一方蒼夜はまず華美で繊細な造りの講堂の中をそろそろと進んで
いく。
前にステージがあり備え付きの座席がある。
一瞬、土足でいいのかと躊躇ったが周りの生徒が普通に靴でいる
ので 大丈夫だと思いつつ 自分のクラスの座席へと向かう。

「ここでいいのか?」
「お前2−B?」

横から声を掛けられ見るとピョンピョン跳ねている黄色い髪をピンで
あちらこちら止めている 一見軽そうな生徒が立っていた。
蒼夜と同じくらいの身長で顔立ちは比奈山程ではないが整っている
方だ。

「え、ああ。って何か…?」

じーっと見つめられて蒼夜は眉を寄せた。

「んー?お前見た事ないんだけど…」
「俺、転入生なんで」
「うおっマジで!?俺、葛城千秋ってんだ。よろしく!俺も2−B
だぜ」
「僕は塚森蒼夜です。よろしく」
「後でインタビューさせてくれよ」
「インタビュー?」
「俺、新聞部なのよ」

葛城は笑いながらシャッターを切る真似をする。
これやるよと前号の記事を貰った。

「一部200円で売ってるからさ。欲しい時は言えよ。ちなみに情報が
欲しい時は時価で相談 に乗るからな」

蒼夜と葛城が隣同士で席に着席するとアナウンスが流れる。

『まもなく始業式を始めます。席についていない生徒は自分のクラスの
場所へ着席して下さい』

まず先生の挨拶から始まり校長の話が終わると周囲がざわめき始めた。
何だ?と辺りを見渡すと生徒たちはステージに注目している。
隣で葛城が囁いた。

「ロイヤルのお出ましだぜ」
「ロイヤル?」
「そ。生徒会メンバーの事を別名ロイヤルファミリーって呼んでんだ」

舞台袖から生徒が出てきた。
あれは。

「霧島…」
「知ってんの?霧島葵。ロイヤルの書記」
「書記なの?」
「そんでもって天使の癒しのほほ笑みを持つ白姫さ」
「白姫?」

あちらこちらから黄色い悲鳴が聞こえてくる。
と言っても低い男の声だが。

『皆さんおはようございます。これから生徒会長から挨拶があります』

霧島が舞台から消えると入れ違いに生徒会長が現れた。
そのとたん歓声に包まれる。
挨拶が始まるとさらに歓声は大きくなる。
蒼夜は目を丸くした。
前の学校では生徒会長が出てきただけでこんな反応はまずありえない。

「あの人凄いの?」
「ああ、キングだからな」
「キング?」
「生徒会長は別名キング。絶対の決定権を持っている。しかもキングに
なるのは家柄も一流で容姿も成績も良くカリスマ性を持っていないと
なれないから生徒達にとってみたら憧れなんだよ。ちなみにあの人は
三島秀斗。三島財閥の跡取りさ」
「へー」

蒼夜はステージに目を向ける。
確かに比奈山とは違う美しさだ。
その場を華やかにするような中性的な容姿をしている。

『ーさて、私たち生徒会の任期も残すところ僅かとなりました。皆さんに
いくつか公約した事は全て実行出来たと私たち生徒会は思っています。 9月に新生徒会の選挙があります。今年3年の会長の私を含め
会計の間山、書記の雪谷は最後の生徒会活動となりますが秀聖学園
をより良くし皆さん自身の学園生活の向上の為にも新しい候補者達の
選挙への協力を願います』

三島はそこで言葉を切ると生徒たちに向ってほほ笑む。
再び生徒達から歓声が上がった。
三島が立ち去っても歓声が止む事はなかった。

「何かスゲー」

思わず素に戻ってしまい蒼夜はヤバッと手で口を覆った。










始業式も終り生徒達はこの後各々のクラスに移動した。
蒼夜は葛城と共に2−Bへと向かう。
その途中で色んな話しを聞くことが出来た。
さすが新聞部だけあって詳しい情報を持っている。
その中でも驚いたのが比奈山が生徒会の副会長だった事だ。
当時一年生で副会長に選ばれかなり話題になったそうだ。
一年で会計や書記に選ばれるのはある事だが副会長以上は今までは
なかった 事らしい。
その上誰もが見惚れる美貌と長身の男らしい体付きで皆の憧れの的であった。
少し日本人離れした容姿は祖父がフランス人だったからと言う事だ。
家柄も総合病院の院長の息子で申し分もない。

「なあなあ蒼夜お前敬語なしでしゃべれねえ?」
「え、いやあずっとこんな感じなので…」
「それから俺の事はちーちゃんでも千秋でも好きなように呼んで」
「だから葛城君、聞いてます?」
「約束破るのかよー」

約束なんていつしたんだと内心思ったが葛城は何となく悪友の野崎を
思い 出させる。
まあ、コイツとなら敬語なしでもいいかと苦笑いをした。

「分かったよ。千秋」
「おお、分かってくれて嬉しいよ我が友よ。分かってくれるまでメガネ
少年と呼ばねばならなかったぜ」
「なんだそりゃ」

笑い合いながら2−Bの教室に入った。
すると一人の人物を生徒たちがそわそわと遠巻きにしている。
窓際の席で外を見ていた色白の可愛らしい美少年がパッとこっちを
見てほほ笑んだ。
心をほんわりと温かくするような笑みだった。

「霧島、君」
「塚森君も2−Bだったんだね」
「何々?二人とも知り合いなわけ?」

興味深そうに葛城が聞いてきた。
蒼夜が口を開こうとした時霧島が葛城に分からないように軽く片目を
瞑った。
昨日の経緯のは知られたくないという事か。
蒼夜にとってもあまり詮索されるとまずいので霧島に任せる事にした。

「昨日偶然に会って少し話しをしたんだよ」
「どこで会ったの?」
「寮の所でね」

葛城はふむふむと頷いた。

「へーお前いきなり白姫に会うなんてラッキーだな」
「その白姫って何?」
「1年の時に生徒間で選出されて各学年ごとに王子と姫ってのがいる
のよ。で去年はレベルが高くてさ異例で王子と姫が2人ずつ選ばれて
呼び方が白王子、白姫、黒王子、黒姫なわけ」

蒼夜は眉をハの字にして違和感を葛城にぶつけてみる。

「あのさ、ここ男子校だよね。女子生徒がいたら王子だって騒ぐのは
分かるし姫って言っても男だろ?」
「だからさ。こんな山奥じゃ何も楽しみがないわけよ。それに男同士
でもありだからな」
「何がありなんだ?」

葛城は目を大きくさせると口に手を当て一歩下がった。
そしてそうかそうかと一人でぶつぶつ言っている。
霧島は困ったように笑った。

「塚森君は知らなくていいと思うよ」
「いやいや、蒼夜のようなのも好む酔狂な連中がいるかもしれないぜ。
蒼夜は非力そうだから連れ込まれたら太刀打ち出来ないだろ」
「え、俺ケンカ売られるの?」

嫌な予感が駆け巡る。
まさか大人しそうなタイプにケンカをふっかけてくる連中がいるのか。
だとしても返り討ちにしてしまえば良い事だがそうなると平穏な学生
生活が〜と頭を抱えた。

「ケンカじゃない。やられるって話だ」
「殺られるだろ?」
「違う、犯られるだ」

目が点になった。
理解が出来ない上、思考がストップする。

「ここ男子校だよね」
「ああ」
「俺男だよね」
「女には見えないな」
「犯られるの」
「可能性を言っただけだ。中には盛るアホな連中もいるから気をつけろ
って事よ。まあお前は0.01%の 確率だと思うから平気だって」

気楽に笑っている葛城に背中を叩かれる。
項垂れていた蒼夜はハッと顔を上げ霧島を見た。

「俺よりも霧島君の方が危ないんじゃない?」
「僕には騎士団の人達がいるから」
「騎士団?」

ちょうどその時先生が教室に入ってきて会話は中断となった。
葛城が耳打ちする。

「さっきやった新聞に騎士団の事書いてあるから読めよ」
「ああ」

自分の席についた蒼夜は早速ポケットに入れた新聞を取り出し机の下
で広げて読む。
記事には学校の行事からはじまり噂話しまで書いてある。
その中に騎士団員のインタビューが載っていた。
新聞部員の質問に騎士団員は熱く語っている。
騎士団長の下に騎士団員がいて年に数回入団テストというものがある
らしい。
そして生徒会、王子、姫を護るために結成されている。
はあ、と現実離れしている状況にため息が出た。
最後に生徒会メンバーと新1年生を除く王子と姫の名前が載って
いる。
白王子と黒王子の名前を見たとき蒼夜は目を見開き大口を開けた。

『白王子、比奈山陽一。黒王子、藤堂竜司』

「あいつらが〜!!?…あ」

思わず叫んでしまい注目を集めた蒼夜はバツが悪そうにあはははーっと 笑った後、小声でスイマセンと謝った。




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