……もう少し寝かせてくれよ。

「おい、虎徹っ。起きろ虎徹!」
「んー……チャー…ハン」
「ダメだこりゃ。まったくバーナビーとは大違いだな」

大きな溜息をロックバイソンが吐いていた事なんて夢の世界に踏み込んだ俺に 分かるはずもなかった。





「ふぁ〜……」

ごしごしと瞼を擦りながら目を開ける。
大きい窓から射し込む太陽の光の眩しさに目を細めたと同時に違和感が。
俺は自分のベッドじゃないベッドの上にいた。
周りを見渡すと……どこか見覚えのある広い部屋だな。
確か……。
答えを導く前に喉の渇きを覚えとりあえずこの部屋から出る事にした。
するとここがどこだか思い出す。
この前、市長のベビーシッターを頼まれた時にここを訪れたばかりだ。
勝手知ったる我が家のようにリビングへ入るとイスに座っていたバーナビーが俺を見て 慌てた様子で手に持っていたものを隠した。
なんだ?と考えてピンっと来る。
ああ、そうだよなー。
男の一人暮らしだもんな。
一つや二つあってもおかしくないよな。
いやー、クールな男も俺達と変わらないって事だよ。
君も立派な成人男子だ。
うんうん、おじさんは嬉しいよ。

「何、にやけているんですか。気持ち悪い」
「おーおー、気持ち悪くて結構。で、バニーちゃんは何を隠したのかな〜?」
「なっ!何も隠してなんかいませんよ」
「ふーん。その背後に回して手に持っているものを見せてほしいなー」

ギクリと明らかにバニーの身体が反応した。
必死になってバニーは持っていないとしらを切る。
バレバレだっつーの。
俺は手を伸ばし隠しているものを奪おうとするがバニーはそれを避ける。

「ちょっと、止めて下さいよ」
「隠す事ないだろ。俺にも見せろよ」
「だから隠してないっていってるでしょう!?」
「お前なー往生際悪いぞ。大丈夫だって。みんなには黙っておくから」

再び手を伸ばした時、ずきんっと肩に痛みが走った。
やべっ。
思わず肩を押さえて痛みに耐える。

「まさか、傷が?大丈夫ですか?」

バニーが心配した声を上げた。
俺は、手をひらひらと振る。

「あー、大丈夫。心配してくれてんのか、嬉しいねぇ」

にやりと笑うと言葉に詰まったバニーがせわしなく視線を動かしている。
よし、隙ありっ!
今度こそバニーの手にあるものを奪おうとした。
しかしそれよりも早い動きで避ける。
くそ、あともう少しで取れたのに。
だがちょっとだけ手に持っているものが見えた。
焦げた布?

「エロ本じゃねえの?」
「は?」
「今必死に隠しているやつだよ」
「な、何を馬鹿な事を言っているんですか!」

むきになって言い返して来た。
あーあ、ホント残念だ。
それにしてもなんで焦げた布なんかを俺から必死に隠そうとしてるんだ?
疑問に思っているとバニーが足早に俺の横を通過してリビングを出て行こうとする。
ドアが開くと振り返り、水いりますか?と聞かれた。
その途端に喉が渇いて来る。
肯定すると持って来るのでそこで待ってて下さいと言ってバニーは出て行った。
俺は一人部屋に残される。

「そういえば……俺、なんでバニーの家にいるんだっけ?」

腕を組んでうーんと首を傾げた。




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