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身の危険を感じた蒼夜は慌てて叫んだ。

「わっ、今のは違っ!ない!女の子と寝た事なんてない!!」
「……」
「ほ、本当だって!」

これでは自分は童貞です!と叫んでいるようなものだ。
蒼夜は泣きたい気分になってくる。

「…本当だな」

恐ろしく低い声に何度も頷く。
すると比奈山は蒼夜を抱きしめた。
そして耳元で囁く。

「ではあのキスは誰としていた」
「あ、あのキス?…んむっ!」

蒼夜の唇が突然塞がれ咥内を蹂躙される。
このヤローと比奈山の舌を押し返すが絡み付いて来るそれに必死に抵抗する。
負けられねえと蒼夜は対抗心を出した。
しばらくしてするりと比奈山の舌が蒼夜の咥内から出て行った。

「童貞の蒼夜がなぜこのようなキスは慣れている」
「どどど、童貞って言うなよっ!!」

はっきりと言われて蒼夜は恥ずかしくなり比奈山を睨みつけた。
だがそれ以上に睨んでくる比奈山にだんだんたじろいでいき最終的には視線を逸らしてしまった。
これは蒼夜の中で負けを意味する。
悔しいぃ〜!!と心の中で地団駄を踏んでいると顎を掴まれ無理矢理視線を合わせられた。

「蒼夜」

はぁと溜息を吐いた蒼夜は酔った姐さん達にされてしまっていたと藤堂の時と同じ説明をした。
別に遊んでいた訳ではないと言う事も。

「そ、そんな事を知ってどうするんだよ」
「それなりの対処をする」

対処?
対処って何する気だと蒼夜は冷や汗が流れる。
とてつもなく姐さん達の身に危険が感じられて反対をした。

「ダメだって!お前、一体何する気だよっ」
「俺の蒼夜に傷を付けた責任は取ってもらわないとな」
「いや、俺はお前のものではねーし!ってその物騒な空気を出すな!」

比奈山の身体から黒いものが漏れ出ているのを感じ取った蒼夜はバタバタと手を振り 拡散させる。

「いいか!姐さん達に何かしてみろ!お前とは絶交だからな!」

必死になって訴えると「分かった。しない」とあっさり引き下がる。
簡単に引き下がったので蒼夜は油断できないと睨みつけた。

「蒼夜に嫌われたくはないからな。ここは我慢しよう」

比奈山の指が目をつり上がらせている蒼夜の目じりに触れ優しく撫でる。
触れられている方の目を瞑った蒼夜はふと疑問に思って聞いてみた。

「なあ、陽一は素顔の俺を見て怖いとか…思った?」
「怖い?」
「だってさ、俺を見るヤツは大抵そう思うからさ」
「だからあんなメガネを掛けていたのか?」
「まあ…な」

目つきの悪さに喧嘩を売られるという事までは言わなかった。
比奈山はほほ笑んで触れていた目じりにキスをした。
うわっと蒼夜は両目をギュッと瞑る。

「どうして俺が蒼夜を怖いと思うんだ。こんなにかわいらしいのに」

カッと目を見開いた蒼夜はコイツやっぱり頭と目がおかしいと確信する。
そして頭と目を検査するように再度念を押した。
比奈山は首を傾げる。

「そう言われないのか?」
「言われるか!」

言われるとしたら、悪魔だの、鬼だの、人殺しだのと失礼な例えばかりだ。

「そうか。それは良かった。蒼夜の魅力に気付く者がいたら排除しなければならないからな」
「は、排除…?」

対処の次は排除ですか?と顔を引き攣らせる。
そんな蒼夜に耳が痛くなるくらいゴールデンウィーク中に魅力を振りまいて見知らぬ男達 を引きつけるなと比奈山は注意する。
女ではなく男というところにかなりの疑問を抱くがここは素直にはいはいと頷いていた方が 得策だと感じた蒼夜は反論したい自分を抑えながらこの場を堪えた。




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