「え?俺を渡された?」
「そうですよ。ちょうどバーに行ったら酔い潰れている貴方を背負ったロックバイソンさんに 出会って渡されたんです。相棒だからって」

ミネラルウォーターのペットボトルをバニーから貰ってぐびぐびと飲んでいるとそんな話しになった。
なんだよ、ロックバイソンのやつ。
親友の俺を家まで送り届けてくれてもいいんじゃねえか?

「そういえば……バニーさ、最近あのバーに行ってるよな」
「え?」
「前は来てなかったじゃん」
「べ、別に僕がどこに行こうと自由じゃないですか」

まあ、そうだけど。
飲み過ぎて他人に絡むような事はするなよと注意しておく。
すると、酔い潰れた貴方に言われても説得力がないんですがと言われ、僕は酔っても人に 絡む事はありませんと否定して来た。
ん?前半はまぁその通りだなと思うが後半部分は聞き捨てならないぞ。
絡む事はありませんって、まさかお前っ。
バニーを思わず凝視してしまった。

「自覚してなかったのか?」
「何を言ってるんです?」

その時の記憶はなくても絡む事は誰かから聞いたりして知っていると思っていた。
これは一応言っておいた方がよさそうだ。

「バニーが酔うとどうなるか教えてやろうか。お前、絡んでくるんだぞ」
「絡む?」

俺は、うむっと頷いた。

「どう絡んでくるんです?」
「どうって……」

俺の脳裏に鮮明に蘇るあの夜の出来事。
バニーの綺麗な顔が近づいて来て……俺の口に…。

「ッダ!!」

なんでこれを思い出すんだ俺は!!
頭を抱えて地団駄を踏んでいる俺に呆れた視線を向けているバニーが ふぅっと溜息を吐く。

「まったく言いがかりをつけるのは止めて下さい。貴方こそ……」

んあ?俺?
きょとんっとした顔でバニーを見ると顎に手を当て視線は横に向いて考え込んでいた。
ふと、こころなしか頬が赤く色付いてきたような。
どうしたんだ?

「バニー?」

俺が呼ぶとハッとした表情になる。

「と、とにかく貴方の方が酔うと酷いんですから気を付けて下さい!」
「酷いって……」

俺もまさか絡んでくる系とか?
それとも他にやらかしているのか?
でも、それを友人達から聞いた事はないんだけどな。
飲み過ぎて吐く事はあるが……。
それを心配して聞くが吐いたりはしてなかった。
じゃあ、一体何が?
しかし何度聞いてもバニーは結局教えてくれなかった。
なんだよ、気になるじゃねえか。

「ま、迷惑かけちまったみたいだな。悪かったよ」
「僕も以前、貴方にお世話になりましたらお相子です」

バニーはいつものツンっとした態度に戻った。
俺は肩を竦めてその場に座った。
今日は休日だからあの日のように会社に慌てて行く必要もない。
別に予定も入れてないので休日をどう過ごそうかと考える。

「ちょっと、おじさん。どうして座っているんですか。このまま居座る気ですか?」
「あ?なんだよ、お前は用事あるのか?」
「いつも言ってますけど、僕は貴方と違って暇じゃないんですよ」

なんだ?なんだ?
もしかして……デートか?
にや〜っと笑いながら突っ込むと違います!と速攻で否定された。
寂しいねえ…と思いながら見ているとバニーが目を細める。

「その同情したような顔、止めてもらえませんか」
「だってよ、お前もてそうなのに彼女の一人もいないのかと思って。あ、あれか? お前、兎なだけに草食タイプ?だめだぞー男なら好きな相手には押して押して押しまくれだ! ワイルドに行かなくっちゃな!」
「何がワイルドですか…言ってて恥ずかしくないですか?」

せっかくアドバイスしてんのにその馬鹿にしたような目は止めろよ。
俺は立ち上がると腰に手を当てビシリとバニーに指を突き立てた。

「じゃあ、予定っていうのを聞かしてもらおうか」
「なんでいちいち貴方に予定を言わなきゃいけないんですか。僕のプライベートに 入って来ないで下さい」
「あ、おい」

バニーがリビングを出て行こうとしたので後を追いかける。

「バニー」

玄関のドアを開いたバニーが振り返った。
さあ、家から出て下さいと手で促される。
俺はわざとかわいこぶる演技をした。

「バニーが言わなきゃ出て行かないもんっ」
「もんって……。いい大人が気持ち悪い」

ドアに貼りついていやいやと首を振っていると俺の粘りに諦めたのか、はーっと溜息を吐いた バニーが今日の予定を教えてくれた。

「探しもの?」
「そうです」
「なんだよ、まだ見つかってなかったのかよ」
「……正確に言うなら情報ですけど」

情報って……。
もしかしてウロボロスの?と聞くと肯定した。
こいつ…。
そうかあの時、外で見掛けたバニーが人に聞いていたのはウロボロスの事だったんだな。
きっと最近始めた事じゃない。
ずっと昔から続けてんだろう。
俺は自然に手を伸ばしバニーの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「や、止めて下さいよ」
「よーぉっし、朝食を食いに行こうぜ!」
「は?今の会話の流れでどうしてそんな話しになるんですか?」
「情報集めの前に腹ごしらえだ」
「ちょっと、待って下さい。まさかおじさんもやろうとしてるんじゃないですよね!?」

慌てて確認を取って来るバニーに俺はニヤリと笑った。




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