なぜか俺は今、バニーのマンションのリビングにいる。
床に胡坐をかいて座りどこかに消えた家主を待っているとドアの開く音が聞こえた。
バニーが両手いっぱいに酒を持ち現れる。
そして俺の目の前にドンっと置いた。
腰に手を当てたバニーが俺を見下ろす。

「さあ、好きなだけ飲んで下さい」

バニーはまたリビングを出てどこかへと行ってしまう。
好きなだけ飲んで下さいって言われても何か飲みづれえよな。
何気なく近くに置かれていた一升瓶を手に取った。
ん?
こ、これはっ!
ラベルを見て目を見開いた。

「幻の『虎の尾』!!」

入手困難な酒ベスト5に入る代物だ。
兄貴の酒店でも目にする事は少ない。
それが目の前に!
思わず一升瓶にキスをして頬ずりしていると再び現れたバニーに何してんですかと 引いた声を出された。

「おいおい、これどうしたんだよ」
「それですか?それはテレビ関係者の方から頂いたものです。僕はワインの方が好きなので 残っていたんです」
「これ飲んでいいんだよな?な?」
「どうぞ」
「やった!」

さっそくコップに注ぎ一口飲む。
くーっ、うまいっ!!
さすが幻の酒!!
芳醇な味が口の中に広がる。
その上水のように飲みやすい。
バニーにも勧めてみるとおいしいと肯定した。

「これは飲みやすいですね。香りもいい」
「そうだろ、そうだろ!」

バニーが俺を見てプッと噴き出して笑い出した。

「何だよ」
「だって、虎徹さん。すごくうれしそうだから」

むぅっと唇を突き出してコップに酒を注ぐ。
どんなヤツだってこの酒を目の前にしたら頬が緩むってんだ。

「もう、お前にはやんねー」
「やんねーってそれ僕のですよ」

ふんっと顔を逸らして一升瓶を抱えてぐいっと煽った。
くすくすと笑う声が聞こえてくる。

「そうだ。適当にデリバリーしましたからね」
「悪いな」
「いいえ。僕が無理矢理虎徹さんを連れて来てしまったんですから気にしないで下さい」

そう、そうだよ。 もともとロックバイソンと飲むはずだったんだ。
まあ、幻の酒を飲めた事だし良しとするか。
グビッと飲みながら視線を何気なく移動させると俺の目にさっきまでイスのサイドテーブルに なかったカメラが映った。

「カメラ?」
「ああ、それは後で使います」
「後で?何か撮るのか?」
「ええ。虎徹さんを」

は?俺ぇ!?

「と言う事でどんどん飲んで下さい」
「おい、と言う事ってどういう事だよ」
「カメラで飲み過ぎた虎徹さんを撮影して見てもらいます」

そうしたら分かってもらえるでしょう?と同意を求めてくる。
撮ったところでおもしろいものなんか映らねぇよ。
ま、それでこいつの気が済むならいいか。

「いいぜ、映せよ。だが何もなかったら禁酒とか言ってくんなよ」
「ええ、いいですよ」

余程自信があるのか余裕の態度で肯定した。
そんなこんなでこの後、散々普段飲めない良い酒を飲みまくったんだと思う。
なぜ『思う』なのか。
それは記憶が途中から無くなっているからだ。





ふと、覚醒して周りを見渡せば酒臭い部屋の中は空き缶空き瓶が散乱していた。
その中で寝ていたらしい。
離れた場所で身体を丸めて座っているバニーが目に入った。
その格好で寝てんのか?
器用だな。
立ち上がるとまだ酒が残っているのか少しふらつく。
サイドテーブルの上にミネラルウオーターを見つけ、おぼつかない足取りで取りに行った。
飲みかけだったが勝手に飲んだ。
少しだけ頭がクリアになる。
飲み口から口を離しふうっと息を付いた。

「ん?」

イスの近くにカメラが転がっている。
拾ってディスプレイを見るとどうやら録画中のようだ。

「あ、そういえば」

俺はバニーの言う自分自身の酒癖を見るために再生する事にした。
いつの間にかバニーがカメラをセットしていたらしくきちんと映し出されていた。
イスに腰掛け数時間前の俺達を見る。
だんだん酔って来ている様子が分かるがこれといって変な行動はしていない。
早送りをしつつ見ていくとその場に寝てしまった俺をバニーが起こそうとしていた。
そこから見始める。




main next