ホームルームの後解散になり霧島は生徒会室へ葛城は新聞部へ
蒼夜は 職員室へと向かった。

「確か職員室は同じ2階にあったはず…」

迷いながらもどうにか職員室へ辿り着きノックをして仁部を探す。
キョロキョロとしていると自分の席に座っていた仁部が顔を上げ
目が合った。
ニッコリと笑い蒼夜の元へやってくる。

「やあ、塚森君」
「仁部先生、書いてきたプリント持って来たんですが」
「ああ、ありがとう。…でどうだい?」
「どうといいますと?」
「えっと、その不都合な点とか困った事とかなかったかい?」

仁部は顔を近づけ心配そうに聞いてくる。

「いえ、特にありませんが」
「そ、そうか」

どことなくホッとした表情を見せこれからがんばってと蒼夜の肩を
ポンと叩いた。
蒼夜は職員室を後にし寮に戻る事にした。
昇降口に向かう途中で中庭を発見した。

「うわっ噴水があるよ」

たくさんの春の花々が咲きそれらに囲まれるように中心に太陽の
やわらかな光をきらきらと 反射させている噴水があった。
水に触れようと手を伸ばした時ー。

「お前っ!!」

ビクリと驚き慌てて手をひっこめたがどうやら蒼夜が言われたわけ
ではなかった様だ。
中庭の奥の方に何人かの生徒がいる気配がした。
別に興味もないので立ち去ろうとしたが耳に入ってくる会話がどうも
不穏な雰囲気を出している。
うーんと逡巡した後、そろりと気付かれないように近寄った。

「我々に黙って白王子に告白したのは分かってるんだよ!」
「…っ、でも」
「比奈山様のお相手は澪様がふさわしいのだ」

5人の生徒たちが一人の生徒を囲っている。
囲まれている生徒に見覚えがあった。
確か昨日桜の木の下で比奈山といた子だった。
少年の可愛らしい顔は今にも泣きそうで歪んでいた。
5人の生徒たちの中でも一際目立つ少年が前に出た。
麗しい顔は冷たく目の前の項垂れている少年を見下ろしその傲慢な
態度は女王様のようだった。
可憐な唇から出た言葉はとても辛辣なものだった。

「お前、規律を破った者がどうなるかわかっているな」
「み、澪様っ」
「お前のような者に白王子が相手をするわけがないだろう。この身の
程知らずが」
「……うぅっ」
「お前たち早くこの下賤な者を連れて行きなさい。僕の目が穢れて
しまうだろ」

泣いている少年を残りの生徒たちが無理矢理どこかへ連れて行こうと
する。
さてどうするか。
このまま見過ごす事もできない。
青い空に浮かぶ雲を見つめながらしょうがないと肩を竦めた。

「わわわわーっ」

わざとズサーッと大きな音を立てて派手にすっ転ぶ。
一気に視線が蒼夜に集まった。

「いてててー。あ、すいません」

いきなり現れた黒縁メガネの転んだせいで頭がボサボサになっている
中肉中背の生徒に 不審な目を寄こした。
リーダー格の美しい少年が冷静さを取り戻し不快そうに顔を歪める。

「何だこの汚い者は」
「俺歩いていたら迷ってしまって、昇降口に行きたいんですが教えて
もらえ…あー!」

蒼夜に指を差された少年は驚いて涙で濡れている目を大きくさせた。
少年の小さい手を取りぶんぶんと振る。

「いっやー偶然じゃないですかっ。昨日はどうもありがとうございました」
「え…」
「スミマセンが昇降口まで案内して下さいっ!迷ってしまって辿り着け
ないのです!」

掴んでる手をぐいぐい引っ張り唖然としている生徒らに手を振る。

「彼借りて行きまーす」

蒼夜は少年と共に中庭を脱出した。












ずんずん廊下を突き進む。

「我ながらうまくいったぜ」
「ちょ…」
「俺役者なれるんじゃん?」
「ちょっと!」
「え?」
「どこまで行く気!?」

少年に言われて蒼夜はピタリと止まった。
辺りを見渡すとぜんぜん見た事ない場所に来ていた。
あれ?と首を傾げると掴んでいた手を振り払われる。

「君、何余計な事してるの。助けてくれなんて言ってないでしょ」
「だって泣いてたし」
「…っ!泣いてなんかない!」

きびすを返して走り去ろうとする少年を呼びとめようとしたが名前が
分からない。
記憶をフル回転して比奈山が言っていた名前を思い出す。

「待って!えーと、た、た、田丸君!!」
「違うっ田中だ!」

思わず田中は振り向いて反論した。

「…おしい」
「おしくない!ーあ」

いつの間にか蒼夜に再び手を掴まれている事に気づくと田中は
溜息を吐いた。

「田中君、本当に悪いんだけど昇降口まで案内して下さい」
「本当に分からないの?」
「うん。俺転入生で昨日来たばっかりなんだ」
「どこかで見たことあると思っていたらあの時の…あれ聞こえてたよね」
「あーまぁ」

蒼夜はその時は分からなかったがあれは告白して断られていた会話
だったのかと 今になって理解した。
まさか男が男に告白するなんて一欠けらも思わないので無理もない。

「そっか」

あまりに寂しく笑うので蒼夜は力の加減を忘れてパンと背中を叩いた。
その衝撃に田中はむせる。

「元気出して下さい!もっといい人他にいますよ!」
「…僕はあの人以外考えられない」

下を向く田中に大きい声でマジで止めとけ、あいつは絶対裏があると
言いたかった。

「そう言えばさっき中庭にいた人は誰?」
「えっそうか、転入生だもんね。あの人は3年の姫の沢野澪様だよ」

確かに美しかった様に思える。
男にしとくのがもったいないぐらいの麗しさだった。
だがあの態度は頂けない。
人を見下すのは蒼夜が嫌っている事だ。
背の低い田中は蒼夜を見上げた。

「君も気をつけて。比奈山君に近づく者には容赦しない人達だから」
「田中君は大丈夫なのですか?」
「うん…」

田中はフルっと身体を震わせて無理に笑って見せた。
そしてまっすぐ指を差す。

「ほら、あそこが昇降口だよ」
「あ、本当だ」
「じゃあね」
「あ、田中君」

田中は蒼夜を残し走り去っていった。
蒼夜は頭をガシガシとかいてうーっと唸る。
このままで終わらないと蒼夜のカンがそう言っている。
さーてどうするかなーと考えつつ寮に戻った。




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