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しばらくすると車が止まりドアが開けられる。
どうやら目的の場所に着いたようだ。
黒服の男に促されるように降りた蒼夜はキョロキョロと辺りを見た。
そこは立派な竹林に囲まれた静かな所で蒼夜が立っている砂利道の先に門が見える。
前方で先に車から降りている藤堂へ由良が近寄り何か話していた。

「どうぞこちらへ」
「うおっ!?」

急に後ろから話し掛けられ、驚いた蒼夜が振り向くと近江がいた。
若干警戒しながら近江を見る蒼夜は藤堂がこっちを見ている事に気が付いた。

「警戒されていますね」
「え?」
「私があなたに何かするのではないかと思われているという事です」

また何かされんの!?と蒼夜が思っていると近江はフッと笑い、傍から離れて 藤堂の元へ歩いて行く。
入れ替わるように藤堂の傍から離れた由良が蒼夜の前に来た。

「竜司はちょっと用事があるからさ、塚森は俺が案内するよ」

そうして門を入った蒼夜の目に純和風な屋敷が映し出された。
その見事な造りと大きさに口を開けたまま蒼夜は動きが停止している。
始めて学園を見た時の驚きと同じ感覚だった。

「今入って来た門は裏門だからさ正面玄関まで少し歩くからな」
「裏門?」
「そ」

綺麗に手入れされてる庭の石畳を歩いていると時折、人相の悪い若い男達とすれ違う。
男達は由良が通り過ぎるまで頭を下げていた。
蒼夜はうーんと後頭部を掻く。
やっぱり竜司の実家って…そういう事なのか?と段々確信し始めていると どこからか蒼夜の名を呼ぶ声が響いて来た。

「蒼夜ーーー!!」
「ん?ん?あーーーー!!」

またもや由良と同じように指を差して蒼夜は叫び、 どーんっと抱き付いて来た相手を受け止めた。

「葵!?葵もここに来てたのか」
「蒼夜、ごめんね。こんな所に連れて来ちゃって…」

なぜだか、しゅんっと元気が無くなった霧島を見て蒼夜は首を傾げた。
由良は二人を見て苦笑いをしている。

「話しは家の中に入ってからにしようぜ」

由良の意見に霧島はうんと頷き、蒼夜を客間に案内した。










カポーンッとししおどしの良い音が響く。
その音を聞きながら蒼夜は厳つい男に茶ですと差し出されどうもと礼を言いつつ頭を ペコッと下げる。
ズズっと茶を飲みながら蒼夜は由良からどういう経緯で蒼夜が連れて来られたのかを 聞いている霧島を見ていた。

「近江が蒼夜を…。蒼夜、乱暴な事されなかった?」
「いや…別に」

銃を突き付けられた事は黙っていた。
それを言ってはいけない雰囲気を霧島は出している。
普段の天使と称される霧島からは想像が出来ない程、恐い顔していたのだ。

「あのさ、ここって竜司の家なんだろ?」
「ああ、そうだよ」

答えたのは由良だ。

「えっと、そのさ、この家ってやっぱりヤ…」

ガタンっと霧島が湯呑みをひっくり返した。
しかし何も反応がない。
慌てて拭く事もなければ倒れた湯呑みを戻そうともしない。
やがて湯呑みは転がって畳の上に落ちた。

「あ、葵?」

蒼夜はそっと名を呼ぶ。
ギュッと目を瞑った霧島は泣きそうな顔をして蒼夜を見た。
そして謝った。

「ごめん、ごめんね」

バッとその場を立ち上がって霧島は客間を出て行ってしまった。

「葵!?」

困惑した蒼夜は由良を見る。
由良はまんじゅうを頬張り茶を一口飲むとほっといていいと言った。

「塚森も食べろよ。赤万堂のまんじゅうはうまいぞ」
「ほっといていいって…俺がその…」

ヤクザと言おうとしたからだろうかと焦っている蒼夜をチラリと見つつ由良は 霧島が落とした湯呑みを拾ってテーブルの上に置いた。

「あいつの問題なんだよ。ここがヤクザの屋敷であって葵がその家の子供である事は 事実なんだからさ」

ん?と蒼夜は首を捻った。

「葵がこの家の子供?ここは竜司の家じゃないんですか?」

そう蒼夜が疑問を口にすると由良の視線が真剣なものに変わる。
思わず姿勢を正したくなってしまう雰囲気になった。
聞いては行けない事を聞いてしまったのだろうかと緊張していると廊下をパタパタ 走って来る音が聞こえて来た。
蒼夜は葵が戻って来たのかと思って振り向くと廊下から繋がる障子の前で人影が右往左往している。
何だ?とその様子を見ていると由良が苦笑いをして綾音さんだと呟いた。

「綾音さん?」

聞き返した蒼夜だが由良はスッと立ち上がって無言でスパンっと障子を開けた。

「何をしているんですか?」
「きゃっ…!アキちゃん。あの、そのー私ね竜ちゃんと葵ちゃんのお友達が来ているって聞いて…」

声が聞こえ、蒼夜は由良の前にいて見えない綾音を見る為に座ったまま身体をずらした。
すると下を向いて身を小さくしながら立っている可愛らしい女の人の姿が見える。




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