『虎徹さん、虎徹さん』
『んーーー』
『酒瓶抱えて寝ないで下さい。ああ、栓もしないで……零れますよ』

バニーが一升瓶を取り上げようとするが俺はなかなか離そうとしない。
そういえば俺の『虎の尾』はどこに?
きょろきょろと散乱している酒の中を見れば一升瓶が転がっていた。
ッダ!!
中身は無事か!?
後で飲もうと思って全部は飲まなかったのに!!
ショックで固まっているとカメラからバニーの焦った声がする。

『ちょっと、虎徹さん!?』
『俺の、それ俺の〜』

バニーに一升瓶を取られた俺は何とか取り返そうと手を伸ばしていた。
しかしかなり酔っているせいかまともに動けていない。
それなのに俺から遠ざかろうとしたバニーを逃がすまいとタックルした。
その衝撃でバニーが転び俺もその上に乗るように倒れた。

『あ、お酒が!!』

バニーの腹のあたりに酒がびしゃりと掛かって手から離れた一升瓶は画面外に消えて行った。

『はー、ジャケットを脱いでおいて良かった。……虎徹さん?』

俺はバニーの上でもぞもぞと動いて腹のところで顔を埋めている。
酒の匂いがすると呟きバニーの黒いTシャツを胸のところまで捲り上げ再び顔を埋める。

『何をしているんですか!?』

ホントに何やってんだ?俺。

『酒、俺の〜。どこに隠したんだよ〜』
『ちょっと、顔を動かすの止めて下さいっ』

腹のところでぐりぐりと顔を押し付けるように動かしている俺をバニーが 引き剥がそうとする。
しかし俺はだんだんと下に移動して行く。

『匂い、する。酒の匂い』

酒で濡れているバニーの下腹部をベロリと舐めた。
続けて酒を舐め取るようにペロペロと舐めている。

『こ、虎徹さん……ッ』

バニーはそんな俺の姿を見て口を手で押さえている。
おいおい、蹴っていいから止めろよ!
自分自身でやった事とはいえ顔が引き攣る。
思わずカメラを掴む手に力が入った。
この後の自分の行動が予想も出来ずというかしたくもないが……。
ハラハラしながら画面を見ていると俺の動きが止まっていびきをかき始めた。
どうやら寝たらしい。
はーーーーーっ、良かった。
バニーはそんな俺を見てよろりと立ち上がり、ふらふらとカメラの方へ歩いて来る。
セットしてあったカメラにぶつかってしまい床にカメラが落ちた。
画面は部屋のドアの方に向きバニーの後ろ姿を映し出す。
よろけながら部屋の外へと出て行ったバニー。
そこで俺はカメラのスイッチを切った。

「あ、あれはしょうがねえだろ、うん」

なんせ『虎の尾』幻の酒だぜ。
本能的に求めてしまうのは仕方がないだろ。
酒を取り上げたバニーが悪い!
そうだ!俺は悪くない!!
責任転嫁をした俺はさっさと録画を消してしまえとカメラを弄り始めた。
こんなアイツの有利になる証拠を残しておく事なんて出来ない。
『消去しますか?』の確認に『はい』『いいえ』が表示される。

「証拠隠滅っ!!」

『はい』を押そうとした俺の手が動かなくなった。
なぜなら手首をガッチリと捕まえられているからだ。

……。
………。
誰に?

一気にだらだらと冷や汗が流れ始めた。
ごくりと嚥下して横目でそぉ〜っと見ると俯いているバニーが。
その表情は見えない。
それがまた恐ろしい。
片手には『虎の尾』の一升瓶が握られていた。
まさか、それで殴られる!?
ビビった俺はしどろもどろに言い訳を始めた。

「いや〜っなんだろうな?いい酒は自然と身体が追い求めちゃうってのかなって、あはははっ!」

バニーの反応はない。
俺は笑い続けた。

「あははははっ!」

バニーの反応はない……っ!
笑うのにも限界が来て息切れをしていると突然バニーが俺からカメラを奪い、勢いよく後方へ 投げた。
カメラは音を立てて空き缶空き瓶が散乱している床に転がる。
あ〜あっ、壊れたんじゃねえか?
次にバニーは持っていた一升瓶を持ち上げた。
やべっ!殴られる!!
反射的に目をぎゅっと瞑り、両腕で顔を庇うが衝撃はやって来ない。
そっと目を開けて腕の隙間から窺い見ると……。

「バ、バニーっ!?」

バニーは直接一升瓶に口をつけてラッパ飲みをしていた。
どうやらまだ中身は残っていたらしい。
ごくごくと喉を鳴らして飲んでいく。
あああ……そんな飲み方をっ!
もったいない!!
一気に飲んだ後、息を吐き手の甲で口をグイッと拭いて俺に視線を向けた。
その強い眼差しに正直、身体が動かない。
バニーの手が伸びて来ても動く事が出来ず。
熱い手のひらが俺の頬を撫でる。
ゆっくり何度も。
身体が固まっている間に、はぁっとバニーの口から熱を帯びた息が俺の顔にかかる程、 近い距離になる。
まずい。
非っ常ーにまずい!
距離を取ろうとして失敗に終わった。
顎を掴まれて唇が触れ合った瞬間、噛みつかれるように口を塞がれた。
同時に舌も入ってくる。

「む……っ!?……んん!!!」

唾液に混じって『虎の尾』の香りが広がる。
この酔っぱらいめ!
ぞわぞわする感覚に耐えきれなくなってバニーの舌を噛もうとした。
しかし寸でのところで舌が咥内から出て行く。
バニーは再び一升瓶に口を付け酒を含ませると口移しで無理矢理 酒を流し込んできた。
思わずごくりと飲んでしまう。
その時足を掛けられて体勢が傾く。
転ぶっ!と思ったがバニーの腕が俺をしっかりと支えていて身体を床に打つことはなかった。
しかしそのまま倒される。
俺の脚の上にバニーが跨る格好で。

「バ、バニー?」

名前を呼ぶとバニーがふわりと笑う。

「バ……二―…?」




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